企業も人も幸せになる、これからのWork&Life Style

開催日
2016年11月6日(日曜日)
開催場所
三重県男女共同参画センター「フレンテみえ」 多目的ホール ほか

 介護しなければならなくなったとき、あなたはどうしますか?会社はどう対応しますか?
 現在、年間約10 万人もの方が介護のために離職・転職しています。4人に1人が高齢者の日本。誰もがもう無関係ではいられません。
 今年度のフレンテみえ『男女共同参画フォーラム』は、仕事と介護の両立について専門家をお迎えし、様々な側面から考えました。
 ここではニッセイ基礎研究所主任研究員の土堤内昭雄さんにお話しいただいた基調講演と土堤内さんにコーディネーターを務めていただいた、パネルディスカッションの内容をお伝えします。

基調講演

個人の希望を実現し、これからの時代を豊かに生きていくために

 日本は今、大変な人口減少時代を迎えています。2010 年からの5 年間で三重県では3 万9000 人減っ
ています。政府は「一億総活躍社会」によりこの人口減少社会を乗り越えていこうと「3 本の矢」を打ち
出していますが、そのひとつが「介護離職ゼロ」です。今、年間10 万人以上の人が介護で離職しており、
介護のために離職しなくてよい社会をどうつくっていくのかが喫緊の課題となっています。「男は仕事、
女は家庭」の意識が変わらず、「女性が仕事も家事も育児も介護も」に替わってしまったのでは長続きす
るはずがありません。個人の希望を実現し、これからの時代を豊かに生きていくためには、仕事との両立
(ワーク・ライフバランス)の実現が重要です。

基調講演写真1

「妻がやる」は通用しない。仕事と介護の両立は男性にも女性にも必要

 介護は団塊の世代が後期高齢者となる10 年後が問題です。75 歳を超えると要介護認定率は約7倍
となるため、日本は一気に大介護時代に突入します。ではそのときに誰が介護をするのでしょうか。
専業主婦世帯が多かったときは「妻がやります」が一般的に通用していましたが、共働きが増えたこ
ともあり、夫が親の介護に直面する事態が増えています。介護離職者は8割が女性で男性は2割です
が男性割合が上昇しており、今後、男性が介護の当事者になる割合はますます高くなってきます。数
年前まで、ワーク・ライフバランスというと「仕事と子育ての両立」でしたが、最近は「仕事と介護
の両立」についての関心が圧倒的に高くなってきています。介護をしている男性の65%が仕事をして
おり、有業の男性、女性がいかに仕事と介護を両立させていくことができるかが、今求められています。
 長寿社会は本来喜ぶべき社会です。ただ、日本は健康で過ごせる寿命(健康寿命)が平均寿命の伸びより低く、介護が必要な期間が増えて
きています。ただ寿命が延びるだけでなく、どうやって健康で長生きしていくのかが必要になってくると思います。

基調講演画像2

抱え込む男性、企業は経営問題

 東京では、経営問題として介護離職を扱うようになってきています。子育て中だと比較的若い社員が対象になりますが、介護離職の場合
は中高年の管理職が対象となります。若い人が組織を離脱することも大変ですが、管理職が企業を去った時、どうやって企業はその組織を
存続していけばいいのかが問題です。
 子育てと違うのは、実態がよくわかっていないことです。男性は抱え込んで言わないため周りの人は全く知らない事が多く、ある日突然「介
護離職」となります。社員がどういう状況になっているか、まずは周りが状況を的確に把握することが重要です。
 介護には様々なサービスがありますが、認定をとる必要があったり、申請などがわかりづらいため、社員の親が65 歳になったら説明会を
開く等、企業の中できちんと周知していくことも必要です。また、管理職が離職した場合どうやって事業を継続していくかを考えることも
重要です。
 「大介護時代」の到来に向け、真剣に取り組む必要がある時期に来ています。

