みえアカデミックセミナー2021
放送大学三重学習センター公開セミナー
「グリーンケミストリー :四大公害から学ぶ」
の事業報告

開催日
2021年8月18日(水曜日)
開催場所
三重県文化会館1階 レセプションルーム
開催時間
13時30分から15時25分まで
講師
放送大学三重学習センター 所長 清水 真 さん
参加人数
56名
参加費
無料

「みえアカデミックセミナー」は三重県内の大学・短大・高専・放送大学を含めた高等教育機関との連携で生まれた公開セミナーです。
毎年7月から8月(令和3年度は7月16日から8月25日まで)にかけて、三重県総合文化センターを会場に、各校1日程ずつ、選りすぐりの先生にご専門の研究内容を分かりやすく講演いただいています。
前身となる「みえ6大学公開講座」から既に20年を過ぎ、「みえアカデミックセミナー」としては、18年目を迎えました。
今後も、県内の皆さんにたくさんの「まなびの種」をお届けしてまいります。



令和3年度の放送大学三重学習センター公開セミナーは、所長 清水 真 さんを講師にお迎えしました。

放送大学三重学習センター 所長 清水 真 さん

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  • 【講演概要(ホームページ・チラシ紹介文より)】
    高度経済成長期に重化学工業化の影響で産業公害が拡大し、四大公害(水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市ぜんそく)が発生しました。これら苦い経験を踏まえ、グリーンケミストリー(環境に優しいものづくりの化学)の考えが構築されてきました。本講演では最近のグリーンケミストリーの動向について概説します。

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四大公害の一つ、四日市ぜんそくについては公害の原因物質である硫黄酸化物を取り除くだけではなく、現在取り組まれているさまざまな大気汚染のための環境対策についても教えていただきました。
  • グリーンケミストリーとは何か?
    1995年前までは「環境に優しい化学」という考え方だったのが、「環境に優しい物づくりの化学」に変化していき、化学技術によって安全で環境への害がより少ない化学品や製造プロセスの開発を目指すことがグリーンケミストリーの意義であると説明していただきました。
  • 四大公害病
    グリーンケミストリーの考えに至るまで、化学技術によって社会がどのような影響を受けてきたのかについて四大公害病から考えました。
廃棄物は出さない、省エネをこころがける、原料は再生可能な資源を使うなど、製造工程において指標となる「グリーンケミストリーの12箇条」についても紹介していただきました。

■水俣病/新潟水俣病
水俣病と新潟水俣病の歴史について年表をもとに振り返りました。原因としては、海や河川に排出された工業廃水に含まれていたメチル水銀化合物(有機水銀)が、食物連鎖によって人間の体内に蓄積されてしまったことであると解説いただき、世界中で多様な水銀による汚染が起こっていると説明していただきました。日本の水俣病と新潟水俣病ではアセトアルデヒド(酢酸や酢酸ビニールなどの原料)の製造過程で金属水銀(無機水銀)が媒体に使われるようになったことでメチル水銀化合物(有機水銀)が発生してしまったと述べられ、金属水銀(無機水銀)は金・銀の精錬に昔から使用されてきた物質であり、公害にまで発展したのは水銀自体の問題ではなく扱いが悪かったことが原因であるとおっしゃいました。そして、アセトアルデヒドの合成方法について化学式を用いて説明いただき、かつて行われていたアセトアルデヒド製造工程過程(チッソ)を解説いただきました。現在では、塩化パラジウム、エタノールを触媒した合成方法に変わっていることを同じく化学式と図をもとに説明していただき、無機水銀を触媒にしてアセトアルデヒドを製造する限り、甚大な被害が出ることが過去の公害から理解することができ、当時の時代背景からコストの面で安易に水銀が使用されてきた事実を踏まえ、現在、水銀は使用されておらず、この化学技術によって問題の解決を図ろうとすることがグリーンケミストリーであると語られました。

■イタイイタイ病
イタイイタイ病とは何か、発生原因や歴史、公害物質漏出経路から考えました。1870年代から発生し、1960年代に公害として認定されたイタイイタイ病は、金属鉱山から流出した硫化カドミウムが下流の水田の土壌に蓄積され、生物濃縮は149万倍でその米を食べた人が発症した公害だと説明していただきました。硫化カドミウムは自然になくなることはないため、農地復元工事が行われたことを説明していただき、埋込客土工法・上乗せ客土工法という復元工事法を紹介していただきました。また、2002年には土壌汚染による健康被害の防止を目的として「土壌汚染対策法」が制定されたことを教えていただきました。
■四日市公害
四日市公害の原因や歴史を年表をもとに考えました。四日市公害は戦後の急激な産業の発展の中で工場から硫黄酸化物の排出量が増大し、大気汚染が深刻化した結果、多くのぜんそく患者を発生させたと語られ、硫黄酸化物に対する規制が設けられたことで1967年以降から脱硫対策が進められたと解説いただきました。脱硫対策として脱硫装置が普及したことや、原料油から硫黄酸化物を取り除く水素化脱硫などの「原料油脱硫対策」、排ガスから硫黄酸化物を取り除く「排煙脱硫対策」をそれぞれの仕組みとともに説明していただきました。

