男女共同参画フォーラム みえの男女(ひと)2017
減災・復興と男女共同参画 地域・企業・行政がいまできること
(同時開催:「第30回農山漁村のつどい」)

開催日
2017年11月11日(土曜日)
開催場所
三重県男女共同参画センター「フレンテみえ」 1階 多目的ホール他

基調講演

佐谷 説子さん [内閣府政策統括官(防災担当)付参事官(普及啓発・連携担当)]

 内閣府が取り組む防災の目的は「国民の生命・財産を災害から守ること」ですが、これまでは「科学が進めば地震は予知できる」ということを対策の前提としていました。しかし、2017年9月に「(科学が進んだ結果)確度の高い地震予知は困難である」という重要な報告が出たため、新しい方法を考えなければならなくなりました。南海トラフなど大規模地震では被害想定も大きくなりますが、その前提だった地震予測が難しいなか、被害を少なくするための対策をどう立てていくのかは大きな課題です。

熊本地震から見えた「課題」

 日本の防災政策は絶えず見直しを行っていますが、昨年の熊本地震は大きなターニングポイントとなりました。地震の直後には、内閣府男女共同参画局から「男女共同参画の視点での避難所運営を」という指示を出し、内閣府職員が避難所を回って確認も行いました。これは新しい取組でしたが、政策は進んでいる一方で、新たな課題もどんどん見つかっています。

 まず、避難の形態が多様だったことです。指定避難所では足りず、ピーク時には800か所もの避難所ができ支援が届きにくいところもあるなか、在宅避難や車中泊をして物資だけを避難所に取りに来る方もいらっしゃいました。多様な避難者に対してどのような支援ができるのかが課題となったほか、被害の認定が遅れ、罹災証明がもらえずに支援が進まないということも起こりました。

 また、熊本地震では「関連死」が多かったことも特徴です。関連死は現在の認定数で199人と、直接被害の約4倍にも上ります。これは、これまでの災害ではなかったことで、「直接死を防いだ後にも戦いは続く」ということを示しています。

ジェンダーや男女共同参画の視点から、考えていただきたいこと

 1つ目は、「地域でできる防災対策は地域で」ということです。

 これから起こりうるとされる災害はたいへん規模が大きく、支援のすべてを行政に任せることは難しいことが予想されます。行政も対応できる限界を認識して「自助・共助」について訴え始めています。「自分・地域でできること」はそれぞれで対策を進める、その必要性について考えていただきたいのです。

 それには、これまで活動してきた「地域の力」を大切にしながら乗り切ることが重要です。日本は昔から地域がしっかり活動していて、その基礎は既にできています。ただ、その地域には「多様な人たち」がいることを前提にしなければいけません。「被災者」というとどなたも同じように見られますが、男性、女性、LGBTや外国人の方など、「多様性」に配慮したアプローチが大切です。

 2つ目は、「数字を集める」ということです。数字がわからないと良くなったかどうかもわかりませんし、人を説得することもできません。避難所で女性への対応が必要となっても、その避難所の男女比や妊産婦の人数等がわからないと、説得力に欠け、対策を進めるのが難しくなることもあります。また、避難所で起こる性暴力についても具体的な件数等は把握しづらく、そこで議論が止まってしまうことがあります。数字は、国が調べるよりも地域のほうが把握しやすいこともあるでしょう。このことも地域の支援活動のなかで取り上げていただけると嬉しいです。 

世界へ向け、日本から「防災と男女共同参画」の重要性の発信を

 日本はこれほど災害が多発している国でありながら、ジェンダーギャップ指数が114位と、男女の格差がとても大きいという先進国の中でも特殊な状況にある国です。他にはなかなか見られない条件のなか、この「ジェンダー、男女共同参画と防災」ということについて、情緒的ではなく科学的な証拠などをもって日本ならではのメッセージを発するということも、この国の在り方なのではないでしょうか。

 このことについてもぜひ、皆さまにもお考えいただきたいと思います。

基礎講話

浅野 幸子さん 
[減災と男女共同参画研修推進センター 共同代表/早稲田大学 招聘研究員/専修大学 非常勤講師]

 「災害」は、地震や台風などの自然現象(原因)が社会と出会ったときに引き起こされる被害の結果です。そして、その被害の大きさや対応力は平時の「社会体制」の影響によって変わるもので、さらに「性別」や「男女共同参画」「多様性」等の視点が大きく関わってきます。

 特に女性の視点には、子どもやお年寄りなど様々な立場のニーズが含まれていて、女性から深く意見を聞いたり女性もリーダーになったりしていかないと、外部から必要な支援が届きにくくなります。また、男性も困難を抱え、飲酒量増加や自死の割合が高くなるなどの結果も出ています。

