みえアカデミックセミナー2017
放送大学 三重学習センター公開セミナー
「くだもの秘話」についての事業報告

開催日
2017年8月17日(木曜日)
開催場所
三重県文化会館1階 レセプションルーム
開催時間
13時30分から15時30分まで
講師
放送大学三重学習センター 客員教授・三重大学大学院教授(生物資源学研究科) 平塚 伸さん
参加人数
126名
参加費
無料

「みえアカデミックセミナー」は県内の高等教育機関との連携で生まれた公開セミナーです。毎夏、三重県総合文化センターを会場に、各校1日程ずつ、選りすぐりの先生に少し高度な学習をわかりやすくお話ししていただいています。2017年度は新たに1校を参加校に迎え、全15日程開催しています。前身となる「みえ6大学公開講座」から既に20年を超え、「みえアカデミックセミナー」としては、14年目となります。今後も皆様に期待していただけるようなセミナーをお届けしていきたいと思います!!

第11回目の放送大学三重学習センター公開セミナーでは、放送大学三重学習センター 客員教授・三重大学大学院教授(生物資源学研究科) 平塚 伸さんを講師にお招きし、身近な存在だけれど意外と知られていない果物について、その役割や形成・成熟の仕方について講演いただきました。



 

何気なく普段口にしている果物には、長い時間をかけて美味しいものが食べたいという人間の工夫が隠されていました。

果物の歴史
遊牧時代においしい果実を採集して食べるようになり、やがて定住化が進むと今度は美味しい実を付ける樹を採集して植えたり、種から育てたりする栽培化が進むようになり、現在になるとより美味しい果実をつける樹を保存・交配するようになる選抜・育種の時代になったという、果物と人間の歴史についてお話しいただきました。
続いて日本と果物の関係について、日本原産の果物が実はほとんどなく、ニホンナシとクリだけで、モモ・ウメ・スモモ等は日本書紀に記述は見られるものの当時は観賞用だったこと、カキやダイダイ・甲州ブドウといった日本原産と思われがちな果物は大体1世紀から1180年頃にかけて中国から伝わったもので、それ以外の主要な果物はほとんど明治以降に輸入されたものだと先生が説明されると受講生の皆さんからは驚きの声が上がっていました。


果物の分類・品種
果物の分類方法について、「リンゴ」を例に説明され、自然分類という方法で種類を分けると「植物界-被子植物門-双子葉植物網-バラ目-バラ科-リンゴ属-リンゴ種-ふじ、紅玉等」という呪文のような分類になり、果物にはとんでもない数の種類があることを語られました。品種についても、「在来品種」、「偶発実勢品種」、「人口交雑品種」、「突然品種」、「珠心胚実生品種」があり、さらに同名異種(ブランド名)・異名同種(地方によって名前が違う)という場合もあるという、果物の品種の複雑性について説明されました。

果物の栽培について
種を蒔けば、基になった親と同じ状態のものに成長する野菜と違い、果物は苗や種子繁殖では同じ性質を持ったものを育成することが出来ないため栽培が難しいことを語られました。そして、三重の「幸水梨」と千葉の「幸水梨」は実は同一個体であるという驚きの事実を語られ、その理由はナシやリンゴ、ウメなどは自家不和合性という性質を持ち他家受精(自分の花粉を受け付けず別の受粉樹からでないと受粉しない現象)のため、「幸水」の種子を播いても「幸水」の実をつけないことを説明されるました。その為、全ての果樹類は接ぎ木、挿し木取木でしか繁殖出来ず、全ての品種は一本の樹から成り立っていることを説明されました。この現象は、自分では動くことのできない植物が同一個体・同一系統の遺伝子ではなく、他の遺伝子を取り入れることで自身の子孫を残すという進化の過程で獲得した性質に由来するというもので、遺伝形成の説明もしていただきました。

果物は種から同じ性質を持つものを作れないけれど、ひょっとすると親の実よりも美味しい実をつける樹が出来る可能性も秘めており、そうなったら一攫千金ですねと時にユーモアを交えて講演いただきました。。

講義内では、休憩中に受講生の方から質問された2つの疑問について回答される時間がありました。
1.果樹と野菜の違いは?
ただし、日本と諸外国ではその区別の方法が違い、例えば「イチゴ」は日本では実は果菜類と呼ばれる野菜に分類され、諸外国では果物に分類されるという意外な事実を教えていただきました。大まかに果物は多年で何度も採集が可能なものを指し、一方果菜類(野菜)は基本一年勝負で、一年経つと枯れてしまうものを指すそうです。この為、地上部分が枯れても根は生きており、次の年も収穫可能な「イチゴ」は
諸外国では、収穫後も苗をそのままにしておいて、何度も収穫するのに対し、日本では品質を維持するため一年経ったら別の苗に植え替えるという栽培方法の違いが影響しているというお話に受講生の皆さんは意外そうな顔をされていました。

 2.果物の遺伝
栽培過程において綺麗に遺伝子の性質が混ざるのが「野菜」で性質がきれいに混ざらないのが「果樹」であるとまず説明がありました。その例として、赤いリンゴ「フジ」の雌木と青いリンゴ「王林」の雄木を掛け合わせた際に出来る果実の色は何になるか?という質問に対しては、実は全ての果実が赤い「フジ」になり、これは果樹の遺伝が母系形質になることによるものだと説明されました。その一方で種については、雄・雌木全ての要素が含まれているため、その種を育てても何が出来るかわからないという果樹の性質を分かりやすく説明されました。
果物の詳しい遺伝的機構や果実には収穫してすぐ食べられるものと、収穫後追熟しなければ食べられない果物があり、そういった現象も樹への負担を減らしたり植物ホルモンが影響していると紹介されました。

最後に、有名なガンジーの「食べることは殺生である」という言葉を紹介され、はちみつとミルク以外に唯一殺生することなく自然が向こうから「食べて下さい」と言っている極めて神聖な食べ物だと語られてこの日の講義は終了されました。

梨の人工授粉が専門の平塚先生は久居の梨作りでも活躍されているそうです。
講義終了後はたくさんの受講生の方が質問されていました。身近な内容がテーマだったためか皆さん興味津々な様子でした。

参加者の声

  • くだものの秘話とても面白く拝聴しました。果物大好き人間としてなにげなく口にしているフルーツに感謝です。
  • すべての品種が一本の樹から栄養繁殖するので、三重の幸水と遠い別の地の幸水が同じという話には、ビックリ。納得でした。
  • 身近なフルーツのことなのでわかりやすい。楽しかった。
  • 知らないことがいろいろと知れて良かった。自分でも果樹は育てているがもっとその果樹のことを知ってしっかり育てたいと思う。
  • 毎日食べるくだものについておもしろくお話がきけました。「野菜」と「果樹」の違いなど知っているようでよくわかってなかったコト等自分なりに理解できたと思います。