みえアカデミックセミナー2022オープニング
「宇宙の魅力 生命の魅力」の事業報告

開催日
2022年7月3日(日曜日)
開催場所
三重県文化会館 大ホール
開催時間
13時30分から15時00分まで
講師
東京工業大学地球生命研究所(ELSI)  准教授 藤島 皓介 さん
参加人数
620名
受講料
無料

『みえアカデミックセミナー オープニング』は、毎年夏に開催する三重県内の全ての高等教育機関が参加する『みえアカデミックセミナー<公開セミナー>』に先駆けて、日本各地から国内トップレベルの研究者に最先端の研究成果を紹介していただく大型講演会です。令和4年度は火星での生存圏などを研究され、WIRED Audi INNOVATION AWARD 2016を受賞し、JAXA宇宙飛行士選抜試験のPR動画にも出演された、東京工業大学地球生命研究所(ELSI)准教授 藤島 皓介さんを講師にお迎えし、「宇宙の魅力 生命の魅力」と題してお話しいただきました。


講師:東京工業大学地球生命研究所(ELSI)准教授 藤島 皓介さん

はじめに、講師の藤島さんの自己紹介から始まり、「生物学」の分野に進もうと決めたきっかけや、生命とは何か、どのように誕生して進化してきたのかということに興味を持った理由についてお話しいただきました。また、火星に本当に生命がいるのかということを自分の手で確かめたいという思いから過去に宇宙飛行士選抜試験に挑んだことがあることや、2022年に再度挑戦したこと、試験の様子などについて紹介いただきました。
そして、民間、NASAそしてJAXA を含めた世界各国の宇宙機関が協力しながら、現在進められているNASA の「アルテミス計画」や、新しい宇宙ステーションを月の軌道に作る「ルナゲートウェイ計画」について分かりやすく説明してただきました。

月に行ったらしてみたいことの一つとして、「アポロ14号のアラン・シェパード船長が打ったゴルフボールの玉を見つけたい」と言う講師の藤島さん。宇宙という場所での作業は、環境も含めてストレスがかかるので、遊び心を持つことも大切と語られました。

続いて、月に行ったら研究者として行いたいこととして、46億年以上昔の地球の石を見つけたいとおっしゃられ、46億年前に起こったと言われるジャイアントインパクトにより、地球上ではもう手に入らない本当に最初の頃の地球の環境に関する情報が、今なお月には色濃く残ってる可能性があることや、当時生命がすでに誕生をしていたとしたらその生命の手がかりも一緒に見つかるかもしれないということ、「生命の起源を知る」という意味でも月に行ってみたいということが自身のモチベーションの源になっていると熱く語られました。
実は地球の生命がいつ誕生したのか、どこで誕生したのかということが全く分かっていないと話され、43億年前の地球にもうすでに海があったとされることや、鉱物に含まれる「炭素」を詳細に分析することで、46億年前にはひょっとしたらすでに地球上に生命がいた可能性もあること、それを知るために日々研究者たちは研究を続けているのだと説明していただきました。

火星の土壌に関連して、アメリカのとある映画で、監督が火星の過塩素酸の状態を知らなかったため、宇宙飛行士が火星の土でジャガイモを育てるというシーンが登場するものの、実際には育たないというエピソードを面白く教えていただきました。

藤島さんが在籍されたNASAエイムズ研究所での経験についても紹介していただきました。その中で、「宇宙生物学(アストロバイオロジー)」について、1995年にNASAが作った新しい学問、学際領域のことであり、「生命の起源がいつどこでどのように誕生したのか」、「生命の分布、私たち以外に生物がいるのかどうか宇宙に生命はいるかどうか」、「生命の未来、生命が誕生したらその生命の行き着く先(宇宙進出を含む)」という三つの大きなテーマを含んでいることを説明されました。この、宇宙生物学という考え方は、哲学的な文脈で語られたり、あるいは芸術の分野で考えられてきた「私達がどこから来たのかというルーツ」に関して、人類の歴史上において、ようやく解き明かすような時代になったことを意味する重要な学問であると語られました。

そして、火星について大気がほとんど二酸化炭素で構成され、土壌が過塩素酸に覆われているため、地球上の火星とよく似た環境に適応できる微生物を採取し、その微生物を用いて過塩素酸を分解することができれば、将来的に火星の土壌改善にも繋がるのではないかという研究をすすめる研究者がいることも紹介していただき、宇宙進出における微生物の有用性について説明していただきました。
また、火星が鉄分が酸化した「赤錆」で覆われているため赤茶けた色をしているのだと説明され、かつて火星は海があり、水が存在していたことが分かっているとのことで、火星にはひょっとしたら生物が誕生していた可能性が十分考えられること、今後の宇宙探査によっては火星生命が地球の生命のもとになったかもしれないという証拠が発見されるかもしれないと語られました。また、何故現在火星には海がないのかについてもわかりやすく説明していただきました。火星の生命探査の現状について、「火星探査車キュリオシティ」の活動や後継機の「パーサヴィアランス」についても紹介していただきました。探査機「パーサヴィアランス」により、2033年には火星の生のサンプルが地球に到達する予定であり、火星生命の直接的な証拠が含まれてる可能性があることから、研究者として分析に携わりたいと語られました。

