みえアカデミックセミナー2017
ユマニテク短期大学公開セミナー
「「児童文化」の意義と児童文化財の活用について
~児童文化財としての絵本と紙芝居を中心に~」についての
事業報告

開催日
2017年8月24日(木曜日)
開催場所
三重県文化会館1階 レセプションルーム
開催時間
13時30分から15時40分まで
講師
ユマニテク短期大学 幼児保育学科教授 川勝 泰介さん
参加人数
51名
参加費
無料

「みえアカデミックセミナー」は県内の高等教育機関との連携で生まれた公開セミナーです。毎夏、三重県総合文化センターを会場に、各校1日程ずつ、選りすぐりの先生に少し高度な学習をわかりやすくお話ししていただいています。2017年度は新たに1校を参加校に迎え、全15日程開催しています。前身となる「みえ6大学公開講座」から既に20年を超え、「みえアカデミックセミナー」としては、14年目となります。今後も皆様に期待していただけるようなセミナーをお届けしていきたいと思います!!

最終日でもある第15回目のユマニテク短期大学公開セミナーでは、幼児保育学科教授 川勝 泰介さんを講師にお招きし、「児童文化」とは何かや絵本や紙芝居などが児童の成長過程においてどのような意義や役割を果たすのかなどについて実際に絵本や紙芝居を基に講演いただきました。

絵本は大量印刷されることが前提となった「複製芸術」だと先生がおっしゃられると、皆さん思い思いに絵本を思い浮かべられた様子で頷かれていました。

「児童文化」とは
まず初めに、そもそも今回のテーマでもある「児童文化」とは何かについてお話しいただきました。大正文化という新しい風潮から誕生した概念であることやその後時代が変わるにつれて元々は「子どもがつくり出す文化」であった考え方が、昭和になるとより教育を重視した「子どもに与える文化」として捉えられるようになったこと、さらに「児童文化」の変遷に伴い、子どもを取り巻く社会への危機感からより子どもの生活様式を考えた「子ども文化」という考え方が出現するようになったことについて説明して戴きました。

絵本とは
絵本は概念的に言えば、一般的には「絵を主体的にした子ども向けの本」であり、より詳しく分類すれば「絵だけの本」「絵が主となって物語を展開する絵物語本」「挿絵入りの本」に区別することができると説明されました。
その一方で実際の絵本の世界は日々進化しているとおっしゃられ、音が出たり絵が飛び出したりするしかけ絵本やスマートフォンと連携した絵本など様々な工夫が凝らされた絵本が作られていると紹介されると、受講生の皆さんも驚いた様子で聴いていらっしゃいました。

絵本の成り立ち~紙芝居との比較において~
絵本や紙芝居は語彙が少ない幼児にとって、視覚情報からイメージ出来やすいため保育の現場でも活用されていることを説明されました。そして、それ以外の絵本と紙芝居の絵本と紙芝居のそれぞれの歴史について紹介していただきました。そして絵本は巻物から折本、現在の綴じ本の形式へと変わっていったこと、紙芝居が幻灯・スライドによる写絵から人形を動かして表現する立を経て、現在の紙芝居へと変換していったこと、戦争や戦後の混乱期などの世相を表した絵本・紙芝居も登場したことを紹介されました。そして絵本は個人で「読む」ことを前提に作られ、ページをめくることに楽しみがあるのに対し、紙芝居は芝居として演じられる、集団で「見る」ことを前提とした作品であり、いかに動きのない平面の絵を動いて見えるようにするのかに工夫を要することを説明されました。

「桃太郎」のおじいさんは山へ「しばかり」にという言葉を「柴刈」ではなく「芝刈」で想像してしまうことを例に、視覚情報がないと言葉だけでは幼児にはわかりづらいことを説明されました。

ストーリーと絵の展開
絵本における絵の流れと文章の関係や、さまざまな本の特徴を利用した個性的な絵本があることを、実際の絵本を基に紹介していただきました。文字のない絵本や逆に文字を絵として表現している本、普段見過ごされることの多い「見返し」と呼ばれる部分を効果的に利用した絵本や折本の特徴を使って植物の成長を表現した作品、上下・左右どちらからでも読めるように工夫された本、おばあさんと孫がすれちがって中々出会うことのできない距離感の様子を、絵本の真ん中にある「のど」と呼ばれる部分を利用して表現した本などたくさんの絵本が登場し、受講生の方もたくさんの絵本が存在することにびっくりされていました。

 絵本の役割
絵本には子どもの知識や経験を再認識・再確認できる役割があり、低年齢においては知っているものを見つける「追体験・再認識の喜び」が求められ、年齢の高い子に対しては新しいものを発見する「知識欲を満たす喜び」さらに「想像する喜び」に繋がるようになることから、子どもの成長に合わせた絵本選びが大切であると説明されました。絵本はあくまで教材としての手段であって絵本を読ませることを目的にしてはいけないと注意点を述べられ、知らないものを想像することは大変であり、想像力を働かせるためには経験が大事であると語られました。そして、まず絵本の読み聞かせの前には実際にたくさん子どもたちを遊ばせ具体的な体験を経験させることが想像力を養うことになると説明されました。そして、児童文化においても「未知との遭遇」は大きな魅力と役割であると語られました。

おもしろさの提案を
大人の使命感からの児童文化は大人中心の「押しつけ」になってしまう危険性があるため、「児童文化」において、大人は「子どもとは何か」を考え、子どもの知識や経験の乏しさと視野の狭さを補うことことが大人の役割であり、「児童文化」で大切なことは子どもたちのおもしろさの発見を手助けすることで、楽しくなければ児童文化ではないことを大人が理解していかなければならないと語られ、この日の講義を終了されました。

当日はたくさんの絵本と紙芝居を先生が持ってきていただきました。良く知られている懐かしい作品や初めて見る作品など受講生の皆さんもすっかり夢中になって聞いていらっしゃいました。。
終了後の個別質問時には、熱心に質問される方もみえました。

参加者の声

  • 「児童文化」興味深い世界から分り易く説明して戴き初めての分野を知ることが出来ました。大変良かったと思います。
  • 詠みきかせをする機会がよくあるのですが、普段から絵本と紙芝居の違いについて考えていたので、よく解りました。納得できました。ありがとうございました。
  • 絵本のおもしろさをあらためて発見することができた。図書館よりをよりよいものにしていくうえで子どもたちにどのように本を届けるか、知の創造活動の場として図書館を活かすかヒントをたくさんえることができました。
  • 仕事の関係上、知り合いなど周囲の人から「おすすめの絵本は?」とたずねられます。今日の講座での内容でこれからもアドバイスできそうです。自分自身にとっても役に立つ興味深い内容でした。
  • 絵本を読む楽しみは大人になってからの本を読む楽しみと同じで、手にとってページをめくる時のドキドキ感がたまらないのだとあらためて思いました。絵本は大人が読んでも楽しいものです。