みえアカデミックセミナー2021
四日市大学公開セミナー
「転倒予防のための身体運動」の事業報告

開催日
2021年8月9日(月曜祝日)
開催場所
三重県文化会館1階 レセプションルーム
開催時間
13時30分から15時20分まで
講師
四日市大学 総合政策学部(総合政策学科) 特任准教授 小泉 大亮 さん
参加人数
66名
参加費
無料

「みえアカデミックセミナー」は三重県内の大学・短大・高専・放送大学を含めた高等教育機関との連携で生まれた公開セミナーです。
毎年7月から8月(令和3年度は7月16日から8月25日まで)にかけて、三重県総合文化センターを会場に、各校1日程ずつ、選りすぐりの先生にご専門の研究内容を分かりやすく講演いただいています。
前身となる「みえ6大学公開講座」から既に20年を過ぎ、「みえアカデミックセミナー」としては、18年目を迎えました。
今後も、県内の皆さんにたくさんの「まなびの種」をお届けしてまいります。



令和3年度の四日市大学公開セミナーは、総合政策学部(総合政策学科) 特任准教授 小泉 大亮 さんを講師にお迎えしました。

四日市大学 総合政策学部(総合政策学科) 特任准教授
小泉 大亮 さん

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  • 【講演概要(ホームページ・チラシ紹介文より)】
    転倒骨折が要介護の主な要因と報告されています。
    本講演では、転倒予防を目指したバランス運動の理論を紹介し、研究実践で効果が確認されたバランス運動を実践していただきます。

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人間は常にじっとしているわけではなく、姿勢調節機能によって都度必要な修正を行い、姿勢を保っているそうです。老化現象によって機能に影響が出ることによって、転倒の危険性が増すと語られました。
  • 身体運動のガイドライン(高齢期)
    健康維持に必要な4つの運動指針として「有酸素運動」、「レジスタンス運動(筋肉運動)」、「柔軟性」、「バランス運動」について説明していただきました。このうち、「バランス運動」以外は青年期から鍛えておいた方がいいと語られ、高齢期から特に重要となるのが「バランス運動」であり、ここを鍛えることで転倒予防につながるのだとおっしゃいました。

    ■機能的自立に必要な体力要素
    機能的自立とはどのような状態かについて、基本的な身の回りの動作能力に加えて、家事や外出などの生活機能を持ち、自立した日常生活を営むことができることであると解説していただきました。そして、そのためには筋肉、筋肉・全身持久力、柔軟性、身体移動能力、敏捷性、バランスといった体力要素が必要であると語られました。
バランス介入の研究結果を紹介していただき、転倒による骨折は左右・後ろに倒れることが多く、週3回以上のバランス運動は高齢者の転倒率を低下させることについて解説していただきました。
  • 運動実践の効果は?
    トレーニングの原則として、運動様式や内容に応じて効果が異なる特異性があることを理解する必要があると語られました。そして、シニア向けの運動として重要な要素である「有酸素運動」・「筋力づくり」・「柔軟性」・「バランス」を総合的に組み合わせた「ウエルラウンドエクササイズ」という考え方を紹介していただきました。
  • わが国の健康づくり施策
    図をもとに「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」について解説していただき、生活習慣病の予防や介護予防に取り組むことで生涯にわたる自立を目指すことができるとおっしゃいました。
  • ロコモティブシンドローム 運動器症候群
    運動器とは骨や筋肉だけでなく、神経や関節軟骨などの身体運動を構成するすべての器官のことであり、運動器の障害は要介護になるリスクを高める要因になっていると説明していただきました。ロコモティブシンドロームは、この運動器に疾患を発症または徴候がある状態を指しているとおっしゃいました。
    ロコモの症状は、関節や脊柱の変型やバランス能力の低下など、筋肉の低下による筋軟骨の負担増や変型、柔軟性低下が原因の関節可動域の制限によってもたらされると解説いただきました。そして、筋肉・関節・神経のネットワークが円滑に働いている状態を「バランスがとれる」ということだと語られました。

