第1回 自己肯定感って何だろう 自己肯定感の低さに潜むジェンダーへの囚われ

1.自己肯定感って何?

昨今、心理や啓発関連の書籍でよく見られるようになってきた「自己肯定感」。どんな意味があるのでしょうか。「自己肯定感」とは、読んで字のごとく「自己」すなわち自分自身を「肯定」=良しと思う感覚、と言えます。「自己尊重感」「自尊心」と表わす場合もあります。『日本国語大辞典第二版』(小学館、2000年)では、「(自己批判や自己否定を繰り返して最終的に)自己のあり方を自分自身で認めること」とありました。「自分のことを良いと感じる」「自分自身で認める」とはどういうことか、具体的に述べていきましょう。なお、ここで挙げる事例やエピソードは、特定の方の話ではなく、著者が創作したものとご了承ください。

「何もかもできてすごい!」と思える人は自己肯定感が高い?

小・中・高校時代は一貫して成績優秀、地元の一流大学に進学し、有名企業に就職した女性が「いつも何かに追われているような焦燥感があって、常に上をめざしていないと落ち着かない。自分がしていることは当たり前のこと、少しでも気を抜いたら失敗するのではないかと不安でしかたがない」と語られます。「できる」とは何をもって決めるのか曖昧なものなので、他者からは「すごい!」と賞賛されることだったとしても、自分自身としては必ずしも同じ感覚とはなり得ないようです。

「女性のたどるべき道」を生きてきた人は自己肯定感が高い?

20代で素敵な人と巡り会い結婚、程なくして子宝に恵まれ、専業主婦として2人の子どもを育て上げ、子どもたちは無事に独立、これからは悠々自適の生活が待っていると思われる主婦が「子どもたちはいつまでたっても結婚せずに好き勝手に暮らしていて、こちらを見向きもしない。夫は仕事一筋で共通の話題もない。特に趣味もなく、何をするでもなく漫然と暮らしていて、何を間違えたのかと憂鬱になってくる。」と語られます。自分自身が一生懸命してきた、家事・子育てが必ずしも「自分自身を良しと思える」につながっていないようです。
このように、「自己肯定感」は自分自身が「何をしてきたか」には必ずしも結びついていないようです。

2.「自己肯定感が高い人」って?

では、「自己肯定感」が高い人とはどんな人でしょうか。以前講座などで尋ねたところ、以下のようなイメージが挙げられました。

  • 「自分」を知っている人
  • さわやかな自己主張ができる人
  • 人と違っても気にしない人
  • 自分の人生を自分で創り出す人

・・・・・
実に多くの要因が挙げられましたが、総じて「肩の力を抜いて余裕のある、自分自身を楽しめる人」とのことです。このような人になるにはどうすれば良いのでしょうか。

3.社会から期待される女性とは?

先の例にも挙げたように、特に女性は社会から期待される姿=性別役割=ジェンダーを常に意識せられています。幼少時から、「出しゃばってはいけない」「気配りをしなさい」「人には思いやりを持って接しなさい」と言われて育ってきました。常に自分よりも他者に気を配り、他者が心地よく過ごせるようにすることを期待されています。このように常に他者ばかりに目を向けていれば、「自分」を見る機会は少なくなると考えられます。また、「私が、私が」と自分自身を前面に出していくのははしたない、奥ゆかしく控えめが良いとされていれば、自己主張をする機会も持てなくなります。常に周りに気を配ることによって、「人と同じである」ことに安心感を持てても、「人と違う」ことには不安を感じます。これらのように「他者優先」していれば、自分の人生を自分で作り出す機会もほとんど持てないでしょう。

4.ジェンダーの意識に潜む自己肯定感の高/低

社会から期待される男女の役割=ジェンダーについてもう少し見ていきましょう。

上記の表は、「男らしさ」「女らしさ」を表わすものとしてよく出てくるキーワードです。ほとんどの方が左記を「男性」、右記を「女性」とみなすことでしょう。
人の役割として左右を入れ替えても支障がないにもかかわらず、このような「性別役割」は社会に根強く浸透しています。
さらに、表のそれぞれの項目を比較してみてください。どちらが社会的に「優れている」と考えられますか?

