みえアカデミックセミナー2017
福岡 伸一講演会
「生命を捉えなおす-動的平衡の視点から-」の事業報告

開催日
2017年7月1日(土曜日)
開催場所
三重県文化会館 中ホール
時間
13時30分から15時00分まで
講師
青山学院大学 教授 福岡 伸一 さん
参加人数
925名
参加費
無料

毎夏、恒例の「みえアカデミックセミナー」に先駆けて、今年のオープニング講演会は、青山学院大学教授の福岡伸一さんをお迎えして、「生命を捉えなおす―動的平衡の視点から―」と題し、ご講演いただきました。

「動的平衡」という生命観をベースとして、その中でフェルメールなどアートの話や、顕微鏡と昆虫の話など「昆虫少年」時代のエピソードを織り交ぜてお話され、生命とは何かを一般の人にもわかりやすくスライドを用いて解説されました。

「昆虫少年」時代のエピソードを話される福岡伸一さん

機械論的生命観(「生命とはミクロな部品が集まってできたプラモデルである」という見方)が主流の時代に、ルドルフ・シェーンハイマーが、ネズミの実験で同位体を使って生体物質の動きを可視化することで「体のすべての分子は食べ物の分子と絶え間なく入れ替わっている」ことを発見し、「動的な平衡状態」にあることを最初に示しました。福岡さんはGP2ノックアウトマウスの実験に研究者としての壁が立ちはだかった時、その概念を思い出し、機械論的な生命観は確かに細胞の中の遺伝子の秘密を次々と明らかにしてくれたけれども、この見方だけで見すぎると生命が持っているとても大切な側面を見失ってしまうのではないかと考え、新たな光を見出せたそうです。

そして機械論的生命観について車とガソリンの関係性に例え、「ガソリンの一部がハンドルや座席の一部になるのと同じ」と述べ、「生命体はプラモデルみたいな時計仕掛けの精妙な機械のように見えるが、作り変えられ違う状態に置き換えられている、生命は流れている非常に動的なもの」、そしてその概念を「動的平衡」とした経緯など話されました。この概念で捉えると、「固体のネズミは、いるように見えても、体は食べ物の粒子が絶え間なく流れ込み、体からは粒子が絶え間なく流れ出す状態にあり、時間を長くのばしてみてみると、ネズミの形がぼんやりよどんでいるだけ、流れの中に生命体はある(柔軟に分解と合成の絶え間ない均衡が行われ形は残像という捉え方)」となり、このことを方丈記の冒頭『ゆく川の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず』に例え、これが生命の実体であり、生きているとは動的平衡の状態にあるといえると話されました。

満席の場内

また、「定義的には動的平衡は、つくることより、いつも壊すことを優先し、絶え間なく壊され続け、自分自身が変わらないために変わり続ける、変わり続けながら全体としてはバランスを保ち、絶え間のない合成と分解が絶えず行われて、これを止めないために生物は食べなければいけない」、「動的平衡がなされているからこそ、柔軟で環境に適応し、病気や傷を修復することができる、何かが欠落状態であっても別のピンチヒッターが無いなりに代替する、生命がもっている柔らかさは動的平衡状態がもたらしているということができる」と述べられました。

  絶え間なく合成と分解が移り変わる状態で、私という平衡状態を保ち、アイデンティティーを保てるのは、動的平衡のもう一つの側面である相補性(互いに他のものを認識しながら存在している)から説明することができ、ジグソーパズルの9つのピースの図解を例に、真ん中のピースが分解されて捨てられても周りに残る8つのピースが形を記憶して新しいピースがつくられはめられていく。その関係性で形と場所が記憶されており、色んな所のピースが交換されても相補性が保たれていれば絵柄はそうかわらず、私たちは私たちでいれれる。しかし、大けがで相補性が大きく失われた場合は元にはもどりにくいなど、生命の不思議について、語られました。

  

物腰の柔らかい、優しい口調で、時にユーモアを交えて語る福岡先生のお話に魅了されたたくさんの皆さんが、講演後のサイン会に並ばれました。本当に福岡さんの人気はスゴイです!1時間にわたって、おひとりおひとりに丁寧にお声をかけられ、お写真などもご対応くださいました。長くお待ちいただいた皆様も福岡さんのお人柄の素晴らしさに触れ、一層、感激された様子でした。

   

 講演後のサイン会
 サイン会をお待ちいただく列は2階へ
  •  講演の中で触れた当センター所有の「カメラ・オブスキュラ」
  •  書籍販売にもたくさんの皆様
  •  三重県内高等教育機関の展示

福岡伸一さんの事前インタービュー記事(Mnews vol.118掲載)はこちら

「カメラ・オブスキュラ」を用いる「写真で表現」プログラム/「文化体験パートナーシップ活動推進事業」の詳細はこちら

参加者の声

  • 詩的な表現の数々が本当に素敵です。(20代)
  • 学ぶことの楽しさを認識することができて良かった。(20代)
  • とても楽しい講演でした。生命の捉え方を改めて考えるいい機会になりました。オタクぶりの披露も面白く、元々フェルメールが好きなのでますます興味が湧きました。本だけではなく直接お声をきくと、また違いますね。(30代)
  • 90分間ずっと楽しめました。お話の展開の流れ…最高でした。(30代)
  • ユーモアたっぷりの講演会は、期待以上で特に後半のフェルメールの話が興味深かったです。(40代)
  • おかたい話になりがちな分野のお話を、面白、おかしく話してくださりとても楽しい講演会でした。先生のお話で、知的好奇心を刺激されまくりでした。もっと話を聞きたいです!(40代)
  • 話しの展開が非常にお上手だと思いました。「さすがだ」の一言です。私も、自分のおたく魂を先生のように開花させたいです。(40代)
  • 私も好きな事はとことん楽しもうと思いました。(40代)
  • 素晴らしい内容の講演でした。手慣れた話の運びで難しい内容がわかりやすくまとめてあり(これは大変難しい)、福岡先生の「タダものではない」感が圧倒的でした。(50代)
  • テレビや本を通してでなく、実際に福岡伸一先生を見ることができて話を聞くことができて、本当に感動ものです。(50代)
  • 福岡先生やっと来てくれましたね。フェルメールオタク、おどろきです。最後の映像のウィットに感心です。(50代)
  • 「変わらないために変わり続ける」<動的平衡>のお話をきき、自分の生き方の一コマについて考えた。学習して取り入れる事の努力をしなくては…と改めて思った。(60代)
  • 大変おもしろかったです!くよくよしないですみそうな気がしました。一年後の私は違うのだから。(60代)
  • 美しい画像と明確、丁寧なお話ぶりに時間を忘れてました。見事に計算された素晴らしい講演会でした。ありがとうございました。(60代)
  • 専門的内容をゆっくりとわかりやすくお話してもらいました。ユーチューブの動画も面白かった!生の福岡伸一さんにお会いできて幸せでした。(60代)
  • 人生、すべてが巡ってくるか解りません。大変有意義な講座でした。有難うご座居ました。(70代)
  • 福岡先生の身体は動的平衡で全て変化していても「少年福岡」は今も健在!(変わらない!!)これって素敵ですね。(70代)
  • 初参加でした。又、来年も来ます。(70代)
  • 非常に素晴らしい話であった。最後のフェルメールは感動。(80代)
  • 大変興味深く拝聴。フェルメールファンでヨーロッパの美術館を訪ねている者として、特に楽しくおききしました。嬉しいひと時ありがとうございました。マウリッツハイスは6月に行ってきたばかりです。9月にはウイーン美術史美術館へ行く予定です。(80代)