  • 要介護が必要になった主な原因/転倒とは/転倒要因/転倒に関する問題
    骨折・転倒は要介護が必要となる原因の約12.5%を占めるというデータを紹介していただきました。さらに、転倒は死亡原因となる割合も高く、転倒の50%から60%は家庭内で起こっているというデータがあることも説明していただきました。高齢期に多い骨折は「脊柱圧迫骨折」と「大腿骨頸部骨折」であり、それぞれバランス障害の原因による転倒リスクの増加や寝たきりにつながるリスクがあることを解説していただきました。
    ■転倒予防とバランス運動
    転倒のリスク要因としては、筋肉力低下がもっとも高く、歩行能力やバランス能力の低下、視力障害や年齢などさまざまあることを教えていただきました。また、バランスには「静的バランス」と「動的バランス」があり、人間は重力の影響で立っている時でも無意識に姿勢を維持し、姿勢を保ちながらも移動する能力があると説明していただきました。バランスに影響する大きな4つの器官として「視覚系」、「体性感覚系」、「前庭系」、「筋系」をあげられ、「視覚系」では目を瞑るとすぐに揺れ出す人は夜に注意が必要だったり、頭を素早く動かす、または姿勢を変えるとふらつきを感じる人は「前庭系」の感覚が弱かったりすることや、バランス運動の要というべき器官の中でもっとも影響が大きいのが筋力であるとおっしゃいました。
  • 感覚系機能・神経機能の低下(加齢の影響)/■加齢によるアライメント(姿勢)への影響/高次神経機能(脳)の働き
    視覚の衰えについて、原因やどのような症状が出るのかについてお話をいただきました。歩行中に障害物を見落としたり、暗闇での移動の際には転倒の危険性が大きくなったりするため注意が必要であると受講生の皆さんに伝えられました。また、前庭覚や体性感覚についてもお話をいただき、各神経線維数の減少などに伴い歩行時にふらつきやめまいが生じる原因になっていると説明をしていただきました。
    また、神経筋の衰えも細かい運動がうまくいかなくなったり、反射性活動に係る神経系のどこかに異常がおこり立ち直りに失敗したりして転倒する危険性が生じるなどバランス運動への影響を指摘されました。
    そして、加齢によって立っている時にふらついたり、体幹運動が不十分になることで立ち上がりや振り向き動作などでバランスをとれなくなったり、重心の傾きによって転倒の危険性が増すことを解説いただきました。さらに、脳と姿勢の関係性についてもふれられ、内服薬によってバランスをうまくとれなくなる可能性があることを教えていただきました。

  • 体性感覚系への刺激
    その場で立ってできるバランス能力を鍛える方法を教えていただきました。その際の注意点として、呼吸を止めないことや運動している時に一番疲れるのは実は神経であり、だからこそ疲れている時にはバランス運動をしても効果がないことを説明していただきました。

  • バランスに影響する身体部位
    脳、眼、関節、三半規管、筋、床面に対しての感覚がバランスに影響するとおっしゃいました。その上で、座ったまま首を前後左右に動かしてみるだけでも三半規管を鍛えることができるのでバランス運動としては有効であると教えていただきました。

  • バランスがうまく保てる
    重心の安定、重心位置の理解・調整がバランスを保つためには必要だと説明され、倒れそうなところを倒れない位置に重心を移動させ続け、バランスのための神経を鍛えるのがバランス運動であると解説していただきました。運動実施上のポイントとしては、故意にバランスを崩す動作を行い、徐々に時間や難易度を上げていくのがいいのではないかとおっしゃいました。
    最後に、バランス運動は転倒予防につながることは確かであるが、転倒に関連する要因はさまざまあるため、バランス運動だけでは防ぐことができるわけではないことを理解して、各々の生活に活かしてほしいと語られました。

参加者の声

  • バランス運動が転倒予防になることがよくわかりました。
  • 老化に依る転倒について、科学的に学ぶ事が出来ました。後半のバランス運動の実践については大変役立ちました。
  • 揺れることを大事にするということ今まではできるだけふらつかないようにしようと思ってました。体を動かすこと大好きなので楽しかったです。バランスはとても大切なことを理解しました。ありがとうございました。
  • バランス運動が転倒予防につながることがよくわかりました。自宅で簡単にできることが何よりです。実践があり、役立ちそうです。