  • 「家事・育児・介護」をするのは当たり前で誰でもできること、それに比べて「仕事」をすることはりっぱなことだ。
  • リーダーシップがある、活発である方が、従順、おとなしいことであることよりも優れている。

等、社会から期待されている「男性像」の方が「優れて」おり、女性が期待されている役割には、「取るに足らない」とみなされることが現状では多く見受けられます。これでは、女性たちが社会から期待される役割を遂行してもその役割自体が「たいしたことがない」と捉えられてしまうので、自己肯定感を高めることになっていきません。一方で男性も、「外で仕事をする」中では競争を強いられ、集団をまとめ上げ牽引していくリーダーシップの手腕を求められることが多くなります。そうすると、その期待される役割に見合っているかの評価に常にさらされることになり、自分のことを「良し」とはなかなか思えなくなります。これらのように、現代社会においては男性・女性共に「自己肯定感」を高める機会を持つことが少なくなっていると言えます。「自己肯定感が低い」のは、個別の問題ではなく社会的な問題とも言えます。

5.自己肯定感が低いとどうなる?

では、自己肯定感が低いとどうなってしまうのでしょう。自分のことを「良し」と思えない、「自分を認められない」という状態に陥ると、自分のことが好きになれずに自分を信じる力=自信が奪われていきます。自分自身で判断することが困難となり、どうしたらいいか混乱し、不安が増していきます。

不安なことが起きるとどうなる?

今回のコロナウィルス感染拡大に伴って、私たちは様々な情報にさらされることになりました。情報過多の現代においては、自分自身で取捨選択する必要があります。しかし自分で選んだり決めたりができずに迷っていると、「マスクがなくなりそう」となれば買い占めに走ってしまったり、自分は情報を守って自粛しているのにそうでない人を糾弾したくなったり、不安が高くなって鬱状態に陥ったりとなっていきます。

また、自己肯定感が低いことは対人関係にも大きな影響を及ぼしていきます。自分に自信が持てず、「自分はダメだ」と感じていれば、他者の方が優れていると思い、自ずと「他者優先」の方向に向かっていきます。「他者」が思っていることは直接訊くことができず「ああではないか」「きっとこう思っているに違いない」と「不合理な思い込み」をせざるを得ません。そしてその「思い込み」に基づいて行動するので、自分が一生懸命他者に尽くしているのに、むくわれないことが多かったりします。そうなると「自分が悪かった」と罪悪感を持ち、ますます他者のためにと「過剰責任行動」を行なっていきます。

対人関係はどうなる?

「パートを始めたがなかなか仕事が覚えられない。先輩からは『何でも訊いてね』と言われているが、いつも忙しそうだしこんな些細なことを訊いたら『できない人』とみなされるのではないかと思って訊けない。仕方なく見よう見まねでしてみるが、失敗ばかり。うまくやろうと焦れば焦るほど先輩たちの足を引っ張っているようで、最近は会社に行くのが怖い。」
・・・こんな悪循環に陥っていきます。

6.自己肯定感とは

上記のように見てくると、自己肯定感が「高いから良い」「低いからダメ」とますます自己肯定感を低くしていくように感じることかと思います。そうではなく、自己肯定感とは高めることによって、自分が窮屈な思いをせず、自由にしなやかに過ごせるための、自分自身が生きる上で欠かせない大切な感覚と言えます。たとえ自ら望む形ではなく社会から期待された役割を担っていても、それを自分自身が誇らしく思うことができれば、より豊かに人生を謳歌することができるのではないでしょうか。自分を大切に、慈しむことができることによって、他者に対しても大切に思い、思いやりを持って接することができると考えます。