第3回 スポーツと男女共同参画について

1.日本国内の情勢

 2005年12月に発表された内閣府の「男女共同参画基本計画」(第2次)に「スポーツ」に関する項目(1.スポーツ団体における指導的地位に就く女性の占める割合を2020年までに30%とすること、2.女性の生涯にわたるスポーツ活動の推進すること)が明記されているのはご存知でしょうか。しかしながら、1999年に施行された当初の「男女共同参画社会基本法」には「スポーツ」に関する項目は全く記載されていませんでした。少なくともこの法律作成準備中まで(1998年まで)は、スポーツは男女共同参画の話し合いの場に入れてもらえていなかったということになります。
 理由はいくつか考えられますが、1.近年では、オリンピック大会や世界選手権で活躍する女性選手が大変多く、スポーツ界では男女共同参画という意識に達成感があるので話題になり得ないから。あるいは2.スポーツ組織を管理運営する男性たちは男尊女卑の考えが強いので、(男女共同参画推進運動を行う立場の人から彼らを見ると)女性の地位の向上などの話にはきっと耳を貸すことはありえないという完全な諦めムードで考えられていたからかもしれません。両極端ないずれの理由にせよ、日本初の男女平等の法律に、「スポーツ」は入れてもらえませんでした。
 第1回のこの参画ゼミでもお伝えしましたように、『ブライトン宣言』が発せられた翌年の1995年、北京において「第4回国連女性会議」が開かれました。ここで世界のスポーツ界の女性リーダーたちは、この『北京行動綱領』の中に、スポーツやレクリエーションに関わる項目を盛り込むようにロビーイング(議案通過運動)を行ないました。そして、最終的に3項目にスポーツ関連項目の決議を盛り込むことに成功しました。すなわち、国際的には「スポーツ」が男女共同参画の考え方の中で、1つの分野であることが認められ、1990年代後半には積極的な改革が進んでいたのです。そこで、この世界と日本の実態のズレに気づいた仲間たちとともに、1998年12月、ジュース(スポーツに関わる女性を支援する会)を設立し、「スポーツ」が1つの分野であるという世界的な情勢を訴えるために、日本での活動を開始しました。また、そのためには、このソーシャル・アイディア(社会的な考え方)を、実際に一般の人々の目で見えるようにするために、イベントとして表現しようと考えました。具体的には、2006年にアジアでの開催が決定していた「第4回世界女性スポーツ会議」を日本へ誘致し、日本の女性とスポーツに関する政策(スポーツ振興基本計画)に、男女共同参画という概念を入れ込むこと。また、男女共同参画という政策(男女共同参画基本計画)にスポーツという概念を仲間に入れてもらうことを念頭に入れて、ジュースはNPO法人として活動を開始しました。
 ジュースは女性とスポーツの現状を一般の人たちに知ってもらうために、様々な調査研究を行なってきました。2001年に出された「女性スポーツ白書」は日本の女性とスポーツの実態を既存のデータから集めて表したものでした。
http://www.jws.or.jp/scripts/NewsMain.asp?NewsID=256&LanguageType=J

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 また、同年に文部科学省の委嘱事業として実施した「女性のスポーツ参与支援システムに関する調査研究」では子育て期の女性のスポーツ参加に着目し、スポーツをやりたいけれどもできない現状の把握をし、今後の女性のスポーツ参加のための7つの提言をまとめました。また2004年にはJOC女性スポーツ委員会として実施した日本で初めての「スポーツ団体の女性スポーツへの取り組むに関する調査」では調査の企画・集計・分析を行ないました。
http://www.joc.or.jp/womansports/pdf/womansportsreport2004.pdf

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 そして、文科省の2000年に公布された日本のスポーツ政策の2010年までの10年計画である『スポーツ振興基本計画』に女性のスポーツの振興が含まれていないことから、2005年1月にはジュースのメンバーを中心に立ち上げた「女性スポーツネットワークプロジェクト」として「日本の女性スポーツ振興の展開方策」http://www.jws.or.jp/jpn/library/lib_2005.pdfをまとめ、中間年である2005/2006年の見直しに際して、女性スポーツの振興を加えていただくための準備を完了しました。
 女性がスポーツに最大限に関わることのできるスポーツ文化を構築するために、あらゆるレベルでの女性とスポーツに関する「変化への参加」をテーマに、2006年5月11日から14日、第4回世界女性スポーツ会議である「2006世界女性スポーツ会議くまもと」が開催され、大成功に終わりました。会議終了後(5月31日)に開催された「中央教育審議会スポーツ青少年分科会スポーツ振興小委員会」にジュースの代表として招聘され、意見を述べました。その委員会を経て、2006年9月に『スポーツ振興基本計画』の改定が発表されました。その中では、女性スポーツの推進が様々な項目で明記され、また、女性がスポーツに参加しやすい環境づくりのために、関係機関やスポーツ団体がネットワークを形成することを推進する内容も書き込まれました。1998年にジュースを発足させた時の目標の1つを達成できた瞬間でもありました。http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/plan/06031014/005.htm#top

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2.これからの取り組みについて

  1. 生涯にわたる女性の健康支援のためのスポーツ活動の推進

     2005年12月に内閣府男女共同参画局から発表された「男女共同参画基本計画」(第2次)(http://www.gender.go.jp/)に盛り込まれた「女性のスポーツ活動への参画を奨励し、女性が生涯にわたり健康を保持することを支援する」は大変貴重な文面です。なぜならば、1998年当時には考えられなかった「スポーツ」が男女共同参画ムーブメントにおいて地位を向上したことを示すものだと考えられるからです。スポーツが市民権を得たような気分でこの改定を感慨深く思っています。
     それでは、今後はどうすればよいのかということです。そのアイディアはたくさん存在すると思いますが、2001年に文部科学省の委嘱事業として実施した「女性のスポーツ参与支援システムに関する調査研究」で発表させていただいた以下の7つの提言が参考になると思います。

    図
  2. 女性がスポーツに参加しやすい環境づくりのために、関係機関やスポーツ団体がネットワークを形成すること

     もう1つの国の施策である文部科学省の『スポーツ振興基本計画』に盛り込まれたこの目標を達成するためのこれからの取り組みとして考えられることは、定期的に開催する「日本女性スポーツ会議」(仮称)を開催し、実際の取り組みの成果を確認し合う場が必要だと思っています。
     また、日常的にネットワークを構築する方法としては現在若者を中心に最も盛んなSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を用いて洗練されたウェブサイトによるネットワークを確立することだと考えています。この開発にジュースは既に着手し始めており、2007年12月末までにはおそらく皆様にその全容をご紹介できるものと思っています。
     ここでは、女性の指導者養成の課題、セクシュアルハラスメント防止の課題など、女性とスポーツを取り巻くあらゆる問題が日常的に論議される場となることが考えられます。
     着実に、スポーツにおける男女共同参画のムーブメントは前進を遂げていると感じています。しかし、ゴールを見失ってはいけないとも思っています。それは「すべての女性が公平にスポーツに関わることのできるスポーツ文化を構築すること」という『ブライトン宣言』の究極の目標です。この目標に限りなく近づけることが私たちの使命なのだと思っています。