みえアカデミックセミナー2021
三重短期大学公開セミナー
「現代貨幣理論を考える」の事業報告

開催日
2021年7月27日(火曜日)
開催場所
三重県文化会館1階 レセプションルーム
開催時間
13時30分から15時20分まで
講師
三重短期大学 法経科 准教授 田添 篤史さん
参加人数
62名
参加費
無料

「みえアカデミックセミナー」は三重県内の大学・短大・高専・放送大学を含めた高等教育機関との連携で生まれた公開セミナーです。
毎年7月から8月(令和3年度は7月16日から8月25日まで)にかけて、三重県総合文化センターを会場に、各校1日程ずつ、選りすぐりの先生にご専門の研究内容を分かりやすく講演いただいています。
前身となる「みえ6大学公開講座」から既に20年を過ぎ、「みえアカデミックセミナー」としては、18年目を迎えました。
今後も、県内の皆さんにたくさんの「まなびの種」をお届けしてまいります。



令和3年度の三重短期大学公開セミナーは、法経科 准教授 田添 篤史 さんを講師にお迎えしました。

三重短期大学 法経科 准教授 田添 篤史さん

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  • 【講演概要(ホームページ・チラシ紹介文より)】
    最近になり、特に欧米で注目されている現代貨幣理論はどういう考えであるのかを見ていきます。また、現代貨幣理論の主張は熱狂的な肯定も強い否定も受けており、その両方の立場について考えていきます。最後に、現代貨幣理論に基づく政策を実施した場合の政治的帰結について検討します。

