第2回 男性が知っておくべき不妊のリアル

目次

  • タイムリミットがあるのは女性だけではない!?
  • 女性のタイムリミットは年齢だけではない!?
  • 男性が知っておくべき不妊のリアル
  • 「エロ」だけではなくて、「性」を学ぶ大切さ

 前回のゼミでは「実は知らない男性不妊」のお話が中心でしたが、今回は夫婦で妊活を進めるために知っておくべき「妊活のリアル」についてお伝えしたいと思います。

1.タイムリミットがあるのは女性だけではない!?

 まずは前回の復習がてら「妊娠」に対して男性の精子が与える影響についてお伝えしたいと思います。
 「妊娠にはタイムリミットがある」なんて話を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。30代後半の妊娠ともなると「高齢出産」と言われるように、妊娠には年齢のタイムリミットがあるという認識を持っている方は多いのではないかと思います。さて、タイムリミットについては「女性だけの問題」なのでしょうか?

答えはNOです。

 以下のグラフを見てください。年齢別の妊娠率の推移を示したグラフです。
 グラフの表が三つのブロックにわかれていますが、それぞれは卵子の排卵日を「0」とした場合に、排卵前後数日間での妊娠率の変化を示しています。(ちなみに排卵日の2日前の性交が最も妊娠率が高いとされています)
 そして三つのブロックは女性側の年齢別に作成されています。見ればわかるように、女性は年齢が上がるにつれて妊娠率が低下していきます。ここで注目していただきたいのは、「水色」のグラフです。これは「男性が女性よりも5歳上の場合」の夫婦のグラフになっていますがお気づきでしょうか、女性側「35~39歳」のブロックに差し掛かると、一気に水色のグラフが示す妊娠率が低下しています。ここから分かることは、男性も「40歳頃からは妊娠させる能力が低下する」ということです。

資料1女性側の年齢別妊娠率の変化

なので、女性側の年齢が若くても、男性の方が年齢の高い「年の差婚」の場合は「妊活のタイムスケジュール」は夫婦で話し合った方が良いでしょう。

2.女性のタイムリミットは年齢だけではない!?

 前段では「妊娠は女性だけでなく男性も年齢が関係する」という話でしたが、次は女性側の「タイムリミット」は年齢だけが関係しているわけではないという話をしたいと思います。
 男性の精子は毎日作られていますが、女性の卵子の仕組みをみなさんはご存知でしょうか?実は、卵子は体内で新たに作られることはなく、体内に保有している卵子は生まれた瞬間から減り続けています。
 女性が初めて生理を迎えるころ、平均的には体内に約30万個の卵子を保有しています。それからは、毎日約20~30個程度の卵子を失っていき、残り1000個となったあたりで閉経を迎えるとされています。
 しかし、この保有数に関しては個人差が大きく、そのため若くても保有数が少ない、なんてこともあります。保有数が妊娠率に影響を与えることはないとされていますが、タイムリミットには影響を与えますので、「知り合いは37歳で出産していたし、自分もまだ大丈夫だろう」と安心はできないということは覚えておいてください。

 補足で「年齢によるタイムリミット」に関して説明しておくと、これは「卵子の質」が大きく影響しています。先ほど「卵子は新たに作られることはない」とお伝えしましたが、ということは20歳のときの卵子は「20歳の卵子」で30歳のときの卵子は「30歳の卵子」ということです。年々、人間の体は衰えていくものですので、そういう「卵子の質」という観点で年齢的なタイムリミットがあるとご理解ください。

3.男性が知っておくべき不妊のリアル

 このパートでは、いざ妊活に取り組んでもなかなか子どもを授かれなかったときに向き合うであろう「不妊治療」について、なかでも「精神的な負担」についてお伝えしたいと思います。
 不妊治療は「お金がかかる」という経済的負担や、治療に伴う「身体的負担」がもちろんありますが、もうひとつ避けられないのが「精神的負担」です。

資料2治療中の3つの負担

 上の表に書いた通りですが、不妊治療は「治療したら必ず妊娠ができる」というものではなく、「いつになったら妊娠するのだろうか」「自分は本当に妊娠できるのだろうか」と不安になり、「まるで、出口の見えない暗いトンネルを歩き続けるよう」と治療経験者は話します。
 また、この精神的負担をより大きなものにしてしまうのが「心の壁」です。不妊治療は「人に相談しづらいこと」だからこそ、親族や知人友人に対しても「心の壁」を感じてしまうことがあります。今回は、そのなかでも知人友人などに抱いてしまいがちな「妊婦への心の壁」の解説をしておきます。

 以下の表にまとめていますのでご覧ください。

資料3妊婦への心の壁

 SNSなどで簡単にコミュニケーションが取れる時代だからこそ、リアルタイムに知り合いの妊娠や出産について情報が入ってきますよね。自分たち夫婦がなかなか子どもを授かれないときには、こういった情報は精神的にしんどくなってしまうことはどうしてもあります。私も多くの不妊治療に取り組む方々の相談に乗ってきましたが、こうした「精神的負担」はとても大きいものだと感じます。だからこそ、そうした心情を互いに理解して、夫婦一丸となって支え合ってともに歩んでほしいと願っています。

4.「エロ」だけではなくて、「性」を学ぶ大切さについて

 さて、前回のゼミから2回に分けて解説をしてきましたが、ご一読いただきましてありがとうございました。「子どもを授かる」ということは、それを望む夫婦にとってはかけがえない喜びだと思います。そうした喜びを得られるように、こうした「カラダの知識」はしっかりと持っておいて欲しいのです。
 日本は、世界的に見ても「エロ」のコンテンツに溢れた国です。このゼミの読者の中にも「性に関することはほとんどエロコンテンツで学んだ」という人は少なくないのではないでしょうか?かくいう私も、恥ずかしながらそうでした。最初は空き地に落ちているエロ本から始まり、年齢が上がるにつれてインターネットや漫画などを通じて「エロ」の知識を得ていきました。
 しかし、ちゃんと「生殖機能」について学ぶようになってからは、いかに今まで自分が知識を持っていなかったか、女性のことだけでなく、自分自身のカラダのことさえも理解していなかったことに驚きました。

「僕らは、子作りのただしい知識を持たないまま大人になっている」

 そう思ったのです。
 だからこそ、こうした「ゼミ」という形で多くの方に「妊娠の仕組み」「不妊のリアル」を知っていただきたいと思い、筆を取りました。
 今回のゼミでお伝えした内容は、「知っておくべき妊活知識」のほんの一部分です。これを機に、「エロ」ではなく「性」や「生殖機能」についての知識への関心を少しでも持ってくだされば幸いです。