第2回 月経周期とコンディションの関連性

1.月経周期に伴う性ホルモン濃度の変化

 女性は、思春期(12歳ごろ)に初潮を迎え、閉経(50歳ごろ)までの約40年間にわたって月経周期を有することになります。月経周期とは、月経開始日から次の生理が始まるまでの期間と定義され、正常な月経周期は2538日です。この約1ヶ月の間に女性ホルモンが大きく増減します(図1)。
 月経周期は、卵胞期と黄体期の大きく2つのフェーズに分けることができます。卵胞期は、排卵前の期間で、後半にエストロゲンが多く分泌されます。エストロゲンの分泌により、子宮内膜が厚くなり、卵胞が成熟し、排卵が起こります。一方、黄体期は、排卵後の期間で、卵巣から排出された卵胞が黄体に変化し、プロゲステロンが分泌されます。プロゲステロンは、子宮内膜を厚くし、妊娠に備えた準備を整えます。また、プロゲステロンは、水分の貯留や体温の上昇などの症状を引き起こすこともあります。

   

2.月経周期に伴うコンディショ ンの変化

 体育系女子学生1,711名を対象としたアンケート調査では、8割が月経周期によるコンディションの変化を感じると回答しました2)。その中で、主観的コンディションが最も悪い時期として、「月経中」と「月経前」が高い割合を示しました。
 月経中にコンディション低下を引き起こす主な要因として、下腹部や腰部の強い痛みが挙げられます。一般的には生理痛といいますが、日常生活にも影響を及ぼすほど痛みが強い場合には、月経困難症が疑われます。月経困難症は、その原因によって大きく2つに分類されます(表1)。子宮内膜症や子宮筋腫などの器質的な疾患が原因となる「器質性月経困難症」とプロスタグランジンの分泌量が過剰で子宮収縮が強く生じるために起こる「機能性月経困難症」です。自分でできる対策としては、市販の痛み止めを服用することです。痛み止め服用のタイミングですが、痛みが強くなり我慢できなくなってからではなく、少し痛みが出た時点で服用するとよいでしょう。もし、市販の痛み止めが効かないほど痛みが強い場合には、子宮や卵巣に異常があるかもしれませんので、婦人科を受診してください。あまり痛くないのに頻繁に薬を飲むと、そのうち薬の効き目が弱くなるのではないかと心配する方がいますが、生理痛の場合には長くて3日間くらいですので、その後の薬の作用に影響することはありません。

 

 月経前のコンディション低下の要因として、月経前症候群(Premenstrual syndrome: PMS)が挙げられます。PMSは、月経の始まる310日前から起こる精神的、身体的症状で、月経開始とともに減退ないし消失するものと定義されています。主な身体的症状としては、頭痛、関節痛、むくみ、体重増加、精神的症状としては、いらだち、不安、抑うつなどが挙げられます。女性アスリートでは、これらの症状の中でも特に体重の増加に悩んでいる方が多いです。これは、月経前に性ホルモンが増加することが関係しています。エストロゲンとプロゲステロンは口渇感、水分摂取、腎臓の水分およびナトリウム調節に影響を及ぼすことが報告されています3)。つまり、月経周期による一時的な体重増加や落ちにくさは水分量の増加によるものと考えられます。さらに胸部や腹部の周径囲が増加、すなわち「むくみ」によって明らかな体型の変化が起こることも報告されています4)。もし、月経前に水分貯留やむくみがひどい場合には、塩分(ナトリウム)の摂取量を減らすことを心掛けてみましょう。たとえば、ハムや塩干魚などの加工食品の摂取を控えたり、調味料や調理法を工夫したりするなど、日頃の食事を見直してみてください。

3.コンディションの変化に向き合うことの重要性 

 月経周期に伴って生じる症状の種類や強さは、女性すべてが同様ではなく、個人差が大きいことが特徴です。さらに月ごとに個人内変動もみられるため、月経開始日や基礎体温を記録して、月経周期の確認や各フェーズでの体調の変化などを観察することは非常に重要です。月経周期を考慮してコンディションを管理することは、月経随伴症状の対策だけなく、月経異常の早期発見にも役立ちます。また、月経周期に伴う体調の変化を可視化することは、指導者やパートナーに伝える際にも有効です。
 今回は月経周期にフォーカスして情報を提供しましたが、ライフステージによっても性ホルモンは大きく変化します。たとえば、妊娠中は約1,000倍に増加しますし、閉経後は同年代の男性と同じレベルまで減少します。それに伴い、からだに様々な変化が生じ、コンディションにも影響を及ぼします。このような女性のからだの特性を知ることは、男女問わず必要ですが、特に女性は自分自身の体調の波を理解し、適切な対策を行うことが大切です。


参考文献
1)日本体育大学体育研究所:はじめての月経コンディショニング学,2019
2)須永美歌子:Journal of Training Science for Exercise and Sport,月経周期に伴うコンディションの変化,281),7-102017
3)Stachenfeld NS:Sex hormone effects on body fluid regulation. Exerc Sport Sci Rev 36:152-159, 2008
4)Tacani PM, et al:Characterization of symptoms and edema distribution in premenstrual syndrome. Int J Womens Health 7:297-303, 2015