みえアカデミックセミナー2021
鈴鹿大学公開セミナー
「日常生活で必要な緊急時の対応
-身近に起こり得る健康障害への救急処置-」
の事業報告

開催日
2021年8月11日(水曜日)
開催場所
三重県文化会館1階 レセプションルーム
開催時間
13時30分から15時20分まで
講師
鈴鹿大学 こども教育学部こども教育学科 養護教育学専攻 准教授 小川 真由子さん
参加人数
63名
参加費
無料

「みえアカデミックセミナー」は三重県内の大学・短大・高専・放送大学を含めた高等教育機関との連携で生まれた公開セミナーです。
毎年7月から8月(令和3年度は7月16日から8月25日まで)にかけて、三重県総合文化センターを会場に、各校1日程ずつ、選りすぐりの先生にご専門の研究内容を分かりやすく講演いただいています。
前身となる「みえ6大学公開講座」から既に20年を過ぎ、「みえアカデミックセミナー」としては、18年目を迎えました。
今後も、県内の皆さんにたくさんの「まなびの種」をお届けしてまいります。



令和3年度の鈴鹿大学公開セミナーは、こども教育学部こども教育学科 養護教育学専攻 准教授 小川 真由子さんを講師にお迎えしました。

鈴鹿大学 こども教育学部こども教育学科 養護教育学専攻
准教授 小川 真由子さん

*************************

  • 【講演概要(ホームページ・チラシ紹介文より)】
    自然環境や社会背景の変化に伴い、健康問題が多様化しています。急な健康障害の発生時には、医療機関へ運ぶまでの対応である一次救命処置が重要になります。身近に起こり得る健康障害の事例を取り上げ、私たちにできる正しい救急処置について学びます。

*************************

スポーツの分野における脳損傷への対応はまだ十分とはいえず、選手のための経過観察の重要性を説かれました。
  • 救急処置について
    まず救急処置には、心肺停止や呼吸停止に対して専門的な器具や薬品を使わない「一次救命処置」と病院等の医療機関において医師や救急救命士が行う高度な心肺蘇生法である「二次救命処置」があると説明していただきました。そして、心肺蘇生法とは脳への酸素供給維持のことであり、脳自体には酸素を蓄える能力がないので呼吸が止まると4分から6分で低酸素によって脳が停止状態に陥るため、救急隊到着までに現場に居合わせた人による救急処置の有無が救命率に大きく関わってくると解説いただきました。また、救命曲線図をもとに心肺停止は3分、呼吸停止は10分、多量出血は30分で約50%の生存率となることを解説していただきました。
小児期に発症する喘息や食物アレルギーの中には、体の成長や消化器官の発達に伴ってアレルギー症状がおさまるものもあることを教えていただきました。一方、大人になってから薬や花粉に反応して罹患するアレルギーもあるとおっしゃいました。
  • 脳卒中(脳血管障害)
    脳卒中には、脳の血管が破れるタイプ(くも膜下出血・脳出血)と脳の血管が詰まるタイプ(一過性脳虚血発作・脳梗塞)の2種類あることや、どちらのタイプも言葉がうまく出なかったり、意識はあるものの何らかの障害が出ていたり(意識障害)、頭痛・嘔吐などといった症状が出ること、特に片麻痺の症状が出ることが特徴であると解説していただきました。対応としては、症状に気づいたらとにかく早期に専門病院を受診することが重要だとおっしゃいました。その際には、二次被害が出るといけないので絶対に自分で車を運転することは避けるようにと注意を促されました。そして、救助の場合には、意識がある時は周囲の人に知らせ、安静を保つために相手を寝かせることや、意識がない場合には気道の確保として顎を上げ、誤嚥・窒息防止のために顔を横向きにして麻痺した側を上にするように寝かせることなど注意点を説明していただきました。
  • 頭部外傷
    注意しなければならない傷病として、頭蓋骨折、脳損傷、硬膜下血腫をあげられ、特に側頭部受傷時に注意する必要があるとおっしゃいました。その理由として、人間はボールをよける時など目の前に飛んできたものからとっさに顔を横にして避けようとする動作をとることが多いが、側頭部は頭蓋骨が薄いため骨が折れやすく障害を受けやすいからだと説明していただきました。頭部外傷の際には、ぼんやりしていたり無反応だったりといった徴候が見られた場合には注意が必要であり、すぐに救急車の要請をすることが望ましいとおっしゃいました。子どもの場合には泣いている方が安心であり、泣かずにぼーっとしている状態や無反応、傾眠勝ちの場合は、緊急度が高いと注意を促されました。状況を問う際には、「いつ・どこが・どんなに(痛みの状態、意識消失の有無など)」「どうやって・その他(吐き気やめまいの有無)」を確認すること、吐き気は頭の中で出血している可能性が高いため注意が必要であることを教えていただきました。他にも視診や触診の仕方、瞳孔の反応を確認して左右の大きさが違えば呼吸停止の可能性があるなど検診の手順や方法を説明していただきました。
    ■注意すべきポイント
    頭蓋内出血の危険性を理解し、目に見える変化がなく、本人が大丈夫だと答えても長時間の経過観察が必要であること、その際には、少なくとも2時間の安静とその後6時間は「意識の状態」・「吐き気・嘔吐」・「けいれん・四肢の運動障害」に注目して様子を観察することが大切だと教えていただきました。また、頭部外傷に関する「2の法則」や、実際の死亡事例をもとに頭部外傷を軽視する危険性などについて紹介していただきました。そして、セカンドインパクトシンドローム(1回目の障害に2回目の衝撃が加わること)を避けるためには周りの静止が必要であると語られました。
  • アレルギー
    免疫反応が出たアレルゲン(特定の抗原)に対して反応することをアレルギーといい、どこの臓器で反応するかは人それぞれだと解説していただきました。アレルギーの原因には、主に「食物アレルゲン」、「花粉アレルゲン」、「環境アレルゲン」などがあり、それぞれアナフィラキシーをおこす可能性があることを説明していただきました。アナフィラキシーとは、短時間のうちに全身性にアレルギー症状が出る反応のことであり、皮膚、呼吸器、粘膜、消化器、循環器など複数の臓器にあらわれ、血圧の低下や意識障害、場合によっては命を脅かす危険な状態になることもあるため注意してほしいと語られました。
    ■「食物アレルギー」
    加工食品のアレルギー表示について、必ず表示される7品目(特定原材料)に比べて、表示が進められている20品目(特定原材料に準ずるもの)は表示が省略される場合があるから注意が必要であることや、子どもの食物アレルギーは増加傾向にあることを説明していただきました。
    ■エピペン(R)
    アナフィラキシーがあらわれた時、医師の治療を受けるまでの間、症状の進行を一時的に緩和し、ショックを防ぐためのアドレナリン自己注射薬である「エピペン(R)」について、どのように身体に作用するのか、気管支を広げ、血圧を上昇させる働きがあることについて詳しく説明していただきました。食物によるアナフィラキシーは発症から心肺停止までわずか30分しかないこと、症状がある場合には5分以内の判断が生死を分ける場合があるため、当事者だけでなく周りの人も打てるようにしておくことで生存率があがると説明していただきました。続いて、過去に起こったアナフィラキシーの事例を4つ紹介していただき、エピペン(R)の適切な使用がなかったため死亡したケースや、アレルギー食品を食べた後に運動をすることでアナフィラキシーが発症する運動誘発性アレルギーについて解説していただきました。当日は、実際に練習用のエピペン(R)を講師の小川さんに持ってきていただき、使い方や打つ場所を実践して教えていただきました。
    エピペンの主成分は、人間の体で作られる体内物質の一種であるアドレナリンのため、誤って打ってしまっても多少の動悸やほてり感などが出るだけで、特定の基礎疾患がある場合を除いてひどい状態になるわけではないので、「ためらわずに打つ」という気持ちで使用してほしいと講師の小川さんから受講者の皆さんにアドバイスされていました。

