特定非営利活動法人 全国女性会館協議会 第57回 
全国大会 IN 三重
「今こそ、Personal is Political(ジブンの問題は社会の問題)~これからの私たちに必要な視点とアクション」

開催日
平成25年11月2日(土曜日)、3日(日曜日)
開催場所
三重県男女共同参画センター「フレンテみえ」多目的ホール他

 男女共同参画社会の形成の促進に寄与することを目的に全国の女性関連施設が加盟するネットワーク「特定非営利活動法人 全国女性会館協議会」の全国大会が、11月2~3日、三重県で初めて開催されました。
 
 この大会は、会員相互の情報交換・意見交換と研究協議の機会を目的として年に1度行われています。例年、女性関連施設にとって最も関心のあるテーマを採りあげ、ホールイベントや分科会などを企画していますが、今年はフレンテみえ・三重県との共催で、フレンテの年間テーマでもある「Personal is Political(ジブンの問題は社会の問題)」を主題に、様々な企画を行いました。大変盛り上がった大会の様子をご紹介します!

全国大会会場の様子

対談「自分が選んだ道を進むために必要なこと」

 オープニングイベントでは、脚本家の大石静さん、劇作家・演出家・二兎社主宰の永井愛さんのお2人による夢の対談が実現しました!
 一緒に劇団を旗揚げしたお2人の懐かしいエピソードから創作に必要な視点や裏話、そしてドラマや映画、演劇などの作品を通して様々な男女の生き方を描いてきたお2人から、今の社会を生きる人たちへのメッセージまで、たくさんのお話をいただきました。

既成の価値観をうたがってみる

大石:私は、永井愛さんと劇団を作り、その後テレビの仕事をするようになったのですが、書くことを生涯やっていきたいなと思っています。テレビドラマの場合は、この俳優さんを主役に考えてほしいと発注されることもありますし、制約も少なくないのですが、当たり前の常識や社会通念を疑ってみるまなざしというのは必ず出したいと思っています。主役に託さなくても、脇役でも何かちょっとはみ出した生き方をしているとか、視聴者がドキっとするような違った価値観を投げかけてみたいと思っています。当たり前に正しいと言われていることが本当に正しいのか。政治に対してもそうですけども、長いものに巻かれて流されていけば何とかなるという考えがいかに危険か、一人ひとりが自分で考え、何をどう選択するか、考え続けなければならないと思いますから。恋愛だってそうです。テレビドラマはエンタテインメントですが、既成の価値観を打ち破るような作品を書きたいと思っています。

檀上の大石さん

男社会の演劇界で二兎社を旗揚げ

永井:昔の演劇界はリーダーっていうと男性だったんですよ。必ず男性リーダーのもとに劇団員が集まる。だから私たちも最初は何となく男性リーダーを求めていた。しかし、その男性リーダーが本当に指導力があるかっていうと、何とも情けない場合もあるじゃないですか。怒って灰皿を投げる姿に迫力があったとしても、それが指導力とは言えない。でも、そういうパワーをどこかで認める「男社会」の中で、おまえたちはダメだってずっと言われ続けていたんです。劇作も、最初はある男の人に頼んで書いてもらい、私たちはこの男性に頼ってやっていこうとしたんですよ。そしたら二作目で逃げられちゃった。これまでは男に頼るしかないと、一応そう思ってやってきたけど、自分たちでやるしかないんじゃないかという気持ちが芽生えた。かと言って、リーダーシップには自信がなく、ほかに劇団員を入れると仕切られてしまうような気がした。それで、劇団員は私たち2人だけ、あとはすべて客演にして、2人で主宰していくことにしたんです。そうしたら、恐れていた困難にも、あら、意外と立ち向かえるじゃないって。そうやって、一つずつ戦う中で、少しずつ下駄をはずして、ちゃんと地面に立ったんだと思います。