現在、太陽系内の生命探査がいよいよ本格化する時代を迎えているそうです。その中で、、内部に海がある考えられている木星の第2衛星のエウロパ、土星の第2衛星のエンケラドスなど火星以外の天体で生命のいる可能性のある惑星について紹介していただき、その中でも講師の藤島さんが注目されている土星の第2衛星のエンケラドスについて、注目している理由や衛星の特徴、地球上で同じような環境で微生物が存在しているので、生命がいる可能性もあることについてお話をいただきました。そして現在進められている「エンケラドスサンプルリターン」という計画についてプロモーション映像を交えながら説明していただきました。

生命の系統樹についても触れられ、私たちの先祖の細菌についても解説していただきました。その上で、生命の起源の研究をやっているうえでの問題点として、同じ祖先を持つ地球の1種類の生物しか知ることができないため、本当の意味での比較生物学ができないという点について語られ、本当の意味での比較生物学を行うためには、地球外の天体での生命の発見が必要だと説明していただきました。

太陽系の外についてもお話をしていただき、表面に液体の水をたたえることができる範囲に含まれているエリアゾーン「ハビタブルゾーン」についてや、片側は昼・反対側はずっと夜という特殊な天体のお話、常に赤色に近い光しか飛んでこないので、もし植物が存在すれば真っ黒な植物になるのではないかという、トラピスト星系の恒星についてのお話もしていただきました。

さらに、地球外生命がいた時に地球を観測したら地球の生命に気づくのかという問題については、相当観測精度が良ければおそらく気づいてくれると思うと私見を述べられ、夜の地球の映像を見せていただき、人間が生み出している光が宇宙空間からどのように見えるのかを実例にあげられ、文明を発展させてきた明かり(エネルギー)を今宇宙に向かって放っており、観測精度に優れた機器を持っているエイリアンはこの光の分布を見た瞬間に生命がいるということがわかるだろうと言われ、向こうが見つけるのが先か私たちが見つけるのが先ということになるだろうとおっしゃられました。

はやぶさ2についても特別にお話をいただき、今後の生命探査におけるサンプルリターンの技術や解析の重要性や、はやぶさ2のサンプルから生物を作るアミノ酸が見つかったことにも触れられ、
「アミノ酸」が何故重要なのかについても説明していただきました。

私たちは、地球そして宇宙における生命の起源などを知ることができるかもしれない非常に重要な時代に生きていると言われ、まだまだ「宇宙生物学」という学問は日本では認知度が低いので、こんな面白い学問があるんだとたくさんの人に興味を持ってもらい、魅力が伝われば嬉しいと語られました。
最後に、宇宙から俯瞰してみると生命の多様性の素晴らしさに気づくことができると語られ、人と人とが争い、戦争が起きている時代だからこそ、宇宙から俯瞰した視点で物事を考えていくことが大切なのではないかと締めくくられ、講演会は終了しました。

  • 関連展示の様子

    ロビーでは、講師の藤島さんも協力した、宇宙飛行士募集のポスターや東京工業大学地球生命研究所が発行するリーフレットなどの展示を行いました。

  • 関連展示の様子_2

    開場中や終了後、たくさんの方にご覧いただきました。

  • 手話通訳・要約筆記の様子

    今回の講演会では、手話通訳や要約筆記の方に協力をいただいて開催しました。 

参加者の声

  • アストロバイオロジーという分野について、とても興味を持っていて、将来はその研究をしたいと志していたので、とても面白く素晴らしい講演が聞けて良かったです。
  • 子どもが宇宙が大好きで、今回参加しました。小学校の子どもが目を輝かせて話を聞いていました。私自身もとても楽しめました。ありがとうございました。
  • 壮大なテーマの最新情報を分かりやすく、科学的にもきちんと話してくださって、最高でした!本当に素晴らしい講演でした。
  • 壮大な宇宙の話から、ミクロな生物の世界まで、とても分かりやすく、興味深くお話しいただき、来てよかったと思います。一緒に来た娘もこれからいろいろなことに興味を持ってくれることを願いました。素晴らしい講演でした。ありがとうございました!!
  • 近い将来、宇宙生命を見つけることができるかもしれない。大変刺激的な時代に私たちは生きている。見てみたいその生命を!