みえアカデミックセミナー2017
鈴鹿医療科学大学公開セミナー
「ロボットスーツによる脳卒中リハビリテーション」
についての事業報告

開催日
2017年8月9日(水曜日)
開催場所
三重県文化会館1階 レセプションルーム
開催時間
13時30分から15時10分まで
講師
鈴鹿医療科学大学 保健衛生学部 理学療法学科 助手  山口 和輝さん
参加人数
61名
参加費
無料

「みえアカデミックセミナー」は県内の高等教育機関との連携で生まれた公開セミナーです。毎夏、三重県総合文化センターを会場に、各校1日程ずつ、選りすぐりの先生に少し高度な学習をわかりやすくお話ししていただいています。2017年度は新たに1校を参加校に迎え、全15日程開催しています。前身となる「みえ6大学公開講座」から既に20年を超え、「みえアカデミックセミナー」としては、14年目となります。今後も皆様に期待していただけるようなセミナーをお届けしていきたいと思います!!

第10回目の鈴鹿医療科学大学公開セミナーは、理学療法士でもある保健衛生学部 理学療法学科 助手  山口 和輝さんを講師にお招きし、近年注目されている新しいリハビリテーションの活用や、従来のリハビリテーションとの違い、最新のロボットを用いた治療法について講演いただきました。

 





脳卒中もリハビリの方法次第で回復すると語られると、皆さん驚いたように興味深く聴いていらっしゃいました。

可塑性
まず、人間の体にある神経の種類についてご紹介いただきました。その中で中枢神経に当たる人間の脳は生命・身体活動において、状況判断を常に行い他の神経へ指示を出し続ける指揮者の様な役割を果たしていることを「走る」という動作を基に分かり易く説明していただきました。
続いて、リハビリにおいては「可塑性(物質が外部からの入力に対応して変形適応する事)」が重要となると語られました。神経系に起こる可塑性には「脳の発生・発達段階でみられる場合」、「老化や障害時に消失した神経の機能単位が補填回復される際にみられる場合」、「記憶や学習などの高次の神経機能が営まれるための基盤となる場合」の主に三つのケースがあることを紹介していただきました。
 


神経系科学研究の歴史
神経系の研究について、どのような研究がされてきたのかについて2大巨匠であるスペインの神経解剖学者カーハルのニューロン説とイタリアの神経学者ゴルジによる網状説を紹介され、このうちカーハルが1928年に唱えた「損傷を請けた成人の中枢神経は二度と再生しない」という説は長い間神経科学の壁となり、この説を基に「残された部位を鍛える」ことがリハビリの理論として成立したことを説明されました。そして、脊髄を損傷したアメリカの俳優が電気刺激の運動をによって中枢神経に影響が出たことが確認され、ついに70年後の1998年に、生涯を通じて新しくニューロン(神経細胞)が生み出されていることが明らかになり、ニューロンは決して再生しないという定説が覆ることになったと説明されました。
神経科学の発展により現在は、神経科学に基づいた「ニューロリハビリテーション」、治る前提でリハビリを行うことに変化したことを語られました。そして、神経は使えば使うほど脳の使用領域が増える「使用依存性脳可塑性」を持つことが確認されたため、その考えは日常生活では使えるから使わないという悪循環(学習された不使用)を改善し、運動麻痺に陥っている部位を集中的に訓練することで機能回復に役立ていることを説明されました。

トレーニングかエクササイズか?
「トレーニング」は、筋力など量的に増減があるものを、「エクササイズ」は、技術的・質的に上手・下手があるものを指す言葉でそれそれの目的によって練習に必要な回数が異なると語られました。トレーニングでは質を重視し、練習が少ない回数でも良いことに対し、エクササイズの場合は量を重視し練習の回数は多ければ多いほど良いため、リハビリテーションにおいては出来ない動作を出来るようにする=パフォーマンスを変えることを目指し、筋力の向上とともに筋肉の動かし方を学ぶ必要があり、トレーニングとエクササイズのどちらの要素も重要になってくるため、効率よく行うためにはトレーニングとエクササイズの違いを知っておくことが重要だと語られました。その上で、リハビリを行う人の症状が麻痺が重いことが原因で「動かない」のか、筋肉があるのに「動かし方が分からない」のかを見極める必要があるとも説明されました。

