みえアカデミックセミナー2022
鈴鹿大学短期大学部公開セミナー
「おとなのロコモ、こどものロコモ -その課題と対策-」の事業報告

開催日
2022年8月11日(木曜日・祝日)
開催場所
三重県文化会館1階 レセプションルーム
開催時間
13時30分から15時15分まで
講師
鈴鹿大学短期大学部 生活コミュニケーション学科 こども学専攻 准教授 石川 拓次さん
参加人数
65名
受講料
無料

「みえアカデミックセミナー」は三重県内の大学・短大・高専・放送大学を含めた高等教育機関との連携で生まれた公開セミナーです。
毎年7月から8月(令和4年度は7月14日から8月27日まで)にかけて、三重県総合文化センターを会場に、各校1日程ずつ、選りすぐりの先生にご専門の研究内容を分かりやすく講演いただいています。
前身となる「みえ6大学公開講座」(1996年スタート)から既に20年を過ぎ、「みえアカデミックセミナー」としては、19年目を迎えました。
今後も、県内の皆さんにたくさんの「まなびの種」をお届けしてまいります。
※令和4年度は2セミナーの中止により13セミナーを開催しました。


令和4年度の鈴鹿大学短期大学部公開セミナーは、鈴鹿大学短期大学部 生活コミュニケーション学科 こども学専攻 准教授 石川 拓次さんを講師にお迎えしました。

鈴鹿大学短期大学部 生活コミュニケーション学科 こども学専攻 准教授 石川 拓次さん

**************************【講演概要(ホームページ・チラシ紹介文より)】
「ロコモティブシンドローム」とは、運動器が加齢や不活動によって衰え、要介護や寝たきりになることです。一見、高齢者に多いと思われがちですが、便利な現代社会、運動実施の二極化等の課題により子どもにも起こります。今回は、大人のロコモ、子どものロコモの課題と対策についてこれまでの研究や調査を基に話します。
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講演の様子1(2022年8月11日)

ロコモティブシンドロームとは?
はじめに、ロコモティブシンドロームについて、日本整形外科学会が2007年に提唱した言葉であり、「運動器の障害により要介護になるリスクの高い状態になること」を意味していると説明していただきました。次に、運動器とは身体運動に関わる骨格や筋・神経系の総称であり、世界的な動きとして、代表的な「運動器の10年」と呼ばれる活動など、様々な取り組みが行われていると語られました。
ロコモと運動器の認知度についても解説いただき、毎年行われている調査結果をもとに、ロコモに関してある程度の人が意味を知っている、聞いたことはあるという状態なのに対し、運動器になると人数が減り、循環器や呼吸器といった他の器官とと比較しても理解度は明らかに低い数値が出ていることから、運動器という言葉に対してまだまだ認知・理解度が低い現状にあることや、ロコモに対して明確ではなくても漠然とした不安を抱えている人が4割以上いることが判明したともおっしゃられました。

また、メタボリックシンドローム、生活習慣病についても説明していただき、「成人病」という名前だった生活習慣病は。成人でなくても発症の可能性があることから名称が変更になったという経緯があり、ロコモティブシンドロームは「要介護のリスク」という点ではどちらかと言えば中・高齢者に向けての定義であるものの、「運動器の障害」という点では子どもから大人まで各世代に渡って起こりうる状態であり、原因を考え、対策をたてていかなければならない問題だと語られました。セミナーでは受講生の皆さんが配布されたチェックシートをもとに自分の生活・身体状況を考える時間が設けられ、皆さん熱心に自分の状況を振り返ってみえました。講師の石川さんからは、ロコモのテストではこの生活・体の状況に関する質問に加え、下肢筋力と歩幅を調べる3つのテストを行うことでロコモ度を確認できると解説いただきました。

講演の様子2(2022年8月11日)

こどものロコモ
■子どもの体力・運動能力の課題
子どもの運動疾患を考えるうえでは、子どもの体力と運動能力の問題を考える必要があるとおっしゃられました。「体力」とは、「行動体力」・「防衛体力」に大まかに分けられ、さらに「行動体力」は身長や体重などを指す「形態」と筋力や敏捷能力などを指す「機能」に分けられ、一般的に「機能」が体力・運動能力と呼ばれているものであると説明していただきました。
体力(形態)の経年変化について、年齢別の身長・体力をグラフをもとに、1950年以降から増加傾向にあり、近年は身長・体重ともに横ばいで推移しているものの昔に比べて子どもたちのからだは確実に大きくなっていると解説していただきました。

