第2回 シングルマザーの孤立と貧困 おせっかいなおじさん、おばさんのいる地域づくり

 新型コロナがシングルマザーを直撃しています。「一日一食」「4月、5月の収入ゼロ」 との報告もあります。ウィメンズネットこうべは普段からDV被害女性の支援とともにシングルマザーの生活再建を支援しており、DV被害女性や困難を抱えるシングルマザーと子どもの居場所―WACCAの運営や、フードバンク等と協働で、月1回、母子家庭への食糧支援等もしています。学校が休校になったあたりから、「就職の内定が取り消しになり、子どもも4人いて食べ物に困っています。」
「働いていますが、収入が低いため、子どもは就学援助を受けています。休校で昼食代に困っています。お米だけでもお願いします。」
等の相談が相次いでいます。
 日本の子どもの貧困率14%が問題になりましたが、母子家庭の貧困率は平時でさえ50%を超え、先進国で突出しています。もともと貧困世帯が多かった母子家庭が、新型コロナウイルスの感染拡大の影響でより深刻な状況に陥っているのです。日本のシングルマザーの8割は働いており、これは先進国でトップクラス。しかし、48%がパートやアルバイトといった非正規雇用であり、平均年間収入は少なく243万、4割は貯蓄がありません。養育費を受け取っているのはたった24%に過ぎません。ウィメンズでは5月から「WACCA エール便」として、食糧やお菓子を箱につめ、支援を求める母子家庭に送っています。6月から、WACCA♭(フラット)を開設し、フードパントリーを設置、食糧の配布や生活相談等も始めました。 ところで、当団体では、2019年にDV被害を経験したシングルマザー18人に聴き取り調査を実施しています。調査報告書から、シングルマザーの生の声、貧困と孤立の実態、彼女たちが求める支援等を紹介し、私たちにこれから何が出来るかを、共に考えて頂けたらと思います。

※フードパントリーとは・・・ひとり親家庭など様々な事情で食事が十分にとれない人々に食料を提供する活動及びその拠点のこと

1 経済・住宅・精神的ケアの総合的支援

  (1) 経済的問題
―調査協力者の多くが非正規雇用であり、月収は平均8万円。朝から夕方までフルタイムで働いており、 子どもと過ごす時間は朝の1時間、夜1時間程度しかない家庭も少なくありませんでした。

  • Aさん
    「離婚後、あまりの貧困からストレスで体調が悪くなった。実母から『親やから我慢しないと。あなたしかいないんだから』と言われたので我慢していたが、眠れなくても仕事をしなくてはいけないし、私自身がうつになり、精神的バランスを崩した。何もしたくない、働いて、息吸って、寝る、という生活が何年も続いた。」

 彼女たちは、限られた収入の中から、家賃を含む生活費や子どもの学費等を捻出しています。心理的なケアを受ける時間的余裕もありません。「私たちは、暴力か貧困しか選べないのですか?」との言葉が忘れられません。暴力の被害者が、仕事も人間関係も全てを捨てて逃げなくてはならない現状は理不尽です。

  (2) 居住問題
―DVから逃れるには、安心して暮らせる住居が不可欠。しかし、居住支援が充実しているとは言えません。

  • Bさん
    「DVで家を出たいと思ったときに、すぐに入れる公営住宅が欲しかった。それがあればもっと早くに暴力から逃れることができたと思う。」
  • Cさん
    「離婚後、 1歳半の子どもと二人きりになったことで、将来への不安で眠れなくなり、頭痛や吐き気もあった。まともに物事が考えられなくなって、精神科に通った。実家に帰ったが、もともと夜泣きの激しい子どもだったのが、 環境が変わったせいか、夜泣きがさらに激しくなったため、家族に迷惑をかけ、父の機嫌が悪化し、実家にもいられなくなって家を出た。お金のことや住居のことなどで悩むことがたくさんあった。身内に申し訳ないという気持ちが強くつらかった。」


     多くの母親が、所持金が少ないため、家賃の安さで選ぶしかなく、一人になる空間のない狭い部屋で子どもと常に密着した状態で暮らしています。子どもの環境を変えたくないと望むが、夫から遠く離れて生活することを余儀なくされていました。イギリスでは、DV被害女性には住居と経済的支援とカウンセリングを提供するのが自治体の責務とされています。また、女性が元の家に住み続けことを望むなら、加害者である夫が家を出て、家賃を支払わなければなりません。住居があれば、精神的にも落ち着いて仕事への意欲も高まります。日本でも、加害者こそ立ち去り、被害者が地域に住み続けられる制度が必要だと思います。