専門的なお話ながら、パワーポイントや写真を活用しながらとても分かりやすく説明して戴きました。

ロボットリハビリテーション
たくさんの補助が必要な人に対して、人力ではどうしても手が足りないことが理学療法士の悩みであり、その補助の為に開発されてきたのがリハビリテーションロボットで、現在の代表的な2種類のロボットを例に、それぞれどのような目的で活用されているのかについて紹介していただきました。そして、あくまでもリハビリを行うのは患者自身であり、一般的に使用され「ロボットリハビリテーション」という言葉では、ロボットがリハビリをしている印象になるため、「リハビリ用ロボット」という方が正しいイメージが伝わるのではないかと語られました。

 さらに、ロボットというと漫画やアニメの影響もあり何でも勝手にしてくれるというイメージが持たれているがと前置きされ、リハビリにおける「患者」・「ロボット」・「理学療法士」の役割を野球に例えられて説明されました。それによると、「ロボット」はバットで「患者」は選手にあたり、どんなに優秀な道具を持っていても選手が努力しなければ成績は上がらず、その選手の基本動作をコーチするのが「理学療法士」にあたると説明されました。そして、ロボットリハビリテーションにおける理学療法士の役割として、どのくらいの量でどこの箇所を助けるのかを見極めることが大切だと語られました。理由としては、助ける力が大きすぎれば楽にはなるが患者自身の頑張りを阻害し、結果的にリハビリテーションが上手くいかないことにつながるり、その見極めはロボットでは行う事が出来ないとても重要なことだと語られました。
そのことは、ロボットだけのリハビリーテーションと理学療法士が関わったリハビリテーションを行った場合を比較した際、人が関わった方が効率よくリハビリテーションを行う事が出来たという実験結果を紹介され、ただ動かせばいいのではなくアシストする量が大切だと証明されたと語られました。

近年、再生医療やリハビリロボットについて注目の高まりから、患者や学生、その親から「再生医療が実現すればリハビリは必要なくなるのでは?」とか「ロボットが普及するとPT(理学療法士)は必要なくなるのでは?」といった質問が増えてきたけれど、全ての症状に効くリハビリテーションの方法はなく、上手くいっていないところやどこの筋肉を助けるのかといった、専門的な知識を有した人の手は必ず必要なこと、そのうえでリハビリロボットの効果・適応を明確にし、オーダーメイド医療が促進されていくことが望ましいと語られ、この日の講義は終了となりました。

話題のロボットスーツHALの行動原理について、静止画像のように人の動きを判断するため、人の工夫によって活用しなければいけないと受講生の方に説明されました。
終了後の個別質問では、最後まで熱心に質問される受講生の方もみえました。

参加者の声

  • 非常に興味深い内容でした。来てよかったです。医療従事者ですがもっと先生のお話をききたいと思いました。今回のセミナーの内容を今後の仕事や生活に活かしていきたいと思います。ありがとうございました!!
  • はっきりと講演してもらっているのでよく理解出来た!!脳の刺激→リハビリで回復が少しでも出来ると嬉しいです!!希望が持てる講義でした!!
  • 資料があることで講義内容もわかりやすかった。ロボット使用においてどれだけ効果がでるのか、これからの発展に期待したいと思います。悪くなった部分を再機能させていくようにしていかなくてはなりませんね。ありがとうございました。
  • 脳研究の進展は聞いていたが、このような形で医療応用されていることが知れてよかった。科学の進歩が人間生活の向上に寄与することを期待したい。
  • ロボットの力を利用したリハビリについて、100%ロボットの力という誤解があると知りました。リハビリにおけるPT(理学療法士)さんのすごい力をみたことがあるので、PT(理学療法士)さんには今後も頑張ってほしいと思っています。