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進歩的な政策を実施するためには税収を増やす必要があるという従来の考え方に対し、税収がなくても(政府にお金がなくても)政策は実行できるという考えをバックアップする理論として近年注目が集まっています。
  • 現代貨幣理論のポイント
    はじめに、現代貨幣理論(MMT)は貨幣理論としては新しいものではないと述べられ、批判することは簡単であるけれど、政府は公共的役割を果たすべきという考えを改めて強調した点では重要な理論であり、現代貨幣理論の評価は民主主義を信頼するかどうかがポイントであると語られました。
  • 現代貨幣理論(MMT)について
    1990年代から存在していたものの、経済学の中では基本的に無視されてきた理論であり、2008年に起きた世界金融危機(リーマン・ショック)以降に、大手金融機関は政府の救済対象となる一方で、多くの国民が福祉や医療が縮小されるなどの緊縮政策を押し付けられるようになった結果、反緊縮政策を支える代表的な理論として支持が集まっていると説明いただきました。その理由として、これまでの反緊縮政策が資本移動の規制や各課税の強化によって適切な公共投資を実施するという主張が多かったのに対し、現代貨幣理論は支出財源を心配する必要はないという新しい対応策となりうる理論として注目されたためであると解説いただきました。一方で、反発も非常に強い理論であり、アメリカ合衆国上院や日本の財務省も批判的な立場をとっていると説明いただきました。
経済学史としての分類ではケインズ派の流れをくむものの、主流となった新古典派総合(「ケインズ経済学」)からはケインズの思想ではないと批判を受けているそうです。
  • 現代貨幣理論(MMT)の考え方の要点
    現代貨幣理論の最も有名と思われる考え方は、「政府は金や外貨などの政府自らが創造できないものと交換をする約束をしていない限り、自国の貨幣を無限に創造できる(政府の支出能力に原理的な限界は存在しない)」という点であると講師の田添さんは語られました。
    現代貨幣理論では「貨幣」を「債務証書」であると考えており、貨幣を生み出すことは誰にでもできるが、相手に受け取らせることができるかが問題であり、租税を課す能力がある政府は国民に対して貨幣=債務証書を発行し、受け取らせることができるため、政府の支出能力は収入を考えなければならない企業や家計と同様に考えるべきではないと説明していただきました。
    また、政府に支出能力に上限がないと考えるのであれば、完全雇用を追求するべきであるということも現代貨幣理論の考え方であると述べられました。そして、政策(公共目的のために必要な支出)が前提であるのだから、その大きさによって国民の所得・税収の大きさが決まるため、財政赤字・黒字は単なる計算の結果であり、大きさ自体には意味はなく、たとえば日本政府が日本円で借金をしても額は問題とならないという考え方になるのだと解説していただきました。
  • 現代貨幣理論(MMT)の政治的主張のポイント
    ■政府は何をするべきか
    民主主義社会における政府は、民主主義的討議を通じて決定される公共目的を果たすことが役割であり、予算不足を言い訳にして公共的役割を果たさないことがあってならないというのが現代貨幣理論の政府に対する考え方であると説明していただきました。
    ■現代貨幣理論(MMT)派に対する代表的な批判
    反対派からは、現代貨幣理論を認めるとハイパーインフレが発生する、または政府の支出能力に上限を設けないと支出に歯止めが利かなくなるといった批判があるのだと教えていただきました。これに対し、政府が無限に支出することが可能であるからといって、上限なく支出すべきだといっているわけではないという現代貨幣理論派の主張を紹介していただきました。さらに、民主主義的手続きにより成立した議会の予算編成過程を通じて支出をコントロールすることは可能だと主張しており、「民主的は機能する」と信じているのが現代貨幣理論の特徴であり、主流経済学派が市場原理を歪めるリスクを警戒して、理論としては「民主主義を信じていない」のと対照的であると解説していただきました。
  • 現代貨幣理論(MMT)の思想的背景
    経済学史の分類としては、現代貨幣理論はマクロ経済学の始まりとされるケインズ派から発生したポスト・ケインズ派と呼ばれる思想的流れの中にあり、金融活動は一時的に安定しても不安定化すると考える、「金融不安定仮説」で有名なハイマン・ミンスキーの影響を受けていると説明していただきました。また、3部門間の恒等式という考え方を紹介いただき、政府が「健全な」財政状況になると、民間部門に負債が蓄積されるという理論の影響も指摘されました。そして、民間部門によって主導された景気拡大は民間部門の金融構造の脆弱性につながり、2008年の世界金融危機のように民間の赤字や債務は政府の赤字や債務より危険であるため、政府主導で景気拡大を行う方が民間主導の場合よりも経済構造が安定すると考えられていると語られました。
    その根拠として、ミンスキーの段階論から、マネー・マネージャー(資金運用者)型資本主義となっている現代は、巨大なマネーファンドによって金融的に構造が不安定化し脆弱となっている点を示され、現代の複合的不安定性を考慮すると、政府主導の景気回復を行い、政府の負債を蓄積した方が安全であると、経済を民主主義的にコントロールする必要性を論じていると述べられました。
  • 現代貨幣理論(MMT)に関する論点
    現代貨幣論の問題点は大きく分けて二つあると説明いただきました。
    1.現代貨幣理論は経済を民主主義的にコントロールする手段として政府を重視しているが、果たして現実の政府は民主主義的にコントロール可能なのかが問題となる。完璧な「市民」たちからなる民主主義であれば実行できるかもしれない理論を、現実の人間たちがどこまで実行できるのかという、金融理論としてではなく、民主主義に対する信頼感の問題。
    2.現代貨幣理論は、税金は貨幣を人々に受け入れさせるために必要であり、政府の支出を賄うためには必要がないという考え方をしている。現代貨幣理論の主張が受け入れられたとして、人々は「納税」に納得するのかという問題。
  • 現代貨幣理論(MMT)に対する評価
    貨幣理論としては新しいわけではないが、現代の資本主義をマネー・マネージャー型と捉えた場合に国家の財政主導の景気拡大を重視する立場は「現代的」であり、民主主義をどう捉えるかが評価のポイントであると説明していただきました。
    最後に、財源がないから必要なことができないという現代の風潮を再考するきっかけとなったことや、政府は公共にとって必要なことを実行するために存在するという基本的な事実を改めて指摘した点が重要であると語られました。

参加者の声

  • 50年前にはなかった理論 今よく耳にする理論 非常に勉強になりました本当にありがとうございました 昔学んだ経済学者の方の名前が出てきてなつかしく思いました。
  • MMTの話は、気になっていたので、大変興味深く、楽しく聞かせていただきました。
  • 「現代貨幣理論」大変理解困難なテーマでした。講師の方のお話は最高でした。
  • MMTという考え方の基礎がとても良くわかりました。ケインズ以降の経済学の流れも合わせて理解できて、良かったです。