  • グリーンケミストリーとは?
    グリーンケミストリーとは、製造過程において「有害な物質やプロセスなどを置き換える」、「化学薬品やエネルギー消費を減らす」、「リサイクル/再生」、「良性廃棄物」というサイクル全体を、人体および環境に負荷をかけないで行う考え方、化学技術のことであり、化学プロセス、化学製品がもたらす環境負荷を大幅に軽減、「経済性、効率性」、「化学と社会の信頼関係」という3つのねらいがあること、1995年にはアメリカ合衆国で米国大統領グリーンケミストリーチャレンジ賞が創設されたことを紹介していただきました。
    ■グリーン度をどのように知るか?/グリーンケミストリー尺度
    グリーン度をどのように知れば良いのかについて、イギリスの学者であるウィリアム・トムソンの言葉を引用され、数字で示すことの重要性を説かれました。そして、廃棄物の重量(kg)を製品として販売された物質量で(kg)で割った値、Eファクターが化学プロセスのグリーン度を評価する指標の1つであると解説いただき、この計算式によれば、石油であれば10%は製造過程でごみとなり、バルクケミカルは5倍のごみが、プラスチックは1㎏で約30㎏、製剤では1㎏で約100㎏のごみが出るということになり、化学式からも現代では物を作る際には製品よりも廃棄物の方が多いことが分かると説明していただきました。特に、薬の生成過程では大半が廃棄物となる現状を教えていただきました。
    原料や反応剤の選択、製品選択と安全製品の企画など、グリーンケミストリーの検討課題と項目についても解説いただき、代替合成経路・反応条件の使用や低毒性の化学品といったグリーンケミストリーの研究領域、原料・プロセス・製品・サイクルというグリーンケミストリーの技術体系についても教えていただきました。
  • グリーンケミストリー技術開発動向
    セルロースによる液晶や生分解プラスチックの開発、植物性油脂によるバイオディーゼル燃料の開発、デンプンから塗料を生成したり、廃棄物資源・バイオマスを使用して肥料・燃料を作ったりといったグリーンケミストリーの技術開発動向を紹介していただきました。

  • 化学資源化に適した未利用バイオマス
    バイオマスの再生率について、各未利用バイオマスを発生量や未利用率で比較し、麦わらが優れたバイオマスであることや古紙・建築発生材木は使い道をよく検討する必要があるなど数字から読み取れることを解説していただきました。
  • グリーンプロセスの開発
    反応剤や代替反応試薬の開発、触媒反応のプロセスシンプル化、経済性の向上などグリーンプロセスの開発についてお話しいただきました。「モンサント改良法」を例に、化合過程で塩素を減らすだけで廃棄物を減らすことができることを化学式から紹介していただきました。また、溶媒の代替問題もグリーンプロセスにおいては重要だと語られ、かつてノンカフェインのコーヒーを作る際に有機溶媒抽出としてベンゼンを使用していたこと、ベンゼンは便利で安価な溶剤だが発がん性があるため、現在は別の溶剤が使用されるようになったことを説明していただきました。そして、現在注目されている「超臨界二酸化炭素」についても紹介していただき、二酸化炭素は標準の温度と圧力でガスに、冷却・加圧することで固体(ドライアイス)になるが、超臨界二酸化炭素は気体と液体の中間のような物質であり、扱いやすく、環境への影響も低いため、今後さまざまな分野で活用が期待されているグリーンエネルギーとしての溶剤であると語られました。

  • 水の問題
    安全な水資源を利用できる人口の割合がどれぐらいなのか、水の使用量がどれくらい増えているのか、2025年までに水不足が予想されてる国はどれくらいあるのかといった、世界における水の問題について説明していただきました。その上で、現在海水の淡水化技術が注目されていることや、多段フラッシュ蒸留法や逆透膜法など主な海水淡水化法や構造について教えていただきました。海水淡水化については塩分を除去した際に使用しない方の水をそのまま海などに捨ててしまうと塩分濃度が高いままとなり、新たな公害問題につながることや中東を中心に水ビジネスが活発になってきていることを紹介していただきました。

  • ポリ乳酸の環境貢献/ポリ乳酸をめぐる動き

    はじめに、ポリ乳酸の特徴としてトウモロコシやサツマイモなどを原料として作られる100%植物由来の材料であることを説明していただき、廃棄後も無害な物質に変わる生物分解材料であることや二酸化炭素を増やさないカーボンニュートラルであるため地球温暖化の防止に貢献することを教えていただきました。そして、環境意識の高まりに対して今後植物由来材料が急拡大する見通しであることや、原油高騰の影響を受けないため安定的にコストダウンを続けることができることを解説いただきました。

  • グリーンケミストリーの使命
    有機合成化学の役割が重要であり、人類の幸福につながるとおっしゃいました。そのためには、活性化エネルギーを下げたり、反応の進行を促進したりする「ものづくりの化学」に必要不可欠である「触媒」について語っていただき、「生体触媒」・「金属触媒」・「有機分子触媒」についてそれぞれの特徴や生成過程について教えていただきました。特に、「有機分子触媒」については2000年代から台頭してきた新しい研究分野であり、第三の触媒として非常に注目されていることを解説していただきました。

    最後に、地球規模の気候変動が起こっている現代において、四大公害の経験がある日本では特に環境に対する高い意識が求められること、また資源の枯渇などに対する危機感を持たなければならないことなど、SDGsの観点からも注目されているグリーンケミストリーについての重要さを理解してもらえたら嬉しいと語られました。

参加者の声

  • 公害は今も終わっていないと思っていますが、グリーンケミストリーが、この先も研究を重ねながら広がっていくことが、とても重要だと感じました。
  • 水資源やとうもろこし原料などの技術解説が興味深かった。
  • 現在の状況がよくわかりこれからの方向性も関心を持って聴くことができました。参考にしていきます。
  • 全く知らない化学の考え方を知りました。グリーンケミストリーの重要さがわかりました。