みえアカデミックセミナー2021
鈴鹿工業高等専門学校公開セミナー
「生命の設計図・遺伝子の働きを知る:細胞内での働き方と応用例」
の事業報告

開催日
2021年8月25日(水曜日)
開催場所
三重県文化会館1階 レセプションルーム
開催時間
13時30分から15時00分まで
講師
鈴鹿工業高等専門学校 生物応用化学科 講師 今田 一姫 さん
参加人数
59名
参加費
無料

「みえアカデミックセミナー」は三重県内の大学・短大・高専・放送大学を含めた高等教育機関との連携で生まれた公開セミナーです。
毎年7月から8月(令和3年度は7月16日から8月25日まで)にかけて、三重県総合文化センターを会場に、各校1日程ずつ、選りすぐりの先生にご専門の研究内容を分かりやすく講演いただいています。
前身となる「みえ6大学公開講座」から既に20年を過ぎ、「みえアカデミックセミナー」としては、18年目を迎えました。
今後も、県内の皆さんにたくさんの「まなびの種」をお届けしてまいります。



令和3年度の鈴鹿工業高等専門学校公開セミナーは、生物応用化学科 講師 今田 一姫さんを講師にお迎えしました。

鈴鹿工業高等専門学校 生物応用化学科 講師 今田 一姫 さん

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  • 【講演概要(ホームページ・チラシ紹介文より)】
    1865年にメンデルが遺伝の法則を発表し、法則の再発見を経て1950年代に遺伝子の正体が明らかになってから、遺伝子の機能解析や遺伝子を取扱う技術の開発は急速に進みました。本講演では、歴史を踏まえて遺伝子の働き方や取扱い技術の基礎を押さえ、農業や医療などでどのように応用されているのかを紹介します。

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バンディングとベストによって1922年に発見された糖尿病治療のインスリンについても遺伝子組換えの技術が関わっていると語られました。
  • カエルの子はなぜカエル?
    子の性質や能力は親に似るという「カエルの子はカエル」のことわざ通り、親の形質は子に受け継がれ、それを「遺伝」と呼ぶということをはじめに教えていただきました。親子で顔が似ていたり、チワワとダックスフンドのMIX犬が愛玩用に存在したりするのは、この「遺伝」によるものだと説明していただき、「何」が「どのように」伝わることで遺伝現象を起こしているのか、遺伝子の研究の歴史や応用技術などから解説していただきました。
突然変異の原因であるトランスポゾン(染色体上を転移する可動性のDNA)についての身近な例として、斑入りのハナモモやインディアンコーンを紹介していただきました。
  • メンデルの法則
    「メンデルの法則」は、遺伝子・遺伝現象を引き起こすものに着目した研究だったと述べられ、メンデルは何らかの粒子状の物質が1つの親の性質(形質)を決めていると仮説を立て、親から子に何がどのように伝わるのか確かめるために、1865年エンドウの形質について、どのように遺伝するかの実験を行ったことを解説していただきました。メンデルの研究が当時はあまり重要視されなかったことや、1900年に複数の研究者によって再発見された後、遺伝現象を引き起こすものを「遺伝子」と命名されるようになったことも教えていただきました。

■純系の確立
形質に着目したメンデルは、交配実験を行う前にエンドウの自家受精を繰り返し、特定の形質について遺伝的に純粋な系統を作り出し、「純系の確立」を行ったことを解説していただきました。形質の異なる品種同士を交配する「交配による育種」を行い、法則を発見したと語られました。
■優性の法則
特定の形質を持つ別純系のエンドウ種子を交配させた結果、一方の形質だけが子に現れ、もう一つの形質を覆い隠してしまったことに着目し、形質には「優性(顕性)」と「劣性(潜性)」が存在することをメンデルが発見したことや、対立遺伝子の関係、なぜ劣性(潜性)形質は隠されるのかという点についても解説していただきました。ただし、オシロイバナを含む一部の花の色などは、たとえば、赤と白の優性(顕性)関係が明瞭でない「不完全優性」となるため、優性の法則が必ずしも当てはまらない場合が存在することも教えていただきました。

■分離の法則
親世代の交配の結果できた第一世代同士を交配すると第二世代では遺伝的なばらつきが現れることから、第一世代が持つ遺伝子が第二世代にはランダムに分配されることをメンデルは発見したとおっしゃいました。

