みえアカデミックセミナー2022
皇學館大学公開セミナー
「保育施設・学校・家庭における食物アレルギー児支援 ー子どもの最善の利益目指した支援に向けてー」の事業報告

開催日
2022年8月27日(土曜日)
開催場所
三重県文化会館1階 レセプションルーム
開催時間
13時30分から15時00分まで
講師
皇學館大学 教育学部 教育学科 教授 駒田 聡子さん
受講人数
42名
参加費
無料

「みえアカデミックセミナー」は三重県内の大学・短大・高専・放送大学を含めた高等教育機関との連携で生まれた公開セミナーです。
毎年7月から8月(令和4年度は7月14日から8月27日まで)にかけて、三重県総合文化センターを会場に、各校1日程ずつ、選りすぐりの先生にご専門の研究内容を分かりやすく講演いただいています。
前身となる「みえ6大学公開講座」(1996年スタート)から既に20年を過ぎ、「みえアカデミックセミナー」としては、19年目を迎えました。
今後も、県内の皆さんにたくさんの「まなびの種」をお届けしてまいります。
※令和4年度は2セミナーの中止により13セミナーを開催しました。


令和4年度の皇學館大学公開セミナーは、皇學館大学 教育学部 教育学科 教授 駒田 聡子さんを講師にお迎えしました。

皇學館大学 教育学部 教育学科 教授 駒田 聡子さん

***************************【講演概要(ホームページ・チラシ紹介文より)】
食物アレルギー診断ガイドライン(2021)、保育所におけるアレルギー対応ガイドライン(2019)、さらには自身の研究から明らかになった現場の課題を基にした「事故を起こさない対応」の講義と、エピペン(R)の使い方の実践を行います。
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講演の様子_1

アレルギー児対応の基本原則
はじめに、アレルギー疾患には必ず医師の指示が必要だということ、子どもに与えてよいかどうかは周りの大人が勝手に判断してはいけないという前提となるお話をしていただきました。その上で、関わる大人がアレルギー疾患を持つ子どもに対し、何が最善の利益につながっているかを考え、他人事と考えずに自分事して対応してほしいと語られました。

テーマ1:アレルギー疾患の理解
1.アレルギー疾患と他の疾患の違いを理解する
まず、「感染症」も「アレルギー疾患」も体内への侵入経路は「皮膚や粘膜」であり、特に粘膜が重要であるとおっしゃられました。感染症はウィルスや細菌・カビ等の病原体が人体に入り、撃退するために抗体が必要となるのに対して、アレルギー疾患は食物や花粉など多くの人にとっては無害なものが粘膜・皮膚から人体に侵入し、敵が来たと身体が勘違いすることで過剰に反応した結果、撃退しようと抗体が作られるという感染症とアレルギー疾患の違いについて詳しく教えていただきました。

講演の様子_2

2.免疫の仕組み、免疫とアレルギーの違いを理解する
感染症、アレルギーの免疫抗体の働きについても詳しく説明していただきました。また、粘膜を強くするために有効な食べ物についても教えていただき、粘膜を強くする重要性についてもお話しいただきました。アレルギー疾患は体に異物が侵入した際に過剰な免疫反応が起き、特に食物のアレルギー疾患の場合には数分以内で死に至ることがあるため、対応する周りの人には事故を起こさないための適切な知識や意識づくり、連携と実践できる体制を整えることが必要だとおっしゃられました。アレルギー疾患別の原因物質や症状が現れる場所についてもお話をいただき、ほとんどのアレルギーが局所的であるのに対して、食物アレルギーは全身に症状が現れるという特徴について解説をいただきました。

3.アレルギー疾患に関する用語(アトピー素因・アレルギーマーチ・生活管理指導表について理解する)
アレルギーになりやすい人となりにくい人がいる理由について、「アトピー素因」の体質の問題や、特定の抗体を作る「感作」が病原体へは予防接種など有効な働きをするのに対して、アレルギーの場合には有害な症状が発現してしまうことについて説明していただきました。続いて、そもそも「食べ物」とは異物であり、人体には食べ物を異物と認識しない仕組みがあると、タンパク質や脂質などのアミノ酸・ブドウ糖への分解や小腸での異物侵入をブロックする働きなど詳しく解説をいただきました。そして、食物アレルギーの原因が「タンパク質」であること、三大アレルゲン「鶏卵・牛乳・小麦」についてや、食物アレルギーのプロセス、乳幼児期の発症率が高い理由として「消化能力、免疫機能、免疫寛容が低い」ことを原因として考えられることについて教えていただきました。また、年齢が高くなると症状が出なくなる「耐性獲得」についても解説いただきました。子どもが欲しがっているからと言って何でも与えてはいけないとおっしゃられ、体調不良などにより症状の出方も異なることから子どもの普段の様子をよく観察し、何かいつもと様子が違うと気が付くことが大切だと語られました。

