みえアカデミックセミナー2021
皇學館大学公開セミナー
「カラダの外に浸み出すココロ:身振りや手振りの役割」
の事業報告

開催日
2021年8月24日(火曜日)
開催場所
三重県文化会館1階 レセプションルーム
開催時間
13時30分から15時10分まで
講師
皇學館大学 文学部 コミュニケーション学科 教授  芳賀 康朗 さん
参加人数
59名
参加費
無料

「みえアカデミックセミナー」は三重県内の大学・短大・高専・放送大学を含めた高等教育機関との連携で生まれた公開セミナーです。
毎年7月から8月(令和3年度は7月16日から8月25日まで)にかけて、三重県総合文化センターを会場に、各校1日程ずつ、選りすぐりの先生にご専門の研究内容を分かりやすく講演いただいています。
前身となる「みえ6大学公開講座」から既に20年を過ぎ、「みえアカデミックセミナー」としては、18年目を迎えました。
今後も、県内の皆さんにたくさんの「まなびの種」をお届けしてまいります。



令和3年度の皇學館大学公開セミナーは、文学部 コミュニケーション学科 教授 芳賀 康朗 さんを講師にお迎えしました。

皇學館大学文学部 コミュニケーション学科 教授 芳賀 康朗 さん

*************************

  • 【講演概要(ホームページ・チラシ紹介文より)】
    他者と会話をするとき、一人で考えごとをするとき、作業の段取りを整理するときに使うのは「ことば」だけではありません。無意識のうちに身体を動かして何かを表現していることがよくあります。この講演では、コミュニケーションや思考といった心のはたらきにおける身振りや手振りの役割について考えていきます。

*************************

「ココロ」は自分から発信されたものが他者を経由して環境に影響を与え、最後に自分に戻ってくるというのを繰り返すのだとおっしゃいました。
  • ココロとは何か?
    はじめに、ココロとは何か、どのような感情を表すのかということを考えるために「こころ(心)」や「りっしんべん(忄)」が部首につく漢字をできる限り書き出してみる時間が設けられました。「思」や「悟」など該当するたくさんの漢字が紹介され、ココロに関する多くの表現があることを確認しました。続いて、ココロとは何をしているのでしょう?と講師の芳賀さんが問いかけられ、認知・思考・学習・記憶などの「知性」、喜怒哀楽などの「感情」、コミュニケーションなどの「意志」について説明していただき、ココロにはさまざまな「はたらき(機能)」があると教えていただきました。そして、ココロのプロセスは「心的過程」・「行動」・「環境」が密接に関係しあっていて、「心的過程」には「意識過程」と「無意識過程」があり、自覚できるココロ(意識)と自覚できないココロ(無意識)があると説明していただきました。
顔が怒っているという表現からも分かるように、言葉の強調やしぐさなど人に与える影響について考えました。
  • ココロはどこにあるのか?
    「顔から火が出る(恥ずかしい)」や「目頭が熱くなる(感動して涙が出る)」など、身体の一部分を使ってココロの状態を表現する慣用句を考えました。慣用句からも分かるように、ココロは身体や「行動(こと・しぐさ・表情・生理的反応)」を介してソト(環境・他者)に働きかけるとおっしゃいました。

■心臓かそれとも頭(脳)か?
「心」という漢字は象形文字の成り立ちから考えると心臓の形を表しており、作られた当時は「心」は「心臓」にあると思われていたのだと語られ、英語の「Heart」も心臓と心を指す(ただし、心理学では「心」は「mind」と表現する)ことから、東西を問わずかつては「心」は「心臓」に存在すると考えられてきたのだと解説していただきました。一方で、「脳」はもともとは「腦」という漢字であったことから、漢字の右側は泉門(頭頂部にある頭蓋骨が不完全できちんとくっついていない部分)と髪の毛が組み合わせることで「脳みそ」を表しているとおっしゃられ、「思」には象形文字では同じ泉門を表す部分が使用されていることから「脳と心」を表現していると説明していただきました。「心があたたまる」という時、頭を指して言う人はいないけれど、ココロの動きは頭の中で行われていることが科学的に証明されていること、心身は強く結びついていると唱えたフランスの哲学者デカルトの松果体説や、ローマ帝国時代に既にココロは脳にあると考えた医学者ガレノスの精気説を紹介してきただき、「ココロ」と「脳」の関係について教えていただきました。

  • 頭の中のココロ
    心理学が想定する「ココロ」の仕組みは、外界からの刺激を処理して、行動として出力する情報処理システムと考えられていることを紹介していただき、刺激を受けてから感覚を経て知覚・認知・意思決定に至る過程や記憶・情動からの影響について図をもとに説明していただき、メタ認知(監視)も含めて人工知能の構造についてもお話しいただきました。
    情報処理の仕方には「トップダウン型」と「ボトムアップ型」があると教えていただき、その内「トップダウン型の情報処理」が人間に与える影響について詳しく解説していただきました。動物の模様に隠された地図に気がつかない、ドット絵やモザイク絵になっているにもかかわらず有名絵画だと分かる、ひらがなで書かれた文章を明らかに間違っている箇所が複数あるのに正しく読めてしまうなど、実際に画像や例文を使って、知っているのに認識できない、知っているから認識できる、単語の最初さえあっていれば、他の文字が間違っていても読めてしまうことを受講者の皆さんに体感していただきました。そのうえで、「トップダウン型処理」は見ている通りではなく、知っている通りにしか世界を認識できないこと、経験や記憶(過去)の方が感覚や知覚(現在)よりも影響が強いこと、そのため、過去の経験や記憶が想像や不安(未来)を呼び起こし、早合点や思い込み、取り越し苦労をしてしまうという「ココロ」の動きにつながると説明していただきました。

