みえアカデミックセミナー2021
近畿大学工業高等専門学校公開セミナー
「人を動かす説得の方法 ー弁論術の理論と実践例ー」
の事業報告
「みえアカデミックセミナー」は三重県内の大学・短大・高専・放送大学を含めた高等教育機関との連携で生まれた公開セミナーです。
毎年7月から8月(令和3年度は7月16日から8月25日まで)にかけて、三重県総合文化センターを会場に、各校1日程ずつ、選りすぐりの先生にご専門の研究内容を分かりやすく講演いただいています。
前身となる「みえ6大学公開講座」から既に20年を過ぎ、「みえアカデミックセミナー」としては、18年目を迎えました。
今後も、県内の皆さんにたくさんの「まなびの種」をお届けしてまいります。
令和3年度の近畿大学工業高等専門学校公開セミナーは、総合システム工学科 共通教育科 准教授 高畑 時子 さんを講師にお迎えしました。

准教授 高畑 時子さん
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- 【講演概要(ホームページ・チラシ紹介文より)】
公の場での上手な演説は、その場の即興ではなく、入念な準備や練習を経て行われています。
修辞学という弁論を行うための技術が紀元前には発祥しましたが、現代の諸弁論と比較すると、驚く程それに沿っていることがあります。
修辞学に基づいた弁論がいかに大きな説得力を持つか―演説のメカニズムを各弁論を例に解明し、スピーチ作成時にも援用出来る技巧を紹介します。
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- 弁論術理論の紹介
はじめに、「相手の目を見て話せ」「間をおいて話せ」など、現代にも通じる話法は古代ギリシャ時代には本にして残されるほど、弁論の技術がすでに確立されていたと講師の高畑さんから説明がありました。その理由は、古代ギリシャでは言論によって話者は聴衆を自分が思った方向に持っていくことができるとされ、言論によって国が破壊されることを恐れた民衆が政治家にモラルを求めるなど、他人をコントロールする力や国全体を動かす力があると信じられていたためであると解説されました。
講演では、古代の哲学者アリストテレスとキケローの弁論術書における五大弁論術を検証することで、古代ギリシャ時代の弁論術が本当に現代にも通じるかどうかを確認しました。

1.話題の発見
原稿を作成する際は、「魅力のある題を考える」・「題に関連する話材を集める」・「聞き手がどのような層なのか考える」の3つがキーワードとなると語られました。題を見た人が話の内容をイメージしやすいような題を付ける必要があることや、結婚式のスピーチを例にして、新郎新婦に関連することを話すことはこの場合相応しいが、スピーチをしている自分のことばかりを論じるのは、「結婚式」という題に対して関連性もなく、聴き手のことも考慮していないため不適切な話題となると解説されました。
2.文章構成法
「序論」→「叙述」→「立証」→「反駁」→「脱線」→「結論」という弁論を行う上での文章の構成順序や、それぞれの特徴について教えていただきました。たとえば、「序論」の段階では人格に言及して聴衆から好意を得る必要性があると言われ、敵意を持たれるとその後の話を聞いてもらうことができないことや、「脱線」とは話をする上での「間」のことであり、聞き手の緊張を解いて「結論」まで結びつける重要な要素であるなど、注意点について解説いただきました。
3.文章表現法
文章の表現方法として、3種の説得法があると解説していただきました。
まず、エートス(人格)について、性格を表す道徳用語を使用して人格の良さをアピールすることで、話者や味方にとってはポジティブなイメージを、逆に論敵に対しては性格や行動の欠点を概念語によって指摘することで聴き手にネガティブなイメージを与えることができると説明していただきました。
続いての説得法として、ロゴス(論理)については、いくら話し上手でも知識がなくては残念な結果にしかならないため、話の整合性がとれるように論題について十分な調査を行う「事実の立証」が必要であると教えていただきました。また、最終的な立証に至るまでの過程で、正反対の性質を対比する話法がこのロゴスの部分ではよく使用されていると説明していただきました。
3つめの説得法は、パトス(感情)であり、聴き手の感情を動かし、話者の思うように行動させる手法であると解説していただきました。自分の感情を表すと同時に、聴き手の感情にも配慮した話題を交えることも大切であると述べられました。
4.記憶術/5.所作
古代の演説は原稿なしで行われるのが普通だったため、文書を覚えるための技術が記述されており、声の大きさや話す速度、間合いの取り方、服装、視線、話す際の姿勢など、聴衆に向けて弁論を行う際の細かい所作の注意点についても記されていると説明していただきました。
- 実際の弁論術使用例
2003年の国連総会におけるアメリカ元大統領と2006年のベネズエラ元大統領の国連演説を分析することで、現代の政治演説における援用例について解説いただきました。
まず、アメリカ元大統領の演説では、「序論」にあたる冒頭で、演説の背景と人格の対比が行われていることや、論敵と味方を明確にした上で、論敵をネガティブな印象を用いて表現し、演説する理由について述べていたり、道徳用語や敵味方の行動の対比を行って、論敵に対して恐怖の印象を与える手法がとられたりしていることを説明していただきました。また、有利な点は何でも強調し、不利な点は徹底的に触れないというテクニックが用いられている点や、公共の利益を強調する古代人が好んだ言葉が現在も使用されていることを確認しました。
続いて、ベネズエラ元大統領の国連演説では、序論で比喩表現を用いる話題で「脱線」を行っていることや、視覚や嗅覚など五感に訴える弁論技法が使用されていることを説明していただきました。道徳用語の対比や論敵対話者・味方の構図を用いたり、話の規模を広げることで母体を大きくしたりするなど、古代の修辞法が盛り込まれている点についても触れられました。
そして、両方の話者が「威厳」という表現を用いている点についても指摘され、キケローも使用していた弁論技法であると説明していただきました。
最後に、古代の弁論術理論と現代の弁論術を比較すると、互いに深く関連しあい、共通する部分が数多くあること、弁論技術理論は現代でも生きているのだと語られました。
- 弁論術の理論と云うことを初めて聞きました。納得です。現役時代にこのことを知れば、もっと仕事をうまく進められたと思っています。
- 弁論術の対比、興味深く聴きました。
- 話し方って大事だなぁ、と思った。昔は学問としてあったこと、いろいろ情報をいただけて勉強になった。
- よかったです。ありがとうございました。