  (3) 心理的問題
-多くの母親が子どもの年齢に応じたカウンセリングを望んでいます。子どもが心に深い傷を負ったまま成長することで、大人になってから加害者や被害者になる可能性さえ危惧されます。しかし、母子ともに、カウンセリングを受ける時間的・金銭的余裕はなく、公的支援も少ないのが現状です。


2 母子双方への支援 ―母子孤立の防止、夜間・病児保育、追い詰められた母への支援

  (1) 保育の問題
―シングルマザーは、生活の担い手として長時間働いています。子どもとの時間を捻出するため、または職種によって夜間勤務を行なっており、夜間保育の必要性も語られています。

  • Dさん
    「ストレスをどうしても子どもにぶつけてしまった。一日数時間でも無料で子どもを預かってくれるところが欲しかった。」
  • Eさん
    「ヘルパーの仕事で月4回は夜勤になることがあり、小1~小3の期間、子どもを一人で家に置く のがとても不安だったが、経済的に仕方なかった。子どもも不安がった。テレビのニュースなどで、 子どもが殺される事件が報道されると、非常に怯えて敏感になっていた。可哀そうだった。 低料金で夜間の保育が欲しかった。幼い子どもがいる母子家庭に経済的支援がもっとあればよいと思う。」

  (2) 追い詰められた母の現状
―調査から、シングルマザーの孤立と、追い詰められたギリギリの精神状態が明らかになりました。

  • Fさん
    「必死で働いていて子どもと過ごす時間もなく、夜勤のときは、子どもに不安や寂しい思いをさせたと思う。」
  • Gさん
    「子どもも不安からか、夜眠るときに、私の背中を足でぐりぐりしてくるから眠れなくてしんどくて。 あまりに睡眠がとれないので、殺してしまいたいと思ったことも何度もあります。」

  (3) 限定的な母子支援体制の現状
―現在使えるサポートや相談が平日の昼間だけであったり、事前予約であったりすることに対して、24時間必要な時に助けてほしいという声が多く聞かれました。

  • Hさん
    「事前予約の手続きが必要なく、助けてほしいときにすぐ助けてくれる制度があればいいのにと思う。いつ何があるかわからないので、事前予約が必要だと利用しにくい。」
  • Iさん
    「『今 どうしても子どもを殺してしまいそうです』というときには、市内にひとつ、駆け込める家があった り、 24時間体制で子どもを預かってくれたりするところが欲しかった。」

3 第三者としての、親以外の大人の存在の必要性 ー子どもと関わる第三者の存在の必要性
―今回の調査では、親以外の第三者との触れ合いや接する機会を希望する声が多く寄せられました。

  • Jさん
    「DVで離婚し、隠れて住んでいるため、非常に孤立しがちだ。親も孤独、子どもも孤独。 離婚や別居したときに、地域の支援が必要。母子になったときに、ボタンを押せば支援員が来てく れるような制度があればと思う。」
  • Kさん
    「ほかの大人とのかかわりがあってほしい。子どもは母以外と接していないので、ほかの大人とどのように接するかわからない。特に男性との関わりが少ない。」

 今回の調査を通して、DV被害を経験したシングルマザーとその子どもたちへの子育ての支援が不十分だと痛感させられました。低収入にも関わらず生活保護を受けていないシングルマザーが数多くおり、さまざまな困難を抱え非常に疲弊しています。子どもと離れて過ごせる"レスパイトタイム"(一時休息のための時間)があればと思いました。これは実際、災害時に幼児を抱えた母子に提供されています。
 また、子どもが親以外の信頼できる大人と繋がることを、強く願っているということも明らかになりました。幼児を抱える母親は、自分に何かあったら子どもがどうなるかという強い不安を持っています。貧困+孤立した子育てから母子を救うには、地域のあたたかい見守りや居場所が重要であり、母親たち自身もそれらを望んでいます。母子家庭への偏見や差別をなくし、疲弊している母親には「大変だね。よく頑張ってるね。」と声をかけ、みんなで子どもを育てる、たまにご飯を一緒に食べたりできる、そんなおせっかいなおじさんやおばさんのいる地域であって欲しいと心から願います。

参考文献:DV被害を経験したシングルマザーと子どもに関する実態 聴き取り調査報告 2019年 ウィメンズネットこうべ発行