対談中のお二人

70代の恋愛と男女の賃金格差はつながっている

永井:日本はずっと国連から男性と女性の賃金の格差について是正勧告を受けていたり、男女平等の達成レベルが世界136カ国中105位だって聞くと、とってもがっかりしちゃうけど、この日本しか知らない女性は、日本は先進国だから、これが世界基準だと思っている。そういう日本女性の状況を当たり前のこととして受け入れてしまうと、かえって自分の可能性を狭めちゃう。それはもったいないなと思います。私は男女の恋愛に、男女の賃金格差が影響しないとは思わないんですよ。女性も男性と同じ働きをしたら同じ賃金を払って当たり前という意識が普通になって初めて、女性は若さやルックス以上のもの、その人間性を重視されるようになる。ロマンスグレーの男性に恋する女性がいるように、70代の白髪の女性に恋する男性が増えるかもしれない(笑)。格差是正は、基本的には制度を変えなきゃいけないけれど、女性が自らの可能性に対して自覚的になって、実力をいろんな場所で見せていく。そういう行動が周囲を説得すると思いますね。そのためにも女性が実力をたくわえて、魅力的な大人になるっていうことが、すごく大事かなと思います。

作品制作の現場で

大石:私が脚本を担当したあるドラマの話ですが、私は主人公のヒロインが仕事を持つことで自立し、活き活きとしていく姿を、ドラマの最後に描きたいと思っていました。しかし放送されたものは、そのヒロインは仕事を捨て、漁村のような田舎町で好きな男と生きることを選ぶというものでした。実は私の最初の脚本では、ヒロインは仕事を貫いて輝かしく生き、都内でその男と暮らしていくというエンディングだったのですが、男性ディレクターは「それではラストシーンが絵になりにくい」と言う意見でした。ドラマというのは脚本家だけのものではなく、同じ重さで監督のものであり、役者のものでありますから、そこは撮影現場を仕切り、役者に演技をつけ、映像として完成品を作るディレクターの意見に従いました。
 それがみんなで作るドラマの宿命でもありますが、放送後、なぜあのヒロインは仕事を捨てたのか? という視聴者の反応は、多くありました。愛する人としあわせになれて本当によかったという反応も、多かったですが。・・。愛ちゃんは「あなたもっとつっぱりなさいよ」と言うと思うんですけど、作・演出の愛ちゃんと、脚本だけの私とは、またスタッフとのつき合い方も違うので・・・むずかしいですね。
永井:私も最終回を見て、何で海の傍で主婦業やってんだと思ってね。静が最初に言った方がずっといい。ずっと共感する。

参加者へのメッセージ

大石:「制度」というのは全ての人のチャレンジに応えられるよう、差別なく整備されていないとならないと思います。しかし、良き母、良き妻、良き仕事人でなければ、一人前ではないという世の中の空気に、逆に女の人が不自由になっているとも感じます。そんなにたくさんのことができなくても、ひとつを貫く人もいていいわけです。若い人たちは、母であり、妻であり、そして仕事を持った“すてきな女性”になるために精神の軸が崩れるほどに頑張っていますが、そうした既存の価値観を一回はずして、自由に、自身がどう生きたいかを考えてみた方がいいと思います。
永井:私は“個人の魅力”ということを最近すごく考えます。制度の不平等は、それを無くすように言論で訴えていくことが不可欠ですが、「誰もが生きやすい世の中をつくろうよ」とか、「女性の賃金が低いのはおかしい」とか、「不当解雇はおかしい」とか、そういうことを訴える言葉自体が今、意外と通らなくなっている。「正しいことは言えば通じる」という思い込みは、考え直さなきゃいけないなと思います。本当に心から思うことを伝えようとしたときに、どういう言い方をしたら相手のハートに届くのか。「正しさ」に安住しないで葛藤する中で、個人の魅力は磨かれ、人を惹きつける言葉が生まれるのではないでしょうか。そういういろいろな個人の魅力が、社会を変える原動力になっていくのだと思います。
青木:私たちは、「男女共同参画社会」を説明するとき、どのように説明するのか、言葉に迷い、すごく苦労してきました。正しい説明をしようと言葉にこだわりすぎたのではないでしょうか。今、お話を聞いていて、言葉のみではなく、演劇や音楽など伝える手法があったんだ、女性関連施設としてさまざまな手法を取り入れていくこともこれから考えていきたいと思いました。演劇や、ドラマ、音楽は、そんな想像力を豊かにしますね。
 私たちは、センターで大勢の人々に出逢います。地域の拠点施設で働くということは、さまざまな生き方、そして人生に出逢って、豊かな想像力で、一人ひとりの人生をセンターにあたたかく迎え入れ、地域でともに暮らすことだと思います。そこから何かが生まれそうです。

