ミエ・アート・ラボ2018

開催日
2019年1月20日(日曜日)
開催場所
三重県総合文化センター 多目的ホール ほか
参加者数
のべ181名
主催
公益財団法人三重県文化振興事業団
後援
三重県教育委員会
ディスカッションの様子
写真:松原豊

ミエ・アート・ラボは文化・芸術と教育や福祉などに関わる様々な立場のみなさんで『アート教育』(アートと教育のパートナーシップ)について、ともに考え、学びあい、つながりあうことを目的とした研修会です。

今回は『視点を変える』をテーマに「特別支援教育」「福祉」「地域活性化」といった分野に対して、アートの特性を活かしてどのように課題解決につなげていけるのか、各分野で先進的な活動をされている講師をお招きし、参加者とともに考えました

講演の様子

基調講演 演劇×特別支援教育 『表現の世界に障害の壁はない-演劇部15年間の実践から-』
基調講演では奈良県立ろう学校演劇部顧問の綿井朋子さんが登壇。奈良県立ろう学校演劇部は全国のろう学校で唯一の演劇部として2004年に創部。高校生手話パフォーマンス甲子園で2度の優勝を果たし、高校演劇の大会などでも高く評価されています。この講演では演劇部の創部から現在に至るまでの実践のなかで見えてきた「演劇の力」についてお話しいただきました。
奈良ろうに赴任された綿井先生は思春期の不安定な生徒と関わるなかで様々なトラブルを経験されたといいます。その時、「演劇」というツールを発見し、ストレスを抱えた生徒の表現欲求を満たす手助けになることを実感されたそうです。生徒が演劇活動を通じて表現の場を得たことによる自己肯定感の高まりは、生徒の進路選択の場面でも生きているとのこと。様々な表現を認め、生かす「演劇」の力を実感されたとのお話に多くの参加者が熱心に聴き入りました。

手話パフォーマンス手話パフォーマンスの様子

高校生手話パフォーマンス「Star Light」
基調講演の後、奈良県立ろう学校高等部の演劇部の生徒3名が手話パフォーマンス『Star Light』を披露しました。背後のスクリーンには字幕が映し出され、手話がわかる人も、そうでない人も楽しめる工夫がなされています。祉活動に高い関心を示していたという歌手の坂本九を題材にした、躍動感あふれるパフォーマンスには多くの参加者から惜しみない拍手が送られ、なかには涙を浮かべている方もいらっしゃいました。

workshopの様子

演劇×福祉「老いと演劇のワークショップ」
午後からは演劇と美術の選択制の講座に分かれてさらに深くアートの効用について学びました。演劇×福祉「老いと演劇のワークショップ」では俳優で介護福祉士の菅原直樹さんによる認知症介護や高齢者福祉に演劇の手法を取り入れた事例の紹介と、演劇体験を通じて認知症の方との関わりのヒントを得るワークショップを行いました。「あそびりテーション」で遊びながら、できなくても楽しむ時間を共に過ごすことで、多様な視点を持つことの大切さを実感できるような体験となりました。

ワークショップの様子

美術×障がい×地域活性化「何となくいい感じってどんな感じ?」
美術×障がい×地域活性化「何となくいい感じってどんな感じ?」では、まずは講師の森敏子さんが主宰する子ども絵画教室アトリエ・エピでの活動を紹介。子どもたち自身の興味や感性を第一に創作や学習ができる環境を整え、「地域の中のアート系子どもカフェ」として、絵を描くだけではなく安心して過ごせる場所として存在するアトリエ・エピのユニークな活動についてお話しいただきました。また、地域活性化の事例として、森さんが事務局長を務める亀山トリエンナーレの取り組みについても伺いました。
そして後半は厚紙に英字新聞や種々の画材を使って自由にコラージュをするワークショップを行い、参加者一人一人の感性を大切にしたのびのびと自由な作品が出来上がりました。

講演の様子

テーマディスカッション『アート教育のこれから 2020年以降のアートシーンを地方から考える。』
最後のテーマディスカッションでは、冒頭、愛知大学教授の吉野さつきさんより「アートと社会支援の現状」をテーマに、社会的な課題とアートを組み合わせることが効果を生んでいる事例や、文化芸術基本法によって何が変わるのかなど、これからのアートを取り巻く状況についての認識を深めるお話がありました。

ディスカッションの様子

吉野さんの講演の後は、それぞれのワークショップの参加者が小グループでお互いのワークショップの内容や感想を共有しました。
そして全員が大きな円になって、参加者みんなで語り合う時間を持ちました。参加者の一人はアートを通じて様々な立場の人と言葉を交わすことが出来たことがうれしかったと話されていました。午前中に素晴らしいパフォーマンスを披露してくれた奈良ろう演劇部の生徒のみなさんも「演劇を通して自分の中の何かが変わっていった。僕たちの演技を熱心に見ていただき本当に嬉しく、楽しかった」と語り、会場からは大きな拍手が送られました。
すべてのプログラムが終わったあとも参加者や講師が熱心に話し合う姿がみられました。アートを通じて様々な立場の人々が交流を深め、その力を感じることができた一日となりました。
ディスカッションの様子
プログラムの様子

プログラム

1.基調講演 演劇×特別支援教育 『表現の世界に障害の壁はない-演劇部15年間の実践から-』
講師:綿井 朋子(奈良県立ろう学校演劇部 顧問)
助言:山田 康彦(三重大学教育学部 教授)

奈良県立ろう学校高等部生徒3名による手話パフォーマンス「Star Light」(ミエ・アート・ラボ 発表用バージョン)

2.ワークショップ【事例に学ぶ】     
①演劇×福祉『老いと演劇のワークショップ』
講師:菅原 直樹(「老いと演劇」OiBokkeShi主宰 俳優、介護福祉士/岡山県奈義町アート・デザイン・ディレクター)

②美術×障がい×地域活性化『何となくいい感じってどんな感じ?』
講師:森 敏子(子ども絵画教室アトリエ エピ代表/亀山トリエンナーレ事務局長)

3.テーマディスカッション『アート教育のこれから 2020年以降のアートシーンを地方から考える。』
コーディネーター:吉野 さつき(愛知大学文学部 教授)

参加者の声

  • 手話パフォーマンスの生き生きした動きに力強さを感じました。年齢も関係なく自由に表現できるアートの楽しさを認識しました。
  • 多様性や違いをいかしてというテーマが今後大切になってくると思います。それらを実践していくうえでアートやスポーツ、文化は素晴らしい手段なのだということを改めて実感しました。
  • 今日の研修を受けて、表現する子どもは、人は、自分の思いを出していて、その出し方は色々な人や周囲からの影響を受けて変化するけど、下手や間違いはないのだと学びました。感じ方が、表現の仕方が違うから伝わらない時はあるけれど、そんな時こそコミュニケーションをとるよい機会になるのだと分かりました。
  • ひとりのひとが、ひとりのひととして、キチンと社会でみとめられることが大切であり、みんながみとめられる社会が一日も早くくるとうれしいです。参加させていただきありがとうございました。
  • 今日のプログラムに参加して、表現は日常の中で誰でも行っている、行えるものであって、肩の力を抜いて楽しむことがまず大事なんだと思いました。「それいいね」「ステキだね」と認め合うこと。そう思えない時も、何を表現しているのか、どう表現したのか、コミュニケーションをとって知り合うことをしていきたいと思います。貴重な学びの機会を頂きありがとうございました。