私の苦しさ、全部母のせい?

開催日
2024年6月8日(土曜日)
開催場所
三重県男女共同参画センター「フレンテみえ」3階 セミナー室C
講師
フェミニストカウンセリング堺・フェミニストカウンセラー 加藤伊都子さん

娘として、母親との関係にもやもやする、「あんなお母さんじゃなかったらよかったのに」という思いを持つ人、「母・娘のあり方」に悩む女性はたくさんいます。

フェミニストカウンセラーで母娘関係の第一人者、加藤伊都子さんにお話を伺いました。

娘たちに向けたあたたかく優しい講師のお話を要約してお伝えします。

お母さんがくれなかったもの、くれたもの

お母さんがくれなかったものは何なのか、それは、自分が存在してもいいんだ、自分はこの世にいていい大事な存在、特別な人間なんだという思いです。自分は大事な人間だと自分で思えること、そう感じられる経験を母親からもらえなかった。そして、対人関係の知識や訓練もです。

私のことは私が決めていい、私がいいと思うものが私にとってはいい、自分は自分であっていいという感覚。これもおそらく与えられていない。これは、否定されると身につかないものです。自信とか自尊心、ここにいてもだれも私を攻撃しない、否定しないという安心や安全の感覚。これが持てていない。ということは、生きづらさに対してはこれらを手に入れればいいということです。

母親が“くれたもの”は何か。これを考えていくことに意味がある。くれたものの中にいらないものがあるんです。それを捨てましょう。

楽しんでいる自分に罪悪感を覚え、受動的で自発的に行動できない、周囲の期待に応えようと無理をしがちで言いたいこと・やりたいことがあっても我慢してしまう。「あなたは駄目だ」というメッセージばかりもらってしまった。非難と侮辱、たれ流される文句と苦情、繰り返される説教。役に立たない通俗道徳を教えられ、厳しすぎる評価とルール。合格点は決して出ません。

ジェンダーと母娘関係

この社会は「ジェンダー格差社会」と言われています。「男ジェンダー」と「女ジェンダー」では差があるんです。用意されている席も違う。女ジェンダーである娘に用意されている席を娘が蹴っ飛ばして男ジェンダーの席に座ろうとしたら、娘はバッシングに遭う。それも辛いし、こんな風に娘を育てた、といって母親自身も責められます。ですから、娘をジェンダー社会に適応できる女性に育てなければならない。その責任は母親に負わされています。この社会が娘に期待する役割は「家の中の女手」の一人として母親を助け、支えること。また、家の中の情緒を明るく安定したものにする「若い女」役割。家庭内の空気を整えるキーパーソンとして、家庭内の女性に期待されている道徳・品行方正・家庭秩序の守り手として、いつの間にか訓練されるんですね。

その役割を果たすために必要な資質は、「他者のニーズ、機嫌を察知する能力」です。こういう行動様式を、女の人はトレーニングされる訳です。そして、これに適応してきた人が「お母さん」なんです。自分が人生の主人公ではない生き方をしなくてはいけない、「誰かを支える者、誰かに従属する者」として自分自身を位置づけ、そこに適応していく。そうすると自信と能力が失われていきますし、不幸や恨みが残ります。その恨みや不幸を娘にぶつけるわけです。

 

新しい自分になるためには

 母という女性の限界は自分の限界ではない。必要なのは「考えること」「感じること」「他者に自分を開くこと」です。他者に自分を開いてフィードバックをもらうことが大事です。何かを手に入れるためには何かを捨てることも必要です。母への怒りが収まらない人は、母を許していないんじゃなくて、自分を許していないのではないでしょうか。まず自分を許しましょう。

次に、母への怒りを手放すために、母という人の限界を知るということ。この母がどんな環境で育ち、どういう思いをしながら生きてきた人なのかを知ることには意味があります。大切なのは、他者からの肯定的なメッセージです。肯定的なメッセージを、自分自身、友人、知り合い等々から浴びるほど受け取ってください。

小さなうれしさや楽しさ、よかったこととか肯定的なことを記憶の中に留めておけるような「心の中の器」を持ちましょう。淋しさや虚しさはあって当然の感情として受け止めるけれど、そのことを握りしめ続けないで。

最後に

有意義さとか効率性、生産性とは無縁の、「そんなものはどうでもよい」という適度な距離の、 居心地の良い人間関係こそが必要です。

自分で自分に「OK」を。不要なお母さんの教えなんかは捨ててしまって、自分が楽なように生きていってください。

語り合いグループ

午後は希望者のみ、グループに分かれて講座の感想や自身の母娘関係について感じていることを語り合いました。

参加者からは

・話をすることで考えが整理されました。参加して本当に良かったです。今後自分次第でもっとラクに生きられるし、生きたいと思えました。

・とても良かったです。両親と会わなくなって長期間たちました。罪悪感を持たなくても良いのだと考えられて気持ちが軽くなりました。皆さんのお話をたくさん聞けて、辛かった過去をあるある話のように笑っておしゃべりできて楽しかったです。

・自分が今どう感じているかを大切に、自分を主体にした今後の人生を見つけたいです。

・母へ愛情を持ち続けることが苦しくて、もう頑張らなくても大丈夫なんだと一呼吸置くことができました。そして、そんな自分を許すことができました。何かと自分の意見を否定されてきたのですが、自分は間違っていないし、生きていいと思う気持ちが強く持てました。また参加させていただきたいです。

といった声が寄せられました。

参加者の声

  • 親との心理的な距離の取り方が分かったような気がした。もっと自己中な生き方をしてみます。
  • どう生きていこうか、模索する毎日の中でヒントをもらえた気持ちです。自分だけがしんどいのではないと思えました。
  • ずっと生きづらかったので、今日から変わる!という強い気持ちで受講しました。生きづらさの原因が分かったので、これから何を大切にどう生きていけばいいのか、受け止め方のポイントなど、たくさんのヒントをいただきました。
  • 小さな「うれしい」「楽しい」を少しずつ感じて、自分らしさを見つけていこうと思いました。