第1回 本音を言えずに孤立する少女たち

 ボンドプロジェクトは虐待、家出、貧困など『生きづらさ』を抱える女の子を支援するために2009年に設立しました。声を聴き、一緒に考え、その子にあった支援先へと繋いでいます。2005年からフリーペーパーVOICESマガジンを発行して、女の子たちのリアルな声を伝えたり、講演会、イベントなどでも声を伝える活動も行なっています。

 メールや電話、面談などで相談を受けたり、渋谷の繁華街を夜回りして、街をさまよっている女の子に声を掛ける活動です。

 街で出会って声をかけた女の子が「話してもいいよ」と、言ってくれたら、話を聞かせてもらう。その中で「家に帰れない、帰る場所がない」という子は保護をすることもあります。

 夜の街には危険な出会いもたくさんあります。家に居場所がなく、身近な人たちに頼れず、行く場所がない、お金もない女の子たちにとったら、誰にも迷惑かけず、自分一人の力でなんとかしようと思ったら、手っ取り早い手段として援助交際があります。今では「パパ活」「デート援」など、女の子たちの言い方もさまざまです。

 援助交際していたある20代の女の子の声を紹介します。

 「援助交際する相手は毎日違う人だよ。場所がだいたい同じ所に立ってるから『こないだの子だよね?』っていわれたりもするけどね。

 とりあえず、1万5千円くれれば誰でもいいの。年齢も知らなくていい。顔もみないよ、どうせやることは同じだから。会話?『行こうか、ホテル。』って、声かけられて、値段交渉して、近くのラブホ行くの。さすがに汚いカラダのままじゃ勘弁してって思うから『おフロはいりましょうよ』って言って相手に入らせる。で、おフロ出たあとはSEXだよ。会話もしない。前に会った客だった人から『ゴムなしだったら1万5千円プラスするよ』って言われたよ。ゴム無しで平気なのかって?『外で出して下さい』って言ってるから、中出しはしてないけど、相手からしたら気持ちよければいいんだし、私が妊娠しようが、どうでもいいんだろうね。そんなもんだよね。病気は、知らないし、べつに気にしない。やっている最中は客が精子出すと『イッた、やっと終わった』ってことくらいしか考えてないよ」

 こうやって、街に立っているところを買春目的の人に声をかけられて、値段や時間、本番ありかなし、なしの場合はプチといい、ありの場合はゴム(避妊具)あり、なしかを交渉します。お互いに条件が合えば、行為をするためにホテルへいく。出会ったばかりの人とカラダを重ねるのです。それだけじゃなく、性風俗の勧誘、性暴力の危険だってあります。そんな危険と隣合わせの刹那的に生きている女の子たち。

 なぜ、危険とわかりつつ、夜の街に出て来るのでしょうか。案外、答えはシンプルなんです。それでも「家よりはマシだから」です。

 その背景には家庭や学校などで日常的に虐待、暴力、イジメなどを受けている状況があるということです。でもそんなふうに想像できる大人は少ないかもしれません。本人たちもわざわざ、理解してくれないだろう大人には言いませんし「楽しいから家出した」と話すのです。この行動を大人は非行と呼びます。

 話を聞かせてもらい、家の状況を教えてもらった私からすれば「よく出てきたね」と、褒めたいくらいです。ただし、先ほどから言ってますが、街の中にも良い出会いと悪い出会いがあります。悪い出会いは「こんなはずじゃなかった」と、家にいる頃よりも後悔するくらい、命の危険さえも感じるような状況です。誘惑する相手からすれば「大人から守られていない」雰囲気を感じ取り、弱さにつけこみやすいのです。どこにも居場所がなく、お金もなく、生きていくのが困難で、やむを得ずさまよっている女の子たちは、嘘でもいいから優しい言葉がほしいのです。誰でもいいから自分のことを必要としてくれる人が欲しいのです。きっと、本音はそれだけなんだと思います。

 もう一人10代の女の子の声を紹介します。これはVOICESマガジンに掲載した声です。この声を聞いて感じてほしいです。

「お父さんいるし、家にいるのがイヤやったから、出会い系でつながった人に会いにいったの。家におっても安心できないし、スキンシップとったこともなかったから、人肌が恋しかったのかも知れん。 夜、一人で歩いていても、みんな通りすぎていくし、誰からもあたしは見えてないんかな?って寂しくて。自分が生きている実感がほしくて、誰でもいいからって出会いを求めた。出会い系アプリに登録して、自分のプロフィールをのせるの。15歳だったけど、18歳って。25歳までの男性からメッセが届いたら、会えそうな人に返事して、待ち合わせするの。とにかく今の状態から抜け出したいから、今すぐ会える人ならいいって感じ。近くの駅で待ち合わせして、ご飯食べて、その人の家に行って、行為するときもある。うーん、行為ってすぐになる人が多いかな、10人くらい会ったけど。あたしはそんな気なくて、一緒におってほしいだけなのにね。ご飯食べているときは『行為は好きな人とやれや』とか言っている人も、結局はそんなふうになる。『好き?』って聞かれて『嫌い』って答えたら、帰らなあかんし『好き』って言ってしまう。とりあえず受け入れちゃう。ちょっとだけ安心するから。何も感じないし、そのときの様子を覚えてないの。裸になっていて、いつのまにかヤッていて、終わっているって感じ。相手に『帰る?』って聞かれて、我に返って、洋服着て、帰り支度するの。終わればそれで関係も終わり。終わった後『はい、交通費』って2000円くれた人がおって。『あ、あたしお金もらったから、これって援交になるんかな?』ってぼんやり思った。そのあと気まずいし、連絡とらん。いつも空虚感があるの。自分で自分の状況がわからんくなる。生きているのか、生きていないのかさえも、ときどきわからんくなる。いつも寂しいよ。 夜は誰でもいいから、そばにいてほしい」

 とにかく寂しいんです。ボンドにくる相談で「死にたい」「消えたい」「眠れない」「居場所がない」と伝えてくれる子は多くいます。つらくて苦しい悩みを抱えていても具体的にはなかなか言い出すことができません。自分の気持ちを言語化できない子がほとんどです。

 毎日のように孤独や降りかかる恐怖感をそのような言葉で伝えるのがやっとの状態なんだと思います。時間を掛けて何度も話を聞いて、ようやく打ち明けてくれて、次の支援先に繋がる子もいますが、制度になかなか繋がらないのが現状です。