近藤サト講演会「あなたはどう老いるか」

開催日
2019年4月21日(日曜日)
開催場所
三重県文化会館 中ホール

例年たくさんの方にお越しいただいている、フレンテみえのファンファーレ事業。今年度はフリーアナウンサー・
ナレーター、日本大学芸術学部特任教授としてご活躍されている近藤サトさんをお招きし、「自然体で生きる」
ということについてお話しいただきました。その一部をご紹介いたします!

近藤サト講演会の様子
近藤サト講演会の様子2

老いに抗うのではなく、社会規範に抗う

 グレイヘアというか、白髪を染めないと決めて白髪を表に出し始めてから、色々なところでお話をさせていただくことが
多くあります。まず「年齢に抗わない、老いに抗わない。そういう風に思われたのはどうしてですか」と聞かれるのですが、
実はそこから違う。私は老いに抗わないで自然に生きているのではなくて、「こうありなさい」「こうあるべきだ」という流れ、社会規範に抗っています。
 私は「老い」というものを非常に良きこととして受け取っているので、「若くありなさい」とか「若い方がいいよね」とい
うような社会通念みたいなものには抗ってもいいのではないかと考えています。
 人それぞれではあるけれど、白髪が生え始めるのが50歳くらい。50歳で白髪になって、その後、残りの人生をどう生
きるかというのは、決して死に向かう老いの道のりではなくて、新しいステージへ向かう扉がたくさんある道のりだということをぜひ発見してほしいなと思っています。

白髪染めをやめたきっかけ

 私はいわゆる若白髪で、29歳くらいから白髪染めをはじめました。当時私はフジテレビのアナウンサーで、社会に求め
られるイメージに準じなければならないという、今から思えば非常に浅はかな考えのもとに白髪染めをしていました。
 そのさなかに東日本大震災が起こりました。未曽有の大災害のなかで私たちにもいろいろな影響がありました。そして
防災グッズをそろえようと思ったときに、自分で白髪染めができるよう、懐中電灯、カンパンなどの横に薬局で買った白
髪染めを置いていました。その時初めて、こんな大変な時に自分の白髪を隠そうと考える自分の浅はかな考えに愕然とし
ました。それと同時に、自分はそこまで追い込まれていたんだとも感じて、そもそもなぜ私はそこまでして白髪を染めよう
と追い込まれたのだろうか、ということを考えるうちに、白髪を染めることがばかばかしくなりました。

白髪を染めることも、
染めないことも同じくらい普通のこと

 まず一番身近にいる伴侶、子ども、親類縁者、友人などに認められることがグレイヘアの第一歩です。今日お越しになっている女性の方々が「私もグレイヘアにしようかな」と思っても、友人や家族が「いや、そんなの老けちゃうからやめておきなよ」と言ったらひるんでしまいます。身近な人間が同じことを思ってくれているということはすごく大事なことです。
 夫はキレイなロマンスグレーの髪をしているのに妻は真っ黒の髪というカップルもよくいると思います。それはそれで素敵ですが、そこにみんなが倣うことはないのではないかと思います。私は白髪染めをやめよう、という話をしにきたわけではありません。白髪を染めないという選択は白髪を染めるという選択と同じくらい普通のことだということを話しに来たのです。だから多様性、ダイバーシティとも言いますが、いろいろな選択肢があることをお伝えしたいだけです。

自分の新たなステージへ向け、シフトチェンジ

 私の大好きなリンダ・グラッドンという学者が言っている「ライフシフト」という考えがあります。これは人生を色々なステージにシフトしていくということです。私にとってのライフシフトは何だったかというと、まさに白髪、グレイヘアへの劇的なチェンジです。
 何が変わったかというと、新しい人的ネットワークができました。まさに今日こうしてお目にかかった皆さん、私が髪を黒
く染めていたとしたらこうしてお目にかかることはなかったと思います。新しいネットワークが増えるということは、とても
大きな財産です。時には新しいステージに進んだことで拒絶反応を示す人もいるかもしれません。だけど、私の白髪にい
いねと言ってくれた女性たちやメディアは、これまで私が一切知らなかった新しいステージです。そこに飛び込むことによっ
て、私の新しいステージを見ることができました。
 そして、今のこのステージを私は最後だとは思っていません。この次のステージにはいったい何があるのだろうと思うことで、この先私の未来はとても明るいです。

「選択すること」があなたの「意思表示」

 ジェンダーやフェミニズムの研究をされている方がよくおっしゃっていますが、#MeTooのように女性が勇気ある行動を
します。そうするとバッシングを受けてしまい、女性は未だに沈黙を強いられてしまいます。でもそれを変えていくにはまだ
まだ時間がかかります。
 皆さんの中には国を変えるなんて自分にはできない、と思っている方もいるかと思います。私もそうです。けれどそんな
私たちにも「意思表示」をすることができます。私にとってはグレイヘアにしたということがその一つです。つまり皆さん一
人ひとりが何を選択したかということで、ものを語らなくても、書かなくても、訴えなくても、人に対して自分の意思を明ら
かにすることができます。だから皆さんぜひ選択をしてください。そして「年をとって新しいことなんて無理」と思わず、
未知のことに対して貪欲であってください。そうすることで皆さん自身も固定観念に惑わされずに生きることができ、若い
方も自由に自分の人生を選択することができる社会になるのではないかと思います。

 世の中にある様々な社会規範に惑わされずに、自然体で生きる近藤さん。皆さんもこれまで「あたりまえ」
だと思っていたことを見つめなおしてみませんか。
 新しいステージに飛び込むことで、今までとはちがった景色がみえてくるかもしれません。

参加者の声

  • 古典の話や、白髪への経過の話、他にも社会に対しての話など興味深かったです。自分をしっかり持つことが、自然体でいることや豊かな人生につながるのかなと思いました。
  • 白髪のことでの講演でいろんなこと考えさせられました。日本という男性優位の国での女が意志をもって生きることの大切さを考えさせられました。
  • 同年代のサトさんの生き方、考え方に興味があり、参加しました。お話に共感する部分が多く、とても刺激を受けました。
  • 自然体で生きるということの意味の深さを知りました。とてもいいお話でした。