みえアカデミックセミナー2017
鳥羽商船高等専門学校公開セミナー
「マテマティクスは数学か?~攻玉社と幕末維新期の
「数学」~」についての事業報告

開催日
2017年8月20日(日曜日)
開催場所
三重県文化会館1階 レセプションルーム
開催時間
13時30分から15時30分まで
講師
鳥羽商船高等専門学校 一般教育科教授 佐波 学さん
参加人数
71名
参加費
無料

「みえアカデミックセミナー」は県内の高等教育機関との連携で生まれた公開セミナーです。毎夏、三重県総合文化センターを会場に、各校1日程ずつ、選りすぐりの先生に少し高度な学習をわかりやすくお話ししていただいています。2017年度は新たに1校を参加校に迎え、全15日程開催しています。前身となる「みえ6大学公開講座」から既に20年を超え、「みえアカデミックセミナー」としては、14年目となります。今後も皆様に期待していただけるようなセミナーをお届けしていきたいと思います!!

第13回目の鳥羽商船高等専門学校公開セミナーは、一般教育科教授 佐波 学さんを講師にお招きし、明治期に慶應義塾や同人社と合わせて三大義塾と呼ばれた鳥羽商船高等専門学校の全身である攻玉社が、数学に深い関わりを持っていたことや幕末維新期の日本が西洋数学を取り込んでいく過程を講演いただきました。

GPSも衛星画像もない時代には、数学を利用しての航海術が必要不可欠だったと説明されました。

1.攻玉社と幕末維新期の「数学」
鳥羽商船高等専門学校の前身である「攻玉社」は、明治期に福沢諭吉の「慶應義塾」や中村正直の「同人社」と併せて三大義塾と呼ばれていたことを紹介され、創立者の元鳥羽藩士である近藤真琴は、後に明治の六大教育家(大木喬任、森有礼、近藤真琴、中村正直、新島襄、福澤諭吉)のひとりに数えられるほどの人物であったことを説明されました。
そして、近藤真琴が航海術を学ぶ過程で「数学」と出会い、当時珍しかった理工系の学校として海軍兵の予備校となり、攻玉社の出身者やその著書で学んだ多くの人物が数学科教員として働くようになったなど数学とのかかわりについて語られました。
また、どのように航海術に数学理論が使用されていたのかや、幕末維新期に「洋算」をどのように扱っていたのかを当時の書物の映像を基に紹介していただきました。そして、幕末維新期の「数学」として「洋算」と「和算(伝統的算学)」があったことや数学の型等、当時どういう数学が必要だったのかについて説明されました。

2.マテマティクスは数学か?
「マクマティクス(mathmatics)」の訳語として現在使用されている「数学」という言葉について、明治15年に正式採用されるまで、様々な案が出され議論されたことについて、世界史的な数学発展の歴史を交えて説明していただきました。
そもそも何故、マテマティクスという名称になったのかという由来や、数の分類について説明され、江戸時代の和算はそれぞれ流派があり、家元制度だったという意外な情報も披露されました。そして、「マテマティクス」の訳語を議論した際に「算学」案、「数学」案、「数理学」案という三つの案があったことを紹介され、それぞれの案がどのような考えに基づいていたのかについて説明されました。そして、攻玉社と「数学」という訳語を正式に決定した「東京数学会社」との関係について
直接・間接的な近藤真琴の門人筋にあたる人たちが会員の二割近くを占めていたことに触れ、「マテマティクス」が「数学」と訳されるようになった家庭に深く関係していることを紹介されました。


ギリシア文化やヘレニズム文化など世界史的にも様々な学派が生まれ、「マテマティクス」、そして「数学」という言葉が誕生してきたことを紹介していただきました。

3.新訳語会を支えた先人の想い
新訳語会には政府の要職についていた人物も議論に参加していた事実に触れられ、何故先人たちがそこまでマテマティクスの訳語を作ること、西洋の学術用語の訳語を標準化することに情熱を注いだのかについて、当時森本有礼による「国語英語化論」が提唱された際に、アメリカの言語学者ホイットニーから「自国の母国語を捨てて外国語を母国語にして成功した例はなく、学問に二極化を生む。大衆教育は母国語を高めることが大切である」と反対されたことについて紹介されたうえで、近藤真琴が塾名を「為錯」から「攻玉」に変えたことにも触れ、西洋の学問をあがめるのではなく日本で使える学問へと発展させようとした先人たちの想いがあったことについて語られこの日の講義は終了しました。




攻玉社と数学のかかわりや、三大義塾に数えられていたことを先生が説明すると会場から驚きの声が上がっていました。
受講生の方からは「数学の意味がわかっていたらきらいにならずにすんだかも」という声もいただきました。

参加者の声

  • 平素はあまり意識しない分野を細かく説明して戴き、今後勉強する意欲がわきました。ありがとうございました。
  • 身近な偉人(鳥羽)を知り驚いています。鳥羽商船専門学校は入学が難しくかなり難関です。最近新聞にて活躍されている記事を拝見します。嬉しく思います。講師の先生のお話しが分かりやすかったです。数学は興味大です。終わりが無いという所が好きです。平方根の計算は大好きでした。解くのも楽しかった記憶があります。懐かしいです。log.も懐かしいです。
  • 数学と海軍の関係おもしろく知りました。数学は何かを作ったり、行ったりするために考えられた概念だとは思っていましたが、再現性、比較できる合理的なものだなぁと感心です。わたしにとってはむずかしい計算を整理してかんたんな計算でまちがいなく正解を得られる魔法の概念であります。
  • 普段、ふれる事のない学科のセミナーはとてもおもしろかった!!
  • 「数学」という言葉の裏に隠れていた歴史を学ぶ事ができました。「数学」イコール「算術」だとおもっていたので、目からウロコでした。