みえアカデミックセミナー2022
四日市大学公開セミナー
「失われゆく夜について考える ー人工照明によってもたらされる環境問題ー」の事業報告

開催日
2022年8月9日(火曜日)
開催場所
三重県文化会館1階 レセプションルーム
開催時間
13時30分から15時10分まで
講師
四日市大学 環境情報学部 環境情報学科 特任助教 黒田 淳哉さん
参加人数
63名
受講料
無料

「みえアカデミックセミナー」は三重県内の大学・短大・高専・放送大学を含めた高等教育機関との連携で生まれた公開セミナーです。
毎年7月から8月(令和4年度は7月14日から8月27日まで)にかけて、三重県総合文化センターを会場に、各校1日程ずつ、選りすぐりの先生にご専門の研究内容を分かりやすく講演いただいています。
前身となる「みえ6大学公開講座」(1996年スタート)から既に20年を過ぎ、「みえアカデミックセミナー」としては、19年目を迎えました。
今後も、県内の皆さんにたくさんの「まなびの種」をお届けしてまいります。
※令和4年度は2セミナーの中止により13セミナーを開催しました。


令和4年度の四日市大学公開セミナーは、四日市大学 環境情報学部 環境情報学科 特任助教 黒田 淳哉さんを講師にお迎えしました。

四日市大学 環境情報学部 環境情報学科 特任助教 黒田 淳哉さん

**************************【講演概要(ホームページ・チラシ紹介文より)】
現在、光源のLED化が加速しています。明るい世界を手に入れることは、安心・安全に繋がります。一方で、明るすぎる世界は、生態系を混乱させる問題に繋がる事をご存じでしょうか?本講演では、私達が使用する人工照明によってもたらされる環境問題についてお伝えし、皆様と共に失われゆく夜について考えたいと思います。
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講演の様子1(2022年8月9日)

1.はじめに
睡眠などの生命維持の観点からも夜が生物に必要不可欠なものであること、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』や羊羹を蝋燭とLEDの明かりで見比べた際の実験などを例に日本独特の美意識や感性も「夜」が影響している可能性についてお話しいただき、LED化が世界中で進む現代において明るくなることのメリットだけでなく、何が失われようとしているのか考えみましょうという講師の黒田さんからのお話で講演は始まりました。

講演の様子2(2022年8月9日)

2.光源の歴史/3.私達が光源に求めてきたもの
人工光源の歴史を振り返ることで、人が何を「光源」に求めてきたのかについて解説をしていただきました。人類が火を日常的に使用するようにとなったと考えられている約50万年前以降、BC.300年に誕生した「ろうそく」を人工光源の第一世代と考えると、「白熱電球」、「蛍光灯」、そして第4世代の「LED」と大きく4世代に分類され、現代に至るまで効率や光質の向上など様々な改良が進み、数多くの光源が開発されてきたと説明していただきました。一方で火が誕生して以降の人工光源の歴史を24時間で例えていただき、人類が明るい環境で生活できるようになったのがいかに最近のことであるかを分かりやすく教えていただきました。
また、フランスと日本のかつての夜の状況を比較して解説していただき、両国とも最初に街灯に求めた役割は安心・安全のためだったことや夜が安全・安心になったことで新しい文化が生まれるようになったと語られました。

4.現在そしてこれから
日本の照明業界が掲げる「照明成長戦略2030」について、掲げられた目標やその意義、特に「あかり文化の向上と地球環境の貢献」という目標が今後重要なポイントになるのではないかとおっしゃられました。

5.光環境とは? ―良好な光環境とは??―
光環境とは「光の存在している環境」を指し、人工的な明かりだけでなく自然界に存在する光を含むこと、そのため良好な光環境とは何かを考える時には、人間の活動だけを優先するのではなく、自然生態系にも配慮したものでなくてはならないことと、明るい世界を手に入れた私たち人間がこれから何を考えなければならないのかについて語られました。そして、「良好な照明環境」について安全性・エネルギー効率・景観の維持・環境への配慮という4つのポイントについて説明しをしていただきました。

講演の様子3(2022年8月9日)

6.光害とは?
「光害」と書いて「ひかりがい」と読み、「良好な照明環境の形成が、漏れ光によって阻害されている状況又はそれによる悪影響」と定義されているという説明の後、夜が明るくなったことによる天体観測への悪影響、ウミガメの産卵などに対する生態系への影響、街灯などの夜間照明による農作物の生育不良など身近な所で起こっている「光害」について具体例をもとに分かりやすく教えていただきました。また、「光害」がもたらすエネルギー資源への問題も指摘されているとおっしゃられ、ガイドラインの作成など「光害」に対して警鐘が鳴らされているにもかかわらず、危機感が高まっていない理由として、一般的に「光害」を身近な問題としてとらえられていないこと、一人ひとりが自分の光環境を理解し、課題を見つけていくことが改善していくために重要なことだと語られました。

7.現在、夜が少しずつ失われている
アメリカの科学誌『サイエンス・アドバンス』に掲載された論文では、人口光で照らされた屋外面積が2012年から2016年の期間で毎年調査したところ毎年2%も広がっているというという結果が出たということや、光害マップ(Light pollution map)」の活用についても解説していただき、実際に三重県北部を調べてみた結果とそこから読み取れる光環境について考察をしていただきました。

8.四日市周辺の夜空の明るさ
講師の黒田さんが大学のセミナーメンバーと共に実際に四日市近郊で行った2019年の郊外調査において、対象とした調査地点と調査方法について詳しく解説をしていただきました。そして、そこから判明した調査結果について光害のある場所やその原因の考察をお話しいただき、光害に対する対策をどのように考えれば良いのか、さらに明るさの問題の解決には地域で取り組むことが最も重要だと語られました。
最後に、学生がタイムラプス作品として四日市近郊の夜空を記録した美しい映像を見せていただき、四日市近郊ではまだ天の川を肉眼で見ることのできる光環境が残されていること、それがどれだけ貴重なことであるのかや、夜景を見るときには貴重な環境が存在しているのだということを思い出してほしいと語られこの日のセミナーは終了しました。

参加者の声

  • 光は資源です。大切に有効に丁寧に利用したいものです。資源を大切にする取り組みはたいへん重要だと思います。
  • 人工照明により公害が発生し、公害という言葉を初めて知りました。黒田先生のご説明大変わかりやすく良かったです。ありがとうございました。
  • 天の川が良かったです。環境を考える良い機会です。
  • 光について価値観、考え方にも目を向けていかなければ…。考えていこうと思う。天の川映像よかったです。参考になり、ありがとうございます。
  • 講義、現実の話、地域対策の必要性等興味深く聞かせていただきました。ありがとうございました。今後共のご発展を祈っています。