この「対談」のほかにも、全国大会IN三重では様々な企画が行われました。

 初日には、全国の女性関連施設が男女共同参画社会の実現に向けて行った優秀な事業企画を表彰する「第7回事業企画大賞」表彰・事例発表の後、内閣府、復興庁、文部科学省、全国女性会館協議会の担当者から「男女共同参画と防災・復興」についての取組や最新情報が報告されました。2日目には、事業企画、広報・情報発信、相談、マネジメントをテーマに4つの分科会を開催。また、この他にも全国からお越しの皆さまに三重県総合文化センターをご案内する館内ツアーや、センター内レストランでの情報交換会も実施しました。
 2日間を通して、女性関連施設職員だけでなく一般参加者の方も含め約350名の皆さまにご参加いただき、各企画を通して様々な、そして大変実のある意見交換や情報交換、交流が行われました。この全国大会、来年は青森で開催の予定です!


参加者の声

対談参加者の方々より

・素晴らしい出演者の方々の対談がとてもおもしろかったです。
・大石さん永井さんの話すべてにうなずきっぱなしでした。選択の自由、社会がこうだから、にとらわれない、自分のあり方を選びとっていこうと感じました。
・お二人の話に元気をもらいました。普段考えてみないジェンダーについての問題に気づくことができ良い時間が持てた。

会員館参加者の方々より

・このような男女共同参画とは一見したらテーマが違うような切り口の対談が必要だと思います。
・同じミッションを持つ全国の方々と思いを共有でき今後の仕事への励みになりました。課題は様々で困難なことも多くありますが、皆さんが頑張っていることを知り自分も頑張ろうと前向きな気持ちになれました。
・顔をあわせて情報共有、ネットワーキングする場は大事であることを実感しました。分科会での意見交換、全体会での各分科会の報告もいろいろと得るところがあり有益でした。


ゲスト紹介

大石 静(Shizuka Oishi)

脚本家。
劇団二兎社を経て、86年に「水曜日の恋人たち」でテレビドラマの脚本家としてデビュー。以来、オリジナル作品を中心に多数の脚本を執筆。97年NHK朝の連続TV小説「ふたりっ子」では向田邦子賞と橋田賞をダブル受賞、08年WOWOW「恋せども、愛せども」では芸術祭優秀賞を受賞。10年、大人の女性と17歳年下の男性との恋愛をリアルに描いた「セカンドバージン」(NHK)は、男女問わず多くの反響を呼んだ。その他の代表作として「功名が辻」(NHK)、「クレオパトラな女たち」(NTV)、「長男の嫁」(TBS)、「アフリカの夜」(CX)、「四つの嘘」(テレビ朝日)など。

永井 愛(Ai Nagai)

劇作家・演出家。
81年、ともに卯年生まれの大石静と二人で二兎社を旗揚げ。 91年の大石退団後は二兎社主宰。身辺や意識下に潜む問題をすくい上げ、現実の生活に直結したライブ感覚あふれる劇作 を続ける。海外でも注目を集め、『萩家の三姉妹』『片づけたい女たち』『こんにちは、母さん』など多くの作品が翻訳・ リーディング上演されている。その他の主な作品に『こんばんは、父さん』『歌わせたい男たち』『ら抜きの殺意』など。 紀伊國屋演劇賞個人賞・鶴屋南北戯曲賞・岸田國士戯曲賞・ 読売文学賞・朝日舞台芸術賞秋元松代賞などを受賞。
進行:青木玲子さん (独)国立女性教育会館情報課客員研究員、和光大学非常勤講師