パネルディスカッション

 後半では基調講演を踏まえて、パネルディスカッションを行いました。土堤内さんにコーディネー
ターを務めていただき、3 名のパネリストのみなさんと意見交換をしながら、介護離職について考え
ていきました。
 まず、平井さんから国が介護離職を防ぐために行っている取組のうち、「働く家族等を支える環境整
備」についてお話しいただきました。
 厚生労働省では仕事と介護の両立を進めるために、企業向けに両立支援対応モデルを策定したほか、
「介護離職防止支援助成金制度」を設け、企業での介護離職防止への取り組みを行うための支援を行っ
ています。さらに、育児・介護休業法も改正し、制度の拡充を図っています。しかし、制度の利用が
少なく、その要因として、これまで介護休業は93 日までの休業を一度しか取得できず、取得のタイミングが難しくて現状に合っていないということが
あげられました。今回の育児・介護休業法の改正により休業を3分割して取得できるようなりました。また、そもそも介護休業は様々なサービスを使い、
働きながら介護を続けられる準備をするための期間として使ってもらうための制度であるということもお話しいただきました。

パネルディスカッション画像1

 続いて、介護の現場で働く久保田さんからも、制度についてのお話があり、介護保険は介護をする人を助けるための制度ではなく介護を受ける人を
支援するための制度であり、結果としてそれが介護をする人の支援にもつながる、という基本的な考え方をご紹介いただきました。そういう考えでい
なければ、介護を受ける人の考えが置き去りにされたまま介護を行うことになってしまうそうです。その前提を踏まえたうえで、ケアマネージャーが
使うのが「レスパイトケア」(介護をする人が介護者から一時的に離れて、休息をとれるようにすること)で、実際に離職をするか悩む正社員の女性が
レスパイトケアをうまく使って離職せずに最後まで介護を続けることが出来た事例を交えて、ご紹介いただきました。
 また、介護保険を使おうとした場合、申請してから認定が下りるまでおよそ1か月かかる現状があるため、介護休業として取得できる93 日間を、認
定までの1か月間を何とか埋めるためにも使ってほしいとお話いただきました。そして、介護保険の申請手続きやサービス内容、活用方法など、わか
らないことは抱え込まずに、専門職であるケアマネージャーに相談してくださいとお話しいただきました。

パネルディスカッション写真2

 パネリストの平山さんからは、久保田さんからのお話しも踏まえ、男性は「自分はこの問題についてこのように困っているのでこのように助けても
らえませんか」というように、問題を明確にしてからでなければ相談することができない。介護をしている人は周りにたくさんいるのに誰も気づかな
いというのは、男性は自分の中で問題点が明らかになるまで人に話せないため、外からは見えないことが実はたくさんある、との指摘がありました。
 いま、高齢者が増えてきて人口構造が大きく変わっているため、介護にどう対応すればよいかまだ分かっていません。そのため自分たちが困ってい
ることを声を上げていくことは決して恥ずかしいことではなくて、これからの社会のために必要なことである、とお話しいただきました。
 最後にコーディネーターの土堤内さんから、今は昔と違って介護だけでなく、病気や育児などそれぞれの人
がそれぞれの事情を抱えて時間的制約を受けながら働いているとお話しいただき、例としてがんの治療をしな
がら働いている人が厚生労働省の試算では32 万人いるという現状をご紹介いただきました。そのうえで、働
くことは幸せになることと裏表の関係であり、「働きたい人がどんな事情があっても働いていける社会」、それ
が今後長寿社会のなかで幸せに生きていくためにとても大切なことではないか、とのメッセージをいただいて
締めくくりました。

参加者の声

  • 基調講演の内容が平易かつ数値を使ったものでわかりやすかった。まだ、広く知られた課題ではないが、大きな課題になることがわかり、様々な対応が必要であることがよくわかった。
  • これから親の介護が始まるなか、また、自分の老後や子どもとの関係を考えるうえで大変参考になりました。
  • 土堤内先生のお話、よくわかりました。男性の意識の問題にも気づきがありました。ありがとうございました。
  • 介護について家庭内での役割を改めて考えていきたいと思いますし、自分自身の介護を受けることも今から考えていきたいと思いました。また、仕事の中でも共有して発信していきたい。