みえアカデミックセミナー2022
三重大学公開セミナー
「超高齢社会が求めるロボット ー最新のロボット技術と福祉産業への展開ー」の事業報告

開催日
2022年7月23日(土曜日)
開催場所
三重県文化会館1階 レセプションルーム
開催時間
13時30分から15時15分まで
講師
三重大学 大学院工学研究科 機械工学専攻 教授 矢野 賢一さん
参加人数
74名
受講料
無料

「みえアカデミックセミナー」は三重県内の大学・短大・高専・放送大学を含めた高等教育機関との連携で生まれた公開セミナーです。
毎年7月から8月(令和4年度は7月14日から8月27日まで)にかけて、三重県総合文化センターを会場に、各校1日程ずつ、選りすぐりの先生にご専門の研究内容を分かりやすく講演いただいています。
前身となる「みえ6大学公開講座」(1996年スタート)から既に20年を過ぎ、「みえアカデミックセミナー」としては、19年目を迎えました。
今後も、県内の皆さんにたくさんの「まなびの種」をお届けしてまいります。
※令和4年度は2セミナーの中止により13セミナーを開催しました。


令和4年度の三重大学公開セミナーは、三重大学大学院工学研究科機械工学専攻 教授 矢野 賢一さんを講師にお迎えしました。

三重大学 大学院工学研究科機械工学専攻 教授 矢野 賢一さん

**************************【講演概要(ホームページ・チラシ紹介文より)】
現在、健康長寿社会や自立度の高い社会を実現するために、様々なタイプの福祉ロボットの研究開発が急ピッチで進められています。本講演では、日本が直面する超高齢化問題や福祉ロボットの現状について解説するとともに、超高齢社会を乗り切るための課題や実用段階に入った福祉ロボットについて解説します。
**************************

講演の様子1(2022年7月23日)

まず、講師が携わる「知能ロボティクス研究室」の活動について、カーボンニュートラルの実現やデジタルフォーメーション(DX)による生産性の向上、人間機能拡張学の研究など現在の最先端ロボット研究のお話も交えながら紹介していただきました。

日本の高齢社会の現状について、世界の傾向や各国の状況の多様性をナイジェリア、アメリカなどの国の状況と日本の状況を比較して解説していただきました。

そして、日本の人口問題における今後の課題は「日本の人口における高齢化率」と「世界で最も高齢化が進んでいてかつ高齢化が進行するペースが最も速かった国」という世界でどこの国も経験したことのない課題に直面している状況であると語られ、世界が高齢化問題で日本に注目している理由であるとおっしゃられました。特に、日本の高齢化はどんどん加速しているとおっしゃられ、フランスは115年、スウェーデンは85年かけて高齢化社会となっているのに対し、日本は約26年で同じ数値に到達してしまっていること、そのため他国が100年近くかけて解決する問題を僅かな期間で解決することが求められるようになっている問題点を分かりやすく教えていただきました。

講演の様子2(2022年7月23日)

続いて、医療の分野では健康寿命が重要視されているとおっしゃられました。そして、機械工学の分野では、加齢による身体機能の低下をサポートする機器の開発によって誰もが元気に社会活動ができるようになる研究を目指していると語られました。
医療と福祉では医療=高度、福祉=身近という漠然としたイメージを持ちがちであるものの、医療現場では手術のサポートロボットが既に導入されるなど研究が盛んなのに対して、福祉では中々目にしたこともニュースで聞いたこともないといったように、実は福祉の現場で活用できるロボットの実用化は非常に難しいのだとおっしゃられました。その理由として、医療の分野ではロボットありきの現場を作り出すことは可能だけれど、福祉の分野では利用する人の状況も環境もそれぞれ異なり、求められる機能も多種多様になってしまい、実用化のためには高度な技術と高額な費用が発生するため、未だに解決が難しい課題であると説明していただきました。

講演の様子3(2022年7月23日)

また、講師の矢野さんが食事支援ロボットの実用化を目指した際の開発におけるプロセスや課題への取り組み方などの経験をお話しいただきました。そして、開発を通して「提供できる価格帯でのものづくりの大切さ」と自動化が時に孤独・孤立を生んでしまうことから「人と人とを結びつけるロボット」でなければ自立支援の技術とは言えないことを学んだと語られました。「社会参画」ができるロボットの開発を目指すようになった経緯や実現までのプロセスについても詳しくお話をいただき、「実用化」のためには企業・産業側にも利益が出ること、利用者が購入できる価格帯の実現も重要だとおっしゃられました。ユーザーが体の動かし方を覚える機能を持った装置を使用することで、安心して社会活動を行える機会を増やすことができるよう、機能回復を目指したプロジェクトを紹介していただきました。

「ウェアラブルロボット」の開発を例に、従来の問題点や様々な制約などを解決するために行った研究の経緯や、「体を良くする」をテーマとしたことをお話しいただきました。その経験の中で、ロボットが動かなくなった体を動かすということは、人は何もしないということになるため、体は退化するという問題が生じることや、「ロボットがなければ何も出来ない」というロボット中心の研究ではダメだと思ったこと、体の残存機能に着目したことで従来なしえなかった装置の開発に至ったことをお話しいただきました。
最後に、ロボット開発という分野で高齢化という日本の窮地に貢献できるよう頑張っていきたいとおっしゃられ、「人を遠ざけるロボットではなく、人と人を結びつけるロボット」の開発を行っていきたいと締めくくられ、この日のセミナーは終了しました。

矢野 賢一教授の「知能ロボティクス研究室」の詳しい情報はこちら(外部リンク)外部リンク

参加者の声

  • 高齢化進展が大変なスピードの状況下、身体に障害のある人もある割合でロボット支援が必要。いろいろ課題を克服しながら開発されている様子がわかりました。身体の残存能力を生かすことの大切さもわかった。
  • 基本的な知識から最先端の取り組みまで丁寧にお話しくださり大変感動いたしました。ロボット産業より福祉産業への取り組み本当に素晴らしい日本の将来がつまっているいいお話しでした。視線を読み取り動くもの任意を読み取るのは脳波でしょうか?大変気になりました。ロボット化が進む孤立の問題も分かりやすかったです。素晴らしいご講演本当にありがとうございました。先生の研究に感動しました。
  • 技術開発研究と、福祉現場の壁というか、ギャップのようなものが、わかりやすく話していただいた。
  • 産業ロボットの技術が、単純に医療福祉の分析に応用できるものではないということが良くわかりました。自動化が自立化ではなく孤立化を生むということには驚かされました。アクティブギブスが機能を代替するものではない、本人の持つ能力をより生かすものであるということは、とても重要な視点だと思いました。
  • 正に最新情報で、聴いて楽しかったです。