  • 身体のそとに浸み出るココロ
    人は意識して発信・受信する情報(言葉・話し方・メイク・衣装など)と無意識のうちに発信・受信している情報(視線・表情や・身ぶりなど)の2種類があると説明していただき、「ココロ」は何によって身体のソトに浸み出るのかということについて、「言葉」と「非言語情報(ノンバーバル)」によって発信されると語られました。「非言語情報(ノンバーバル)」には、表情や視線、声、身ぶり(ジェスチャー)などがあると説明していただき、「顔に書いてある」や「目は口ほどに物を言う」など私たちが言葉以外から情報を得ていることを指す言葉があることを教えていただきました。人は視覚情報から55%、言語情報からは7%しか得ていないとする「メラビアンの法則」を紹介していただき、たとえば、好意を持っている相手に感情を伝える時「あなたが好き」という言葉に対して表情やしぐさ、話し方が否定的な場合、人は言葉以外の情報を信用するとおっしゃいました。ただし、状況に応じて適用されるという前提がつく「メラビアンの法則」を拡大解釈して見た目の影響力を過剰に持ち上げる俗説も存在するので注意が必要だとおっしゃいました。また、パーソナルスペース(お互い心地よい距離)に関する動画を視聴しながら、電車などで空席があるにもかかわらず全く知らない人が自分のすぐ隣に座った場合、人は不安や不快に感じて移動しようとすると説明され、非言語情報には対人距離も含まれると語られました。対人距離には、親密・個体・社会・公衆距離があると言われ、知り合いか他人かによって快・不快に感じる距離が異なることやパーソナルスペースは「場所」に対する縄張りと異なり、相手によって変化するスペースであり、自分に付随する「空間」のことであると解説していただきました。
    身体のそとに浸み出たココロは、私のソト(他者や環境)と私のウチ(自分自身)とに伝達され、私のソトに伝達されるということがすなわち「コミュニケーション」であり、自分のココロを他者にアピールしたり、他者の行動に影響を与え、他者との関係を確認したりするなど、自分で自分のココロを確認することにもつながるとおっしゃいました。
  • 身ぶりのはたす役割
    身ぶりにはピースサインや指さしなどさまざまな種類があり、「言語情報を補完する」・「相手の状況を理解する」・「信頼関係を形成する」役割があると解説していただきました。言語情報と非言語情報のかかわりについても教えていただき、言語情報も身ぶりもないと人は無視や拒絶を感じてしまう一方で、「怒らないから本当のことを言いなさい」と怒りを浮かべた表情をしている相手から言われた場合、言われた人は困惑してしまうという、言語情報と身ぶりの不一致(ダブルバインド効果)についても説明していただきました。そして、身ぶりがコトバの役割をはたすボディ・ランゲージについて、言葉が通じなくても意思伝達ができたり、言葉よりも相手に気持ちを伝えることができたりする一方で、大雑把な情報しか伝えることができず、文化や習慣の違いを認識しておく必要があると語られ、インドでは首を振る動作の種類が多数あり、YESも横振りになるという習慣の違いを紹介していただきました。
  • 身ぶりは思考を加速する!
    身ぶりは言葉の代替品に過ぎず、他者がいないと成立しないコミュニケーションのための道具なのかという疑問に対して、失敗した時頭をおさえたり、電話に向かってお辞儀をしたり、算盤をはじく動作をしたりするなど他者がいなくても身ぶりは現れるとおっしゃいました。身ぶりには「他者指向的機能」と「自己指向的機能」があると語られ、言い間違えを防ぐなどの発話を促進する機能や配置や順序などの空間的・時間的・運動的情報を整理整頓する機能が身ぶりの「自己指向性」であると解説していただきました。そして、講師の芳賀さんが過去に行った実験から、経路を説明する際に人は誰も見ていないのに進行方向や建物の位置などを身ぶりを使って説明しようとすることや、身ぶりを禁止して漢字の画数をカウントしようとすると、身ぶりを許可した場合に比べて正答率が低くなったという実験結果を紹介していただきました。また、漢字の綴りを思い出す際に無意識に空中に文字を書こうとする動作をとってしまうことを、実際に問題を出して受講生の皆さんにそのことを実感していただく時間が設けられました。

  • まとめ
    最後に、ココロとは身体のナカに宿る「物質」ではなく、身体のソトに開かれた「現象」であるということ、ココロは勝手に身体のソトに浸み出してくること、身体化された認知であると結論を述べられ、マスクやリモート、ソーシャルディスタンスなどココロが浸み出しにくいコロナ禍をどうのりきるのか一度一人ひとりが考えてみてほしいと語られました。

参加者の声

  • 待望の講座でした。無意識の言動他、バリエーション学習させてありがとうございました。
  • 身振りが思考を加速するというところが、特に参考になぶりと聞いてまず意識的なものを考えていた。今日の話を聞きまして、無意識にでもおきていること、そして自分自身に対してもしていることに気づかせていただきました。身ぶりの役割を意識して人とかかわっていきたいと思います。ありがとうございました。りました。コロナの中で心が伝わるようにコミュニケーションができるといいなと思います。
  • 意識していなかったことを面白く解説して頂き、わかりやすかった。