講演の様子_3

テーマ2:食物アレルギーのある子どもへの対応
アレルギーのある子どもへの対応として重要な、「除去食」について詳しく解説いただきました。食物経口負荷試験による確定診断による食物アレルギー児の把握が大切であり、その上で、食物アレルギーの唯一の治療は原因となる食物を摂取しないことのみであることを意識し、除去食は治療の一環であることを正しく理解して「除去根拠」に基づく医師の診断書「除去食指示書」や「生活管理指導評」の提出の必要性について教えていただきました。「除去食」のあり方についても丁寧に解説をいただき、大豆の発酵食品など除去の必要がない食材があることや、医師の診断に基づかず何でもかんでも保護者からの申し出のみで除去してしまうと子どもの成長や食べることの楽しみが奪われるため行わない方がいいこと、ただし、量の調節や解除などは絶対に医師の判断なく勝手に行ってはいけないことを周りが徹底して意識する必要性について注意を促されました。

テーマ3:アナフィラキシーショックについて
まず、「ショック」とは血圧が下がり、呼吸器不全や意識障害が起こることであり、適切に処置をしないと死につながるため非常に注意が必要だと促されました。そして、アナフィラキシーショックとは食物摂取により多臓器に症状が見られ、ショック状態に陥ることだと説明していただきました。そして、適切な処置の必要性と迷わず救急車を呼ぶことなど、アナフィラキシーショックに対して、「アナフィラキシーショックが起きる仕組みを理解する」、「緊急時の対応について理解する」という2点の重要性について熱心に語られました。


テーマ4:エピペン(R)の知識習得と実践演習
■エピペンの役割について理解する:
アナフィラキシーショックが起こった時に非常に重要となる「エピペン(R)」について、医師の処方箋が必要なことや血圧をあげる昇圧剤が入っていること、副作用は医師が処方した以上まずないと考えていいこと、保管場所の注意点などについて詳しく説明していただきました。
■エピペン(R)の取り扱いについて理解する:
きちんと打つことの大切さや、握り方は必ずグー握りで行うこと、打つ場所は太ももであり、何故太ももなのかその理由についても教えていただきました。
■シミュレーションの意義について理解する:
アナフィラキシーショックを起こした当人はエピペンを使えないため、周りにいる人が打つ必要になることから、打つ側がパニックになって咄嗟に使えないという事態を防ぐために、冷静に対応できるようにシミュレーションを行うことの重要性を強く主張されました。セミナーでは、一部の参加者の方が代表として、複数人でエピペンを打つ体験をされました。また、緊急時の対応だけでなく、日ごろから連携や確認などを行うことも大切だと講師の駒田さんはおっしゃられました。

最後に食物アレルギー児支援は正しい知識に基づくことが最も重要であり、疑問点や分からないことは曖昧なままにせず、必ず医師に対応についての指示を受けるようにすることや、連携を取りながら、食物アレルギーを持つ子どもたちが安心して生活できる環境づくりを周りの大人が行っていくことが大切だと語られこの日のセミナーは終了しました。

参加者の声

  • わかりやすい説明でした。いざという時にまったく知識がないのとあるのではだいぶ違うと思うので何かの時に思い出せたらよいと思います
  • 保育士ですが、コロナ禍で研修が少なくなっているなか、実践もまじえた内容で専門的なお話を伺うことができ、とても良い機会でした。ありがとうございました。
  • とても実践的な話と実技で参考になりました。以前保育所で働いていたことがあり、その時の対応に疑問がありましたが、本日本来のやり方がわかりとても良かったです。これからも孫や他のお子さんに役立ててみたいと思います。ありがとうございました。
  • とても親切にわかりやすい講演でした。深い話でもっと聞きたい講座でした。とても興味深い話でした。
  • 緊急時の対応を含め、日常の安全に関する気配りの大切さを学べました。エピペンの実習はとてもためになりました。有難うございました。