思春期の「性」と「性暴力」

講演名
思春期の「性」と「性暴力」 子どもが自分を守るために 大人が子どもを守るためにできること
開催日
2015年11月21日(土曜日)
開催場所
生涯学習センター 2階 視聴覚室
講師
ウィメンズカウンセリング名古屋YWCA フェミニストカウンセラー 具ゆりさん         三重県警本部 警務部広聴広報課 被害者支援室課長補佐 警部 福田利章さん

 毎年、11月12日から25日の「女性に対する暴力をなくす運動」の期間に合わせて「女性に対する暴力防止セミナー」を行っています。今回は「性暴力」をテーマに、ウィメンズカウンセリング名古屋YWCA フェミニストカウンセラーの具ゆりさんと三重県警察本部警務部広聴広報課被害者支援室課長補佐の福田利章さんに下記のお話をいただきました。

 ちかん、セクハラ・スクールセクハラ、性虐待、レイプ、強制わいせつ、買春・・など、社会には性暴力があふれています。ちかんは暗い夜道だけでなく、昼間の人ごみの中で、電車の中でたくさん起こっているし、学校では、教師のわいせつ行為の実態も深刻です。最近ではJK(女子高生)という言葉を聞きますね。世の中がその子たちに価値を持たせて、市場を作っている大人がいます。これは子どもを利用した性的な搾取といえます。

 統計によると、性被害に遭った時期は全体の4割が10代。また、顔見知りからの被害は約4人に3人。子どもだけでなく、性暴力被害はどうしても相談しづらい問題です。見知らぬ人からの被害は事件になりやすいが、潜在化している(顕在化しにくい)のは、身近な人から受ける被害です。

 性的な被害を受けた時に、「恥ずかしい、なんとか我慢しよう、思い出したくない」と思い、誰にも相談できないことはよくあります。なぜこのようなことが起こるのか。被害を受けても、特に知っている人からの被害は沈黙を強いられているのです。加害者、被害者がつく嘘につながります。加害者は「自分はそんなことをしてない」と、自分を守るための嘘をつきます。一方で被害者は「そんなことされてない」と、加害者を守る嘘をつきます。これは加害者にとってどれほど都合がよく、卑怯なことでしょうか。

講演の様子

 また、恋人同士の間にも暴力が起こっています。彼氏・彼女の関係になると途端に束縛する、特別な関係だからと支配的になる。すぐに電話にでないと怒る 、服の好みを押し付ける、気にいらないと不機嫌になる、避妊をしない・・など、暴力的な行為がエスカレートする傾向があります。

 2009年の名古屋市の調査では、むりやり性的な行為をされた女子は、6.1%20人に1人です。

 また、別の統計によると、高校生では、約4人に1人の女子が性交を経験しており、大学生になると約半数。中学生でも付き合うとセックスをする子どもはたくさんいるのが現実です。

 高校生に「本当に嫌だったら、セックスをしないのか」と聞いてみると、「相手のことは好きでも、そこまでの気持ちはまだなかった」のに、彼の要求に応じた女子は多く、その一方で、男子は合意していると思っている。これは本当の合意とはいえません。「嫌だ」と言えなかった。相手の機嫌が悪くなるから、無視されるから応じたのです。こういうことは大人でも、夫婦間でもありますよね。年に20万件中絶件数がある中で、最も多い年代は10代。中絶しなくてはならないのは女性です。男性も避妊についての意識が低い。日本は性教育や性知識では、先進国の中では後進国なのです。

 このような状況にも関わらず、すべての学校で「性教育」を受け入れているわけではありません。「寝た子を起こすな。うちにはそんな生徒はいません。」そのように言われる学校や先生もいます。

 それでは、思春期の子どもたちに、私たちは大人として何ができるのでしょう。

 一つには、目の前にいる子どもたちに起こっている事実や困っていることに真剣に目を向け、信頼関係をもって話ができるか、ということ。私は、子どもたちに「いざという時は大人でないと力になれないこともあるから、本当に頼れる大人を探してでも見つけてほしい」と伝えています。

 私たち大人が、子どもたちが話をしてくれた時に、よく話を聞いて、何ができるのかをきちんと伝えること。性の話だからと大人が避けたり、嫌がったりしていることに子どもは敏感に気づきます。そうすると、それ以上話はしてくれなくなります。また、問題を過小にみることや、加害者を擁護するようなