みえアカデミックセミナー2017
皇學館大学公開セミナー
「人とつながる、本でつながる~本の魅力と可能性を地域のなかで考える~」についての事業報告

開催日
2017年8月4日(金曜日)
開催場所
三重県文化会館1階 レセプションルーム
開催時間
13時30分から15時30分まで
講師
皇學館大学 文学部 国文学科 准教授 岡野 裕行さん
参加人数
86名
参加費
無料

「みえアカデミックセミナー」は県内の高等教育機関との連携で生まれた公開セミナーです。毎夏、三重県総合文化センターを会場に、各校1日程ずつ、選りすぐりの先生に少し高度な学習をわかりやすくお話ししていただいています。2017年度は新たに1校を参加校に迎え、全15日程開催しています。前身となる「みえ6大学公開講座」から既に20年を超え、「みえアカデミックセミナー」としては、14年目となります。今後も皆様に期待していただけるようなセミナーをお届けしていきたいと思います!!

第8回目の皇學館大学公開セミナーは、文学部 国文学科 准教授 岡野 裕行さんを講師にお招きし、「本」とはそもそも何なのか?という概論や、コミュニティ作りに本を活用している様々な事例について講演いただきました。

本とは何か?という素朴な質問から、人と人とのコミュニティの形成というお話になっていきました。

1.本とは?
まず初めに、本の定義について、国際的な基準としては表紙を含まない49ページ以上の印刷された非定期刊行物であることを説明された上で、もっと自由に世界そのものが図書と言っていいのではないかという考えを語られました。
そして、本来は著者の考えが読者へ一方通行に伝えられるはずの本という存在が、共通認識を生みコミュニティを育むことができるツールでもあることを、ビブリオバトルを例に説明され、そして、本は価値観や考え方の多様性を育む本の持つ役割の大切さについても語られました。

2.本棚とは?
本棚と聞くと一般的に、タイトル順やジャンル・出版社順など規則的に分類されているイメージがあるかもしれませんがと前置きされた上で、店主個人の価値観や好みで分類され本棚に並べられた書店や、「本棚」に並べれば何でも「本」になるという逆転の発想で、レトルトカレーを本と一緒に棚に並べて「カレーの本棚」を作った書店の試みなどを紹介され、私たちの想像以上に「本棚」は多様性に満ちていることを説明されました。
また、実際に見て触れる存在だった「本棚」が、新しいメディアやツールの登場によりその定義も広がりを見せ、SNSを活用して個人宅やカフェの一角に設けた本棚を紹介したりするなど自分の趣味をさらけ出すセミパブリックなものになりつつあることを説明されました。

3.本屋とは?
「書店」と「本屋」の違いとは、「書店」とは単なる空間であり「本屋」とは人であり媒介者であると説明されました。そして、不便だからこそ便利さを知り、不便を良いこととして捉える「不便益」という考えを活用し、本の魅力を高める試みを実例を基に紹介されました。偶然の出会いを演出するため、全ての書籍を袋詰めして並べている書店や、文庫本を葉書として活用する書店、とても小さい規模にもかかわらず毎日トークイベントを開催する本屋など、様々な本屋の活動について紹介されると受講者の方も驚いていました。大型本屋が「みんなのための店」であるために「誰かのための本屋」でもなくなっていることに対して、逆に「私だけの本屋」ということが意味を持つ時代になっていると語られました。

4.図書館とは?
誰が本を選んだか分からない図書館と誰が選んだか分かる図書館ではどちらが魅力的か質問され、これからの図書館では人と人の出会いを創出することが大事なのではないかと語られました。そして、1フロアの図書館内で子どもたちが勉強したりワークショップや議会も開催されたりする長野県小布施町の図書館や地元の専門的な図書館として陶磁器コレクションを図書資料として扱っている岐阜県多治見市の図書館について紹介されました。

5.人を知るための本
「人を通して本を知る、本を通して人を知る」という考え方で、ワークショップ(体験)も本であるとして、ワークショップを主体にした本がない図書館もあることを紹介されました。そして、近年話題になっているビブリオバトルについても説明されました。ビブリオバトルに参加することで、書籍情報共有機能・スピーチ能力の向上・良書探索機能・コミュニティ参加機能が高まると語られました。そして、先生も携わられた伊勢市で開催された「一箱古本市」についても紹介されました。

本にまつわる様々な実例をご紹介いただく度に、皆さん熱心に頷かれたりメモをされたりしていました。

6.まちを知るための本
ウィキペディアを活用した学生たちの活動を元に、「まち」もたくさんの情報から出来ていることから「まちも本である」という考え方を紹介されました。

7.未来をつくるための本
一点物の資料や音声データなどのデジタル化の活用について紹介されました。広島や長崎・沖縄の戦争についての証言や写真を集めたデジタルアーカイブや災害についてのデジタル検索など実際の資料サイトを元に説明され、町の資料は自分たちの手で映像資料を作成し、残すという活動が若い世代に広まっていることを語られました。

8.まとめ
最後に、「本」とは紙の本に記されたものだけを指すのではなく、私たち自身のことでもあると語られました。本を読むことは人とつながることであり、本屋の仕事の本質は特別な事ではなく私達にも今すぐ実践できることであり、自分=本と考え、講義後にはぜひたくさんの本を読んで誰かと感想を言ったり、記録したりして本を通して誰かとつながということを私たち一人一人が実践してみてほしいと語られてこの日の講義は終了しました。

開講前に岡野文学部長に大学案内を行っていただきました。
個別質問では、講義中に紹介された一箱古本市やビブリオバトルについて熱心に伺っている受講生の方もみえました。

参加者の声

  • 「一箱古本市」どこかでやってみたいと思いました。どこかで誰かとつながることはすてきですね。
  • 私は本が大好きで図書館には度々入り浸りになります。膨大な本を前にまるでアリになったような気分になります。コミュニケートが苦手なのですが、本を読むことが人とつながるという話を聞いてちょっとホッとすることができました。ひと言伝えることで誰かとつながる…ようにしていきたいです。
  • 本のイメージが広がりました。市立図書館をよりよいものにしていく市民の動きをつくろうとしていますがとても刺激をうけました。
  • 図書館学の本流からの最新情報を興味深く知ることができて楽しかったです。記録を残すことの重要性を感じました。
  • 非常に知的好奇心が満たされた時間でした。ありがとうございました。「まちライブラリー」、「川口市メディアセブン」、「津ぅのドまんなか~」など貴重な情報を知ることが出来て嬉しく思います。身近な人やfacebookで今日知ったことを伝えたいと思います。