上野千鶴子さん講演会
人生のターニングポイント ~夢と現実の間で~
夢みるゆめ子ちゃんと壁ぶちあたり子ちゃんへ

開催日
2011年6月4日
開催場所
三重県総合文化センター 大ホール

フレンテまつり2日目に開催!
会場の定員数を超えるお申込をいただき、多目的ホールから文化会館大ホールに会場を変更しての開催となりました。

ホール内の写真

上野さんの講演内容から一部をご紹介します。

「おひとりさま」へ ようこそ、おかえりなさい!

 『おひとりさまの老後』(法研・2007)は、もともと「負け犬」である自分のために書いたような本です。「負け犬」というのは作家の酒井順子さんが作った言葉で、「夫なし・子なし・30歳代以上」の人のことを指します。これから、子どもに頼ることの出来ない老後を迎える。それをどう過ごしていけばいいかっていう、自分自身のために書いたようなものだったんです。ところが、それに共感してくださる方がたくさんいた。私のようなずーっとシングルの方だけじゃなくて、お連れ合いと離別・死別された“シングル・アゲイン”のおひとりさまが思いのほかたくさんいらっしゃったのです。私くらいの年代になりますと、続々とこういう方々が出てきます。人生の中で結婚か非婚かの別々の道を歩んできたのは、ほんの一時のもの。「おひとりさまにようこそ、おかえりなさい」というような気持ちでこういう“シングル・アゲイン”の方たちをお迎えしております(笑)

夢みるゆめ子と壁ぶちあたり子

 いつか素敵な恋をして、私の人生をガラガラポン!とリセットしてくれる男性が現れると信じている。その男性をひたすら待つ、待機の時間を過ごしている“夢みるゆめ子ちゃん”な「アラフォー」の人たちがたくさんいます。いつリセットボタンを押すことになるかもわからないのでライフプランが立てられない。このアラフォー世代は少子高齢化の先駆けです。晩婚化・非婚化・少子化。さらにパラサイト・シングルが多い。親も、そういう娘を許容している。最近では、一人だけ子どもを持つなら娘のほうがいいという親が増えています。介護要員としての娘の期待値が上がってきてるんです。娘のほうも、打算があって、帰ったら、据え膳上げ膳。主婦つきオヤジライフですね(笑)親の思惑と娘の打算のマッチング。でも、私は今日びの若い女性をみると「大変だね」という気持ちになります。学歴やいい会社に入ることも望まれ、親の期待を背負って息子同様の社会的な成功を手に入れなきゃいけない。息子だったらそれだけでいいけれど、娘は女としての幸せも同時に手に入れなきゃいけない。彼女たちは二重の負担を背負って押しつぶされそうになっています。

ずぅーっとシングルでOK? ― YES、OK!

 「アラフォー」世代の方によく相談されることがあります。「ずっとおひとりさまでした。私はこのまま結婚しなくてもいいんでしょうか・・・不安です」。心配しなくても大丈夫。おひとりさまの暮らしは、あなたのよく知っている暮らしです。そして、多くの人に必ず来る暮らしです。自分のお金や住まい、時間、そして自分が自分で居られる仲間など「おひとりさま資源」を持っておけば大丈夫。おひとりさまはずっとつるんできました。なぜなら、弱者だったからです。私たちがこれから作ろうとする社会は、強者になって生き残る社会じゃない。大震災があって誰がいつ弱者になるのかわからないと皆が気付きました。弱者になっても、安心できる社会が必要です。弱者はつるみ、助け合い、支え合います。誰もが安心して弱者になれる社会を、女性も男性も繋がり合って作っていくことが大切なのです。

会場では・・・

 講師の話にうなずきながら、また時々笑い声をあげながら、楽しんで講演を聞く参加者の様子が見られました。アンケートを見ると、若い女性やアラフォー世代。子育てを終えられた方、定年後の人生を考えている方など、老若男女さまざまなステージにいる人々が一堂に集う機会になりました。

カフェトーク

カフェトーク写真
上野千鶴子さんの写真

 講演後、上野さんを囲んでカフェトークを開催しました。
 おいしいお菓子とコーヒーを飲みながら、講師を交えて語り合いました。
 短い時間でしたが、参加者それぞれの意見や感想が出され、上野さんからは鋭くユーモアあふれたアドバイスやコメントをいただきました。

あなたにとっての「壁」はなんですか?

 アンケートで「あなたにとっての『壁』はなんですか?」と質問したところ、
一番多かった回答は「家族(夫・妻・親 等含む)」、その次に多かったのは、「自分(の心や気持ち)」、「経済状況」、「社会・慣習」「結婚」「仕事」「老後」などでした。
 「壁を乗り越えようとする力が、生きるエネルギーになるのかも」「壁にぶち当たってもその度に立ち止まり、考えて、成長できる」などの意見もありました。

上野 千鶴子 さん(社会学者・NPO法人ウィメンズ・アクション・ネットワーク理事長)

上野千鶴子さん画像
撮影:岡戸 雅樹
富山県生まれ。京都大学大学院社会学修士課程修了、2011年3月まで東京大学文学部大学院人文社会系研究科教授。専門は、女性学とジェンダー研究。この分野のパイオニアであり、指導的な理論家のひとり。主な著書に『近代家族の成立と終焉』『ナショナリズムとジェンダー』『家父長制と資本制』『おひとりさまの老後』『男おひとりさま道』『ひとりの午後に』『女ぎらい-ニッポンのミソジニー』など多数。

参加者の声

  • 「アラフォー」ですが、上野さんのお話を聞いて、胸のつかえが降りたような気持ちになりました。
  • 20代でまだ結婚しておらず、いわゆる「パラサイトシングル」ですが、主婦付きオヤジライフの言葉が的を射ていて、吹き出してしまったのと同時にこれからの自分の生き方を見直そうと思いました。
  • 弱者が弱者として生きられる社会が必要だな、と感銘を受けました。