さらに、体力(機能)の経年変化についてもお話しいただき、一般的にはこどもの体力・運動能力は昔と比べて低下していると考えられているけれど、スポーツテストの結果からは一概にすべての項目で低下傾向にあるわけではないこと、走機能・全身持久力は近年向上傾向にあることや、瞬発性、柔軟性なども向上していること、一方で「握力」・「立ち幅跳び」・「ボール投げ」など、筋力・瞬発力・投機能は低下傾向にあることを解説していただきました。投機能の低下については、昔と比較して「時間・空間・仲間」の要素が減少していること、そもそも現代は色々なスポーツを楽しめる時代のため、投げる競技だけが全てではなくなったことが影響しているのではないかという推測をお話しいただきました。そして、そもそも運動嫌いの子どもの割合が増えていること、全国大会の標準記録などは上がっていることを考慮すると子どもの体力の低下が進んでいるのかどうかということよりも、運動をしている子どもとしていない子どもの二極化が進んでいるという「運動習慣」の変化が課題なのだと問題点を指摘されました。
■子どものロコモの実態と対策
子どもの身体の発育・発達の特徴を大人との比較を通して分かりやすく解説していただき、現代の子どもの状況が従来の特徴に合わなくなっている原因は運動実施の二極化にあり、運動実施の過多・過少どちらも子どものロコモを引き起こす可能性になっていると語られました。子どもロコモの特徴としては、例えばまっすぐ立つことができないなどの「運動機能不全」、テニス肘や捻挫などのスポーツのし過ぎによる「運動器疾患・障害」があり、その対策として、「小学校における体育の授業の変化」と「学校での運動器検診」が考えられるとおっしゃられ、その理由や取り組みについて解説していただきました。小学校における体育の授業が昔の「できる・できない」を重視する考え方から「スポーツを楽しむ」ことを目標とすることに変化していること、運動器検診が学校での定期健康診断の必須項目になったことにより、子どもの体力の向上や運動器の障害などの低減につながることが期待されていると説明していただきました。

講演の様子3(2022年8月11日)

大人のロコモ
■健康寿命とロコモ
まず、平均寿命と健康寿命の特徴と違いについて説明していただきました。平均寿命は「今0歳の人が今後生きることのできる年数」であり、日本は世界でもトップクラスであることや、健康寿命は「日常生活動作が自立している年齢の上限」のことで平均寿命と比べて約10歳ほど短いことなどそれぞれの寿命の特徴と違いについて説明していただきました。続いて、大人のロコモの特徴についてお話しいただき、「運動器自体の疾患」・「加齢による運動機能不全」が課題としてあげられ、加齢に伴う様々な運動器疾患や身体機能の衰えなどについて説明していただきました。大人のロコモの問題点として生活習慣病を誘発し、日常生活動作の低下の要因ともなり、健康寿命の短縮やねたきり・要介護状態となる原因の一つとなっていることだとおっしゃられました。

■骨粗鬆症と生活習慣病
骨粗鬆症は長年の生活習慣に影響されることから、生活習慣病の一つとして考えられていることや、骨粗鬆症を調べるうえで重要な骨塩量について、講師の石川さんが実際に調査した際のデータをもとに体格が骨塩量にもたらす影響や、適切な運動による適度な負荷が骨密度の維持に大切なことを解説していただきました。
■高齢者と運動療法
VTRを見ながらでも運動の効果が表れるのかを調べた実験や、どんな運動が必要なのかを、有酸素運動・筋力トレーニング・ストレッチのそれぞれの特徴と効果について教えていただきました。

まとめ
ロコモを改善するために必要な運動を行う際の注意点についてお話をいただき、現在の自分の体力・健康状態について知ることがまず大切であり、健康診断の受診や体力測定の重要性について説明していただきました。運動には色々な種類があり、効果も異なることから、自分に合った運動を選択することも大切であるとおっしゃられました。最後に、運動は「頑張らない」・「休息を入れる」・「習慣化する」・「楽しむことを一番に考える」ことが必要であり、適切かつ妥当な「適当な運動」を心掛けることがロコモの予防につながると語られ、この日のセミナーは終了しました。

参加者の声

  • 大変濃い内容であっという間の講座でした。大変勉強になりました。ありがとうございました。
  • とても分かりやすい内容で、ロコモについて学べました。ありがとうございました。
  • 運動の継続の重要性について、改めて理解できた。
  • 興味があるテーマで参加した。参考になった。理論的に納得できた。ありがとうございました。
  • コロナは、私たちから外出する機会を奪いました。ただでさえ体力低下しやすいのに、ロコモが助長されてしました。何かできることを少しずつしていこうと改めて思いました。