第2回 高齢女性の貧困と支援の実態 その2

1.はじめに

 前回、高齢女性の貧困についてデータをひもときながら考えた。具体的には下記のように、男女で比べたときに女性が非正規労働者でることや、低所得になりやすいこと、その結果として貧困におちいりやすいことが見えてきた。

(前回のおさらい)

  • 「非正規の職員・従業員として初職に就いた者」の割合を見ると、2007年10月から2012年9月の集計で、男性が29.1%にも関わらず、女性は49.3%と極めて高いこと
  • 「生涯賃金」を見ると、同じ学歴、正規・非正規等の雇用状況が同じであっても、女性の方が賃金が低く、男性の約3分の2程度しかもらえていないこと
  • 母子家庭の就労率は約80.6%とOECD諸国のなかで最も高いが、貧困率も54.6%とOECD諸国のなかで最も高い
  • 単身高齢者を見てみると、男性の単身高齢者の貧困率は38%であるにも関わらず、女性は52%が貧困である

 このように、日本社会において、女性が置かれている状況は、決して楽なものではない。多くの女性たちにとって、働く場においても、また、実際の生活においても、しんどい想いをしている人が多いことがうかがえる。では、より「高齢女性」にフォーカスして、その内実を見ていこう。

2.ある女性の話1

 ある女性の話をしよう。仮にサトウさんと呼ぶ。
 サトウさんは東北地方出身。実家は農家で、高校を出てから家業を手伝っていたが、20代前半で地元の農協につとめる男性とお見合いで結婚。しかし、なかなか子宝に恵まれず、夫の家族や親族からはつまはじきにされるようになる。夫はと言えば、外面は良いものの、酒に酔ってはサトウさんに殴る蹴るなどの暴力を振るうDV男で、暴力が日常化して困ったサトウさんは自分の母や家族に相談。しかし、夫婦の問題だ、夫も外で頑張っている、夫を支えてこそが妻の役割だ、などと取り合ってもらえず孤立。
 ある日、ついに夫に突き飛ばされて転倒しケガをして病院に運ばれ、警察に相談するも、夫婦で話し合ってください、と言われ帰されてしまう。

 このままでは自分は殺されてしまう、そう思ったサトウさんは家を出る決意をするが、お金もないし、自分の実家があてにならない以上、行くあてもない。しかし、何とか高校時代の同級生のつてをたどって、夜逃げ同然で家を出る。
 家を出たものの、家もなく、職もなく、収入もない。友人宅にいつまでもお世話になるわけにもいかない。住み込みの仕事を探し、温泉街の仲居などの仕事を転々として生活をする。

 そんなこんなで、実家とは完全に縁が切れ、10年以上も音信不通。夫とは離婚が成立し、その後、知り合った男性と内縁関係になり息子を授かるも、事実婚を解消して、シングルマザーで子どもを育てる。そして、いざ子どもが独り立ちをしたら、あっという間に50代も半ばを過ぎ、徐々に就ける職にも限りが出てくる。不安定な生活を続けたこともあり、もらえる年金は7~8万円で貯金もわずか。いまの仕事がなくなったら生活保護を利用するしかないだろう。

 サトウさんの例は少し極端かもしれない。しかし、家族や親族との縁が切れ、女性一人で住む場所や職を得るのは簡単なことではない。また、なんとかそれを得られたとしても、老後のたくわえまで用意するのは困難なことが多いだろう。本来、家族や親族などの存在は、「あたたかいもの」「安らかなもの」であることが当たり前、とされがちだが、様々な事情でそうではない関係性になってしまうこと、されてしまうことは誰の身にも起こりうる。
 そんな時に、「働く」ことで自立でき、かつ、将来(老後)の不安も解消されるのであれば良いのだが、実際には「働く」にも大きなハードルがあると言えるだろう。

3.ある女性の話2

 ヤマダさん(仮称)は、70歳代の女性だ。ある地方都市の郊外に持ち家だが小さな一軒家に住んでいる。息子が二人いて、一人はもう自立して東京の飲食店で正社員の仕事に就いているが、40代になる長男は、5年前に失職して実家に戻って以来、仕事もせず、就職活動もせず、家にひきこもっている。長男は、かつては首都圏近郊で正社員として働いていたこともあるが、在職中にうつ病を発症。過労や上司からのパワハラなどもあり、仕事を続けられなくなり退職。そして、その後、人と会うことや、人がいるところに行くことが精神的に負担になり、実家からでることができなくなった。ヤマダさんに対して暴力をふるう、などのことはないものの、部屋からもほとんど出てこないこともあり、ヤマダさんとしても長男の現在、そして、これからを心配している。

 ヤマダさん自体は、夫とともに自営業で小さな店舗を経営していたが、家内産業で生活がやっと。10年前に夫が倒れてからは店をたたみ、借金こそないものの、夫の入退院と介護でたくわえのほとんどを崩してしまった。その後、しばらくして夫は他界。いまは少額の年金のみでなんとかやりくりしている。
 現在の収入で、ヤマダさんと長男の二人の生活費をまかなうのはギリギリで、長男が仕事を見つけてくれないと経済的にはもう破綻してしまう。次男は東京で働いているが、結婚して子どもも産まれ、援助を頼める状況ではない。そして、世間体があり、ひきこもりの長男のことについて周囲に相談しにくく、地域との付き合いも徐々に途絶えつつある。生活保護も考えているが、地域の目があり、また、長男のこともあり、できれば使いたくないという気持ちもあるが、そうも言っていられない状況になりつつある。

 ヤマダさんのように、自分一人だと何とかなるが(ならない場合も)、家族の課題や困難さ(この場合は、長男のひきこもりなど)によって、生活が苦しくなってしまう人は多くいる。特に、女性は、子育てや介護、家事や家庭の諸々を結果的に、また、社会的に担うことが多いこともあり、身近な人への(主に家族)ケア役割を引き受けてしまう、引き受けさせられてしまうこともある。近年、介護離職の問題やひきこもりなどの問題がクローズアップされる機会が増えたが、ある意味、雇用からこぼれたり、社会のなかでメンタル的に傷ついてしまったりした人に対しての支えが公的に乏しいこともあり、家族や親族などで支えることも難しくなりつつある。

 このように、日本社会において、女性は、働いて一人で生活していくことにもハードルがあり、一方で、家庭や親族関係のなかでは子育てや介護などのケアを引き受けることを求められ、ほかに稼ぎ主がいるなど、経済的に安定していたら問題としては表出しないこともあるが、稼ぎ手との離別や家族の関係の悪化、暴力の有無によって、容易に貧困におちいりやすい、生活に困りやすく、孤立しやすい状況がある、と言えるだろう。

4.高齢女性の貧困とは

 貧困とは、経済的な問題と孤立の問題がセットであると語られることが多い。高齢女性の貧困率が高いということは、女性が働きにくく、それによって経済的な自立を得にくいことの証左でもある。また、女性が、家庭のなかでさまざまな役割を求められることが多いものの、まだまだ社会の理解が高いとは言えず、周囲の協力を得られずに孤立してしまうことがあることも、それに拍車をかけるだろう。

 男女平等が謳われるようになって久しいが、日本社会はまだまだ差別や格差にあふれている。そして、それを象徴的に指示しているのが、女性の貧困であり、高齢者の貧困であろう。高齢女性の貧困をどう考えるか、どのように解決を目指していくのかを考えることが、日本社会全体の貧困をどう考えるかにつながってくることは間違いがない。

 元号が変わり、新たな時代が始まるが、私たちの社会は「貧困」をなくすことができるのか。社会の在り方を考えていく必要があるだろう。