雨宮処凛さん講演会
「三重県女子に告ぐ!雨宮処凛の生き方幸福論」

開催日
平成25年6月8日(土曜日)
開催場所
三重県男女共同参画センター「フレンテみえ」1階 多目的ホール
講師
雨宮 処凛さん(作家・活動家)

 複雑な現代社会の中で、生きづらさを抱える女性・若者がたくさんいます。

 「この生きづらさって何だろう?」

 既存の価値観に縛られず、生き抜いてきた作家・活動家の雨宮処凛さんを講師に迎え、彼女の「生きかた幸福論」や「生きづらい現代社会の構造」についてお話いただきました。
 会場には生きづらさを抱える女性や若者、その親世代の方、雨宮さんの書籍の読者など多くの方にご来場いただきました。
 講演内容の一部をご紹介します。

雨宮さん講演

インタビュアーの石阪督規さん(左)と雨宮処凛さん(右)

生きづらさを抱える不安定雇用者・フリーターの長期化

 94年~99年まで私自身もフリーターをしていました。91年にバブル崩壊があって93年に高校を卒業し、いい大学に入ってもどうなんだろうと思った。頑張ったら報われると思っていたら、努力は報われなくなった。
 当時フリーターになるのは自分が悪いんだと思っていたし、本人が好きでフリーターをやっているとか、自己責任論で捉えられる社会背景がありました。
 実際は95年に日本経済団体連合会が働く人を3種類(長期蓄積能力活用型、高度専門能力活用型、雇用柔軟型)に分けると提言していて、1.幹部候補生正社員か2.専門スキルが高い派遣社員か3.使い捨て型の人に雇用者は分けられているんです。そして98年には派遣法改正があって、10年後の2005年頃にようやくワーキングプアなどの問題が社会問題になってきた。
 私はどの世代も恵まれているとは思わなくて、社会に階層ができていることが問題だと思います。

生活保護

 単身女性の3人に1人が貧困(月に93,000円以下で生活)で、単身高齢女性65歳の52%以上が貧困です。『生活保護』についてみんな知らなさ過ぎだと思います。知らないから負の情報しか入ってこない。バッシングされる不正受給は0.4%で受給者の8割は高齢者や障がい者、傷病者です。
 最後のセーフティネットである生活保護。ワーキングプアの人は働いても支給額以下しか稼げない。受給者をバッシングしたくなる気も当然わかります。そんな色々な人の不満を利用し、世論を盛り上げて、生活保護の引き下げを行ったのは、すごく意図的だと感じます。
 生活保護は、実はけがや病気などで、誰もがお世話になるかもしれない制度です。特に低賃金・失業前提の非正規の人は人生のどこかで生活保護をうける可能性を覚悟していないといけません。

どうすればいいのか

 生活保護も含め、今後生き抜くためには、自分の生存ノウハウをためておいて、自己防衛能力を上げるしかないんです。ブラック企業で違法な扱いを受けていると知ることで怒れる。労働法や不当な解雇のこと等、知識を身につけておく。「労働法」幼稚園(笑)で学ぶということも東京でやっています。そして生活保護の申請方法を知ったり、利用に対する自分の「心の壁」を越えるのも重要です。

今の若者に対して

 「怒る」ということにはすごいエネルギーが必要で「自分はこんな目にあっていい人間じゃない」という最低限の自己肯定感がないと人は怒れないんです。今の若者は競争社会で自己肯定感を奪われてブラック企業に怒れない人もいる。
 「もう黙っていないぞ!」と不安定層が声をあげているのがプレカリアートデモです。私は2006年のメーデーでプレカリアート問題を初めて知って、今まで「心の問題」だけで見ていた生きづらさの背景にある色んなことがすごく鮮明になりました。
 生きづらさの背景には、社会の構造がある。競争社会で勝ち抜かないと価値がないとされ、「普通に働いて、普通に生きること」は現在では一部の人にしかできなくなっています。
 正社員と非正社員で対立しても実はどちらも得をしない。過度な競争社会の元で不安定を強いられている人々、プレカリアートには実はほとんどの人が含まれているんです。
 プレカリアート運動では「無条件の生存の肯定」が最大のスローガン。「生存」は競争に勝ったり価値を生み出したご褒美として与えられるものではなく、無条件に与えられるものです。どんなに貧乏でも役立たずでも堂々としていていい。一種の開き直りで生きていこう!デモ活動は自己表現の場で、精神バランスを保つために必要なことだと思います。
 世の中を変えるには選挙という手段がある。若者の投票率が低いと批判するよりも、彼らから政治について考える時間を奪っている社会を、憂慮するべき。社会の方がそんな若者に政治について考えてもらう時間を保障するべきです。

生きづらさを乗り越える

 私も元々自己肯定感は低かったんです。でもそれだと生きづらいから、「無条件の生存の肯定」を無理やり自分のスローガンとしました。自分への期待値が下がって、自分がどんなにどうしようもない状況・人間でも、何も満たしていなくても、大丈夫と思えるようになりました。他人にも自分にも甘くなって何となくダメになった気もする(笑)けど、それも含めてまぁいいかと思えるようになりました。
 実際、人に迷惑をかける・かけあう機会が増えます。現代は「人に迷惑をかけるな」という圧力がものすごく強いけれど、「適度な迷惑をかけあう」のが当たり前の人間関係だと私は思います。
 インドでは「お前は人に迷惑をかけて生きるんだから、ほかの人のことも許してあげなさい」という言葉があるそうです。人に迷惑をかけるから、人のことも許せということ。とてもいい言葉だと思います。
 無条件な生存を無理やり肯定する、そして開き直ってしまう!というのが私が生きやすくなったきっかけです。

講演中の雨宮さん
講演中の雨宮さん2

一番エールになった話

 アンケートで「一番エールになった話」を質問したところ、「自己肯定感」の話や無条件に生存が肯定されるということや、最後のインドの言葉を記入される方が多くいらっしゃいました。


雨宮処凛さん近影

雨宮 処凛 (作家・活動家)

1975年、北海道生まれ。
00年、自伝的エッセイ『生き地獄天国』で作家デビュー。 
著書は『すごい生き方』、『ワーキングプアの反撃』(福島みずほと共著)『小心者的幸福論』など多数。現在は生活も職も不安定さに晒される人々「プレカリアート」問題に取り組み、取材、執筆、運動中。 07年に出版した『生きさせろ! 難民化する若者たち』は、JCJ (日本ジャーナリスト会議) 賞を受賞。 「反貧困ネットワーク」副代表、 「週刊金曜日」編集委員、 「フリーター全般労働組合」組合員、「こわれ者の祭典」名誉会長、最新刊に『14歳からわかる生活保護』。

参加者の声

  • 適度に迷惑をかけ合ってよい人間関係、自己肯定の解釈…など、今までにあまりきかない自然な形の講演で、参加できて良かった。
  • すごい勇気になりました。
  • 生きづらい社会の背景がよくわかった。
  • 対談式の講演会が良かった。石阪先生がインタビュアーでわかりやすく話をまとめてくださり良かった。