 これまで災害対策は勢いと根性で進めてきたような部分もありますが、これからはしっかり男女共同参画の視点を持ったうえで科学的、合理的に取り組んでいかないと、救えるものも救えなくなってしまう可能性があります。女性や多様な立場の声を採り入れ、支援活動の「質」を上げていけるよう、普段からしっかり準備を進めていくことが大切です。

パネルディスカッション

コーディネーター

  • 浅野 幸子さん(減災と男女共同参画研修推進センター 共同代表/早稲田大学 招聘研究員/専修大学 非常勤講師) 

パネリスト

  • 松浦 信男さん(万協製薬株式会社 代表取締役社長)
  • 山本 康史さん(特定非営利活動法人 みえ防災市民会議 議長)
  • 坂三 雅人(三重県防災対策部 次長)
  • 長谷川 峰子(三重県男女共同参画センター「フレンテみえ」事業課長)
  • 佐谷 説子さん(内閣府政策統括官(防災担当)付参事官(普及啓発・連携担当))

 パネルディスカッションでは基調講演・基礎講話の話を踏まえ、企業・地域・行政・男女共同参画センターそれぞれの角度から、防災・減災・復興における「多様性の視点」「連携」について考えていきました。

 三重で起こるかもしれない大規模災害を見据えたとき、いかに被災した状況から命と健康を守りながら再建に立ち向かっていけるのか、その根底にあるのが「男女共同参画」「多様性」の視点だと考えます。平常時と災害時の課題をどう連結させ、多様性の視点を踏まえながら防災対策を進めていくか、様々な主体がどう連携していくかについて意見交換しました。

 松浦さんからは、阪神・淡路大震災で被災された教訓からの様々な取組紹介とともに、「働ける場所が地域にないと人はそこに住み続けることができない。企業の経営継続が人生の継続、家庭の継続、地域社会の継続になる。」「一人ひとりができる生き方のなかで人を助けようという気持ちを持つこと、自分の会社だけでなく、『社会』を考え生きるということがダイバーシティな生き方につながるのでは。」「相手の気持ちに立つこと、被災者の思いや心の部分に関しても議論できれば生きていく上でも役に立つのではと思う。」などとお話しいただきました。

 山本さんからは、被災地での事例から、「特定の人がリーダーシップをとることになると、その人が気づかなければ情報(ニーズ)のとりこぼしができてしまう。男女問わず色々な人が自分の価値観や問題意識を共有できる場所が必要。」「被災者もきちんと声を言葉にして説明するなどして『助けられ上手になる』(「受援力」を高める)と、多様な課題が目に見える形となり、支援につながる。」「自分のことは言いづらくても隣の人の代わりに声を上げたり、女性がおしゃべりで得た情報を共感だけで終わらせず『○○に困っている人が何人いる』と数字にして伝えたりすれば、そこに支援の取り組みが生まれる。」支援側として「相手の気持ちに寄り添うために最低限の方法やエチケット・知識を覚えることで、心を補強できる。」「被災した人は多様な分野の支援が必要。それぞれ支援の分野は分かれているが、一人の人にたくさんの方が関わるような社会をつくっていきたい。」などとお話いただきました。

 三重県からは、県の防災対策について、様々な関係機関と連携して漏れのない対策をとるようにしていること、多様なニーズを吸い上げてきめ細かい対応が可能となるよう訓練を定期的に行っていること、県の「避難所運営マニュアル策定指針」で男女共同参画や障がい者等多様な視点に配慮するよう具体的に項目を盛り込んでいること等について説明するとともに、「日頃から顔の見える関係づくりができていないときめ細かくニーズの吸い上げをすることが難しいため、日頃のつながりが大切だと考えている。」とお話しました。

 フレンテみえからは、「『多様性を大切にする社会』は『災害にも強いまち』になると考え、平常時から『男女共同参画の視点からの防災』の考え方の普及を目指し啓発に取り組んでいる。」また「知識を伝えて終わりではなく、その後どう現場に生かしていただくかが重要で、双方向から色々な視点が入るような関係づくりのためには地域の方や様々な機関とのつながりがより必要。」「過去の災害の中で、男女共同参画センターが関わった事例・経験をどうつなげていくかが重要である。」とお伝えしました。

 まだまだ各パネリストから話をじっくり伺いたいところでしたが100分はあっという間に過ぎ、最後は浅野さんから「今日の話を持ち帰り、皆さんがそれぞれの場所で今後の防災対策を考えていただきたい。」と締めくくられました。

ホールの様子1
ホールの様子2

参加者の声

  • 防災を考えるにあたり、女性が主となりということは今まで思ったことがなかったので、よい機会となった。
  • 防災から復興まで、女性からできる事の大切さがたくさんあることが勉強できた。
  • 男女共同参画、ジェンダー、避難所での問題と人権問題まで、気づきとやらなければならないことの考える場、再認識の場となった。