  • 遺伝子の実体は何か?
    遺伝子に関する研究の歴史から遺伝子について考えました。まず、肺炎球菌を用いて形質転換(細胞外部からDNAを取り込み、細胞の遺伝的性質をかえること)の原理を発見した「グリフィスの実験」(1928年)から説明が始まり、DNA分解酵素を用いることで遺伝子の実体はDNAであることを実証した「アベリーの実験」(1944年)、遺伝を司る物質が分かっていなかった当時に、DNAが遺伝物質であることの裏付けを行った「ハーシーとチェイスの実験」(1952年)、DNAの二重らせん構造を提唱した「ワトソンとクリックの研究」(1953年)についてそれぞれの実験方法を交えてわかりやすく解説していただきました。
    ■DNA・RNAの基本構造
    DNAはリン酸・糖・塩基によって構成されていると語られ、この構成を「ヌクレオチド」と呼ぶことや、リン酸と糖が交互に連なった鎖(主鎖)を紙に、塩基を文字に例えられ、正しい方向から塩基配列(文字)を読むことで、意味のある「遺伝情報」(文章)になると説明していただきました。
    また、塩基はアデニン・チミン・ウラシル・グアニン・シトシンの5種類があり、このうちDNAはアデニンとチミン、グアニンとシトシンが相補的に結合してペア(塩基対)を作ることで二重らせんの構造になるのだとおっしゃいました。この特性を利用することで好きな形の構造を作ることができる技術「DNA折り紙」についても紹介していただきました。
    ■DNAの半保存的複製
    重い窒素を通常の窒素を使用して、娘細胞には母細胞が持っていたDNA鎖と新しく作られたDNA鎖が半分ずつ含まれるという「半保存的複製」を証明した「メセルソンとスタールの研究」(1958年)について教えていただきました。
    ■PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)
    新型コロナウイルスの感染流行に伴い身近な用語となった「PCR」について実験の歴史や検査の仕組みについて教えていただきました。「キャリー・マリスの研究」(1983年)によって、DNA複製を行う酵素(DNAポリメラーゼ)を使って目的のDNAを増幅できることが発見され、温める・少し冷やすを繰り返すごとにDNA量を倍々にできるため、PCRの感染症検査では細胞中のウイルスの遺伝子を増幅して検査できるようになっていると説明していただきました。
  • セントラルドグマ
    DNA→(転写)→RNA→(翻訳)→タンパク質という遺伝情報の流れについて、DNAを設計図の原本に、RNAを設計図のコピーに、タンパク質を製品(生命現象を担う)に例えられて詳しく説明していただきました。
    ■転写:DNAからRNAへ
    設計図の原本(DNA)からコピー(RNA)を作成する工程を「転写」と呼び、RNAポリメラーゼの働きで塩基配列によって遺伝子に書かれた情報をコピーすることができると語られました。
    ■翻訳:mRNAからタンパク質へ
    タンパク質を構成する20種類のアミノ酸に対応するmRNAの塩基配列を「遺伝暗号」と呼ぶことや、「ニーレンバーグとマテイの実験」(1961年)によって初めて「遺伝暗号」が解読されたことを実験内容の説明とともに教えていただきました。また、1つのアミノ酸は3つの塩基の並びによって指定されることも教えていただきました。
  • RNAワクチン
    新型コロナウイルスで注目を集める「RNAワクチン」について、RNAの塩基配列を読み込んでタンパク質に翻訳させる原理を利用し、抗体のできやすい部位をヒトの細胞で作らせるという仕組みについて図をもとに解説していただきました。
  • 突然変異と進化
    突然変異とは、生物やウイルスの遺伝物資(DNA)の変化による形質の変化だと語られ、チャールズ・ダーウィンの進化論を例に、突然変異の蓄積と自然選択・淘汰、そして増幅の一連の流れが繰り返されることで形質の変化と種の誕生につながっていることを説明していただきました。
    ■人為選択による育種
    自然選択による進化と人為選択の育種の違いについてもお話しいただき、進化とは環境に応じて自然選択と自然淘汰により遺伝的に変化することであり、育種とは人の都合に合わせて人為選択により遺伝的に変化させることだと解説していただきました。それぞれ遺伝子の残り方が異なり、進化の場合は有利な遺伝子を持つものが残り、育種の場合は人が好む形質を持つものが残るのだと説明していただきました。そして、清酒酵母を例に、突然変異を誘発することで育種の速度を速めたり簡易化したりすることができるのだと突然変異による育種について説明していただきました。また、突然変異が起こる原因については、複製時の読み間違いや修復時のミス、遺伝子の塩基配列の乱れがあると語られ、突然変異を誘発することで選別の背景となる多様性の創出につながるとおっしゃいました。
  • ゲノム編集
    ゲノム(遺伝子全体)編集とは、設計した遺伝子の部位を酵素によって切断し、手本のDNA配列に従って修復し、狙った変異を入れる技術だとわかりやすく解説していただき、突然変異を自由に設計できる時代になっていると語られ、農業や医療、エネルギーなど様々な分野で応用されていることを実例を挙げて紹介していただきました。

  • 遺伝子組換え
    最後に、他種の遺伝子を取り込むことでその形質を示すようになる「遺伝子組換え」の技術について、青いバラの開発や害虫耐性を持つ作物を例にお話しいただきました。

参加者の声

  • 遺伝子について全く知らなかったので、ていねいな説明でよくわかりました。勉強になりよかったです。
  • 遺伝子の働きが大略理解できた。良い講演でした。
  • PCRやRNAなどコロナ感染症に関係する話があって勉強になりました。とても良かったです。
  • 講師の先生の研究の深さ、知識の豊富さに敬服しました。ありがとうございました。