  • 熱中症
    ある統計から熱中症は21℃から38℃の広い範囲で起こること、6月の熱中症は体が暑さになれていないので7月よりも低温で起こりやすいことを教えていただきました。また、人間の熱バランスに与える影響「湿度」「輻射熱」「気温」を合わせた指標である「暑さ指数(WBGT)」から運動時の熱中症について考えました。熱中症の症状の分類についても解説いただき、実際に学校現場やマラソン競技会で起こった熱中症の事例をもとに、手当が遅れることで重症化し、命に関わる場合もあるのが熱中症であるとその危険性を説かれました。応急処置としては、簡単な方法として、体温を下げるということは血液の温度を下げるということなので、首すじ、脇の下、足の付け根の3点を冷却することや、発症者に意識があれば手のひらに氷やアイスノンを握らせて冷やすと効果的であること、水分補給を行う際は水分・塩分・糖分の要素が必要であり適切な水分補給を行わないと逆に水分不足になって危険であると注意点を教えていただきました。特にアルコール飲料は1リットルのビールに対してアルコール分解等のため1.1リットルの水分が必要といわれているため、脱水症状が進行することもあり、飲酒時には注意してほしいとおっしゃいました。

  • 突然死
    「予期していない突然の病死」である突然死の中で、症状が出てから1時間以内に死亡するといわれる「心臓突然死」は、日本では年間6万人が死亡しているという現状や、AED(自動体外式除細動器)を使用した一次救命の重要性について説明していただきました。まず、AEDとは何か、仕組みや日本におけるAEDの歴史についてについて紹介していただきました。アメリカでは1980年代にAEDが開発されものの、日本では2001年の段階でも飛行機の客室乗務員(医師が不在時のみ)にのみ許可されるという限られた使用であったこと、2005年に愛知県で行われた万博では会場にAEDが配置され、実際に使用されたことで命が助かったケースがあり、認知度が向上したことを教えていただきました。
    また、心肺停止直後の傷病者に見られる、しゃくりあげるような呼吸「死線期呼吸」は医療関係者以外が見分けることが難しく、呼吸していると誤って判断され適切な救命がされず、死亡に至る可能性があるため、AEDを使用して指示に従うようにと注意点を述べられました。
    女性に対してAEDを使用する際には胸元にタオルを置くなどすると処置が行いやすいこと、コロナ禍における一次救命処置として傷病者の顔から距離を置き、胸と腹部の動きで呼吸の確認を行い、感染予防として人工呼吸は行わないことなどを教えていただきました。
    最後に、現代の便利なツールを利用することで慌てずに一次救命を行えるようになる例として、スマートフォンで「すみません、誰か来て下さい」と検索すると救命方法の動画を見ることができることを紹介していただき、とっさの時に行動をおこす勇気を持つことが一人ひとりの命を守るために必要なことではないかと語られました。

参加者の声

  • エピペン(R)の使い方が学べて良かった。救急処置の各方法の意味の背景が解りやすく話してもらって非常に役立った。
  • タイトル通り「身近に起こり得る健康障害」への対応すばらしい講演、ありがとうございました。
  • 具体的な話だったのでとてもよくわかった。エピペン(R)もはじめて使ってみてよくわかり、自信になった。(以前蜂にさされて大変だったことがあったので)
  • 小川さんの話術が大変良く、興味を持って聴くことができた。アレルギーの話は、知らない事(エピペン(R)etc.)が多く、大変役立つお話しでした。全般を通じて、テーマ毎に実例を出して、説明もあり、内容がよくわかり、記憶に残りました。