みえアカデミックセミナー2022
鈴鹿医療科学大学公開セミナー
「干物について学ぼう ーおいしく、健康的なー」の事業報告

開催日
2022年8月19日(金曜日)
開催場所
三重県文化会館1階 レセプションルーム
開催時間
13時30分から14時55分まで
講師
鈴鹿医療科学大学 保健衛生学部 医療栄養学科 教授 棚橋 伸行さん
参加人数
71名
参加費
無料

「みえアカデミックセミナー」は三重県内の大学・短大・高専・放送大学を含めた高等教育機関との連携で生まれた公開セミナーです。
毎年7月から8月(令和4年度は7月14日から8月27日まで)にかけて、三重県総合文化センターを会場に、各校1日程ずつ、選りすぐりの先生にご専門の研究内容を分かりやすく講演いただいています。
前身となる「みえ6大学公開講座」(1996年スタート)から既に20年を過ぎ、「みえアカデミックセミナー」としては、19年目を迎えました。
今後も、県内の皆さんにたくさんの「まなびの種」をお届けしてまいります。
※令和4年度は2セミナーの中止により13セミナーを開催しました。


令和4年度の鈴鹿医療科学大学公開セミナーは、鈴鹿医療科学大学 保健衛生学部 医療栄養学科 教授 棚橋 伸行さんを講師にお迎えしました。

鈴鹿医療科学大学 保健衛生学部 医療栄養学科 教授 棚橋 伸行さん

**************************【講演概要(ホームページ・チラシ紹介文より)】
干物は、元々保存食として広まり、冷蔵庫が普及した現代でも、刺身、焼き魚、煮魚と異なり干して乾燥することで、独特の食感とそれによる食味が生まれ、たんぱく質が分解されて旨味が形成されます。そこで、今一度、この伝統的な干物について学ぶと同時においしく、健康的な干物を見つけましょう。
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講演の様子1(2022年8月19日)

どこの保存食?
新巻鮭なら北海道、干し芋なら茨城県、辛子明太子なら福岡、八丁味噌なら愛知県など10種類の保存食と代表的な県名を例に挙げられ、様々な保存食が全国各地にあることを教えていただきました。

基本的な保存の方法
続いて保存方法とそれぞれの特徴ついて紹介していただきました。「砂糖」を使った保存方法はジャムなどが代表的であり、温度によって液体状からカラメル状態まで性質も色も風味も変化するという特徴があるとおっしゃられました。

「酢」を使う保存方法はピクルスなどが代表的であり、酢には細菌の増殖を防ぐ効果があるため、古くから保存方法として活用されており、ピクルスは紀元前2000年ごろには既に存在していたらしいということや酢がどのように作られるのかについても紹介していただきました。「干す」という保存方法は、利点として水分を飛ばすことで食品の成分が凝縮され、うまみが増したり栄養面が高くなったりすること、食品によって干し方が異なることなどを教えていただきました。「燻す」保存方法は、特徴として色つやが出て、独特の香り成分が生まれることで食感や味わいを楽しむことができ、食欲の増進効果もあることや、肉や魚の場合には木によって違いがでるため適した木を選ぶことの必要性についても解説していただきました。「発酵」は微生物などの働きによるという特徴があり、日本で代表的な食材は納豆であるとおっしゃられ、最も古い発酵食品はワインであり、日本では奈良時代には発酵を利用した「なれずし」があると紹介していただきました。「塩」を使った保存方法の特徴としては水分を奪い、微生物の増殖を抑制する働きがあることだとおっしゃられ、保存の目的の一つは水分の含有量を減らすということだと語られました。しかし、そうして生み出された保存方法は冷蔵庫の普及などに伴い、食品に対して保存を目的とするよりも味や食感を優先するようになり、現在では水分を飛ばすことで硬くなったり、美味しくなくなったりして適さなくなったものも存在すると説明していただきました。

講演の様子2(2022年8月19日)

日本の食塩の摂取量
日本の食塩の摂取量について、減塩の影響で全体的には少しずつ摂取量が減少してきているものの、年代が上がるにつれて摂取量は増すことや、東北の摂取量が全国的には高いなど、時代別、年代や性別、全国の摂取量の数値をもとに解説していただきました。また、食塩の摂取量の目標値についてもお話をしていいただきました。

魚類の水産加工品の現状
魚の食品加工や干物に使われる魚の種類、都道府県別干物消費量について、グラフなどをもとに解説していただきました。

講演の様子3(2022年8月19日)

干物の歴史
奈良時代の書物にも干物は登場し、平安時代に入ると税として扱われるようになったことで、保存性が高められ、鎌倉・室町時代には庶民の生活にも干物が根付くようになり、江戸時代になると単なる日持ちする食材としてではなく、現代に通じる日本の干物の作り方が確立されるようになり、各地で干し方などを工夫することで調理方法や献立に変化が起こったとおっしゃられました。そして、明治時代においては、庶民の食卓に出されるようになったもののまだまだ保存を主体とした加工品であったと語られ、近年になると冷蔵庫の開発など保存技術の進歩とともに、保存性よりも香り、味、食感などが重要視されるようになり、さらに冷凍技術の進化、乾燥技術の向上に伴い、温度や湿度だけでなく乾燥時間まで制御できるようになったことや様々な乾燥方法の登場により、干物の作り方に変化が訪れるようになったと教えていただきました。

魚の栄養素
魚の蛋白質や脂肪酸含有量について解説していただき、特に干物にすることで起こるアミノ酸の変化について詳しく説明していただきました。アミノ酸と塩漬け液の濃度、時間との関係や干物の食感に与える影響について教えていただき、おいしい干物を作るために重要なポイントだと語られました。続いて、イノシン酸の重要性についても触れられ、おいしい干物作りに最適な乾燥温度とその理由について説明していただきました。

最近の干物の製造方法
減塩、ソフトな食感志向への変化に伴って、塩濃度が3%から2%のものが多くなり、乾燥時間の短い半干物が好まれるようになり、水分含有量を減らすことで貯蔵性の向上を目的とした従来の製造方法から、現代においては冷凍技術の発達によって、低塩分で高水分干物の長期保存が可能となったこと、おいしさや調理の利便性を高めることを目的とするなど、そもそも食塩を加える理由と乾燥を行う目的が変化したと解説していただきました。

我々の試み
セミナーの後半では、講師の棚橋さんが取り組まれた干物を作る研究について解説していただき、研究を通して、食品ロス対策としての効果や干物の可能性などについて詳しくお話をいただき、この日のセミナーは終了しました。

参加者の声

  • 大変面白いテーマ、話で参考になりました。有難うございました。
  • 学校の説明もして頂きよかったです。講座も科学的分析による説明分かりやすかったです
  • 干物は興味深い話題だったので楽しみにしてました。参考になり今後自宅でつくって食べようと思っています。ありがとうございました。お茶との研究も参考になりました。
  • 現代人において干物は大変貴重であり、古くから重んじられ栄養学的に理に合っていることが証明されている。
  • 日頃あまり気にしていない干物を具体的に説明されてよかったと思います。干物に対する興味が増し、健康、あるいは趣向的にも考えが出来、楽しく聞くことが出来ました。