第1回 女性がスポーツを安全・安心におこなうために

1.女性がスポーツを安全・安心におこなうために

 運動やスポーツを行うと、筋肉がつき、心肺機能が高まって体力が向上することやメタボリックシンドロームなどの病気を予防し、健康の維持増進に貢献することは周知の事実です。ところが、運動はやり方を間違えるとたちまち健康を害することになります。これまで行われてきたスポーツ指導の方法論は、男性アスリートを育てる視点で構築されてきました。しかし、女性のからだの仕組みは男性と同じではありません。そのため、女性のからだの特性を理解し、健康を維持しながらスポーツを継続することが重要です。
 国際オリンピック委員会は、2014年に相対的エネルギー不足(Low Energy AvailabilityLEA)に伴う種々の健康障害をまとめて「Relative Energy Deficiency in SportRED-S」と定義しました1)RED-Sは、アスリートが長期間にわたってエネルギー不足に陥ることによって引き起こされる症候群です。これは、食事によって摂取されたエネルギーが運動やトレーニングによって消費される量よりも少なくなる状態が続くことで起こります。RED-Sは男性、女性、どちらのアスリートにも起こり得ますが、女性ではLEAに加えて視床下部性無月経や骨粗鬆症といった健康上の問題を引き起こすことが知られており、これら3つの症状をあわせて「女性アスリートの三主徴(Female athlete triad : FAT)」といいます2)。 

2.女性アスリートの三主徴の予防

 女性アスリートの三主徴は、スポーツをする女性に多く発症する健康障害であり、1)利用可能エネルギー不足、2)視床下部性無月経、3)骨粗鬆症が挙げられます。これらはそれぞれ単独ではなく相互に関連しており、食事および運動の状況に応じて、健康な状態から治療が必要な状態へと変化します。女性アスリートの三主徴は、選手寿命の短縮や将来の妊孕性(にんようせい/妊娠のしやすさ)の低下につながることから、スポーツをおこなう女性にとって深刻な健康問題です。

1)利用可能エネルギー不足
 利用可能エネルギー不足(LEA)は、食事による総エネルギー摂取量から運動によるエネルギー消費量を差し引き、除脂肪体重で除することによって算出されます。この場合の「運動によるエネルギー消費量」とは、練習やトレーニング時の運動であって、日常的な動作(階段を上る、通勤のための徒歩など)は含みません。したがって、LEAは極端な食事制限によってエネルギー摂取量が低い状態というだけではなく、練習によるエネルギー消費量が過剰(オーバートレーニング)であることによって生じるケースもあります。
 エネルギー摂取・消費量を正確に測定することは難しいため、LEAのスクリーニングにはBMIを指標として判定します。BMIは、体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で算出します。この値が17.5未満であると、利用可能エネルギー不足である可能性が高いとされています。 

2)視床下部性無月経
 月経異常には様々な種類や要因がありますが、視床下部性無月経はエネルギー不足や急激な体重減少、ストレスなどによって引き起こされるため、女性アスリートに多く発症します。そのため、月経状況(①月経周期、②月経期間、③経血量)を確認し、異常があった場合には長期間放置せずに婦人科を受診しましょう。①月経周期は、月経開始日から次の月経の前日までの日数と定義されます。正常な月経周期は2538日です。月経周期異常には、月経周期が短い頻発月経(24日以内)、月経周期が長い希発無月経(39日以上)があります。もし、月経が3か月以上止まっている場合や15歳になっても初経が発来しない場合は、婦人科を受診する目安としてください。ただし、初経からしばらくは周期が不安定なことが多いため様子をみてもいいでしょう。

 ②月経期間(出血持続日数)は、37日が正常な範囲であり、出血が12日で終わってしまう、または8日以上だらだらと続くような場合は、何らかの問題が考えられます。③経血量の目安としては、最も多い日で23時間に1回程度のナプキン交換で済む場合は正常といえます。もし、経血量が非常に多くて1時間ナプキンがもたない、レバーのような塊が頻繁に混じる場合には、貧血をともなうこともありますし、子宮筋腫などの病気の可能性もありますので、そのような症状がみられる場合には婦人科を受診し、適切な治療を受けていただきたいです。
 
3)骨粗鬆症
 骨粗鬆症とは、骨量が減って骨が弱くなり、骨折しやすくなる病気です。エストロゲンは、破骨細胞の働きを抑制する作用を持つため、無月経でエストロゲン濃度が低い状態が続くと低骨密度となり、骨粗鬆症を引き起こします。女性アスリートの三主徴があるアスリートでは、疲労骨折のリスクが高まることは多く報告されています。
 実際に骨密度を測定することは専門的な測定機器がないと難しいので、前述のとおりBMIや月経の状態を確認し、もし異常が見られた場合には早めに婦人科を受診するようにしましょう。女性アスリートの三主徴は、短期間で回復することは難しく、ジュニア期から続く無月経が妊孕性に影響することも懸念されていることから、思春期を迎える前からの予防が非常に重要です。 

 次回は、月経周期とコンディションの関連性についてご説明します。 


参考文献
1) Mountjoy M et al. : The IOC consensus statement: beyond the Female Athlete Triad--Relative Energy Deficiency in Sport (RED-S). Br J Sports Med. 48(7):491-72014
2) Nattiv Aet al : American College of Sports Medicine. American College of Sports Medicine position stand. The female athlete triad. Med Sci Sports Exerc. 39(10):1867-822007