第2回 女性ホルモンは諸刃の剣

 前回、女性ホルモンには”エストロゲン“と”プロゲステロン“の2種類があること、またエストロゲンは「美人ホルモン」と呼ばれ、女性にとって嬉しい恩恵があるなどお話をしました。しかし、エストロゲンの分泌量が多ければ多いほどその恩恵をたくさん受けられるというわけではありません。エストロゲンとプロゲステロン、この二つのホルモンのバランスが適切に保たれていることがとても大切なのです。今回は女性ホルモンのバランスの乱れが体に及ぼす影響についてお話をしましょう。

エストロゲンが過剰になるとどうなるのでしょう?

 婦人病の代表的な疾患に子宮筋腫と子宮内膜症があります。子宮筋腫とは子宮のいろいろなところで筋肉が増殖してできる良性の腫瘍です。また子宮内膜症とは月経時にはがれ落ちる子宮内膜(子宮の内側の粘膜)や子宮内膜に似た組織が、子宮以外の場所(卵巣・骨盤内など)にできてしまう病気で、月経のときには病気の部分も一緒にはがれ落ちるので、場所によっては血液がその場所に溜まってしまいます。卵巣にできる卵巣チョコレート(別名 子宮内膜症性嚢胞)もその一つです。この卵巣チョコレート嚢腫はがん化することもあり、早期の診断、治療を受けることが大切です。子宮筋腫や子宮内膜症は、過多月経や出血による貧血、ひどい月経痛、不妊症などを引き起こしますが、エストロゲンの過剰状態が続くと症状が悪化するといわれています。これらの婦人病の症状はエストロゲンの分泌量が減少する閉経期まで続く可能性があります。
 そのほかに、エストロゲン過剰が原因のひとつと言われる病気の中で、ぜひ知っておいていただきたいものが、乳がんと子宮体部がんです。日本人女性がかかるがんの中で乳がんの割合は最も高く、ここ数年増加し続けています。女性が生涯のうちに乳がんにかかる割合は50年前が50人に1人でしたが、現在12人に1人といわれ、2012年に乳がんにかかった国内の女性はおよそ74,000人です。また、乳がんで亡くなる女性も増加傾向にあり2014年には13,000人の方が亡くなっています(図1)。最近テレビ等で若い方の乳がんもよく耳にしますが、初経が早い、閉経が遅い、出産歴や授乳歴がない、閉経後の肥満、飲酒、家族に乳がんになった人がいるといった方が乳がんにかかりやすいといわれています。乳がんの早期発見には自分の手で触ってみることが一番大切で、乳がん患者の60%がセルフチェック(自己検診)をきっかけに病院を受診しています。

図1

乳がんの罹患数と死亡数の年次推移
女の子の画像

 さて、子宮がんには子宮頸部がんと子宮体部がんの二種類のがんがあることをご存知でしょうか?(図2)かつては子宮がんといえば子宮頸部がんがほとんどでしたが、現在は体部がんが増加し、ほぼ同じ割合となっています。子宮頸部がんは20歳代後半から40歳代、子宮体部がんは更年期以降の女性に多い傾向があり(図3)、2012年には子宮頸部がん約10,900人、子宮体部がん約13,600人が治療を受けています。また子宮頸部がんはウイルス(ヒトパピローマウイルス)が原因であるのに対し、子宮体部がんの場合はその8割がエストロゲンの長期的な刺激が関連していると考えられています。閉経が遅い、出産、授乳経験がない、若い時から月経不順がある、肥満など、乳がんになりやすい人との共通点が多いです。また、乳がんの一部の治療薬や、更年期障害の治療などで長期にエストロゲン補充療法を受けている女性も子宮体部がんのリスクが高まるといわれています。

図2

女性の体の図解



図3 子宮頚部がん&子宮体部がんの年齢別頻度

  

子宮頸部ガンと体部ガンの年齢別頻度

エストロゲンが減少するとどうなるのでしょうか?

 その代表的なものは誰もが知っている更年期障害です。更年期障害は閉経前後の妙齢期にエストロゲンが急激に減少することで起きる一種の自律神経失調症です。更年期障害の症状としては、のぼせ、めまい、何とも言えない全身の不調など人によってさまざまです。またそのような不調に気付かずに過ごしてしまう方もたくさんみえます。更年期は女性の一生の中でごく一時期のもので、私たち女性が年を重ねていく通過点です。決して怖いものではありません。笑って通り過ぎるのを待つのもよし、一時的に薬の力を借りて乗り切ることもよしです。もし辛くなったら産婦人科を受診してください。エストロゲンの補充療法は効果てきめんです。もちろん私達産婦人科医は、前述した子宮内膜がんや乳がんのリスクに細心の注意を払いながら処方し、経過観察をいたします。ホルモン療法に抵抗のある人は漢方やサプリメントなどの穏やかな効果で症状を緩和してくれるものもあります。主治医に自分の気持ちを正直に伝え、自分にあった治療法を見つけましょう。

プロゲステロンによるトラブルにはどんなものがあるのでしょうか?

 プロゲステロンはエストロゲンと異なりその増減でいろいろな疾患を引き起こすものではありません。プロゲステロンは主に妊娠をサポートするホルモンであり、プロゲステロンが減少すれば、不妊や流産のリスクが高まります。

女性特有の症状で困っていませんか?

 プロゲステロンがエストロゲンより優位に分泌される黄体期には、胸の張りや圧痛、腰痛、肩こり、むくみ、便秘、頭痛、吹き出物、疲労感などの身体的に不快な症状がでます。イライラや憂鬱な気分など精神的に不快な症状を伴うこともあり、このような状態を月経前症候群(PMS)といいます。PMSよりもさらに精神症状が重く、やる気の消失、重度の抑うつ状態、絶望感などで日常生活が困難な状態になるものを月経前不快気分障害(PMDD)といいます。月経のある女性の約5%の人にPMDDが見られると言われています。PMSもPMDDも今は治療方法がありますので、症状のある方は婦人科などの専門機関にご相談ください。

 今回は女性ホルモンの功罪についてお話をしてきました。すこし、自身の体に興味を持っていただけましたか?
 さあ、次回の最終回ではいつまでも素敵な女性でいられるように、日常生活の中で自分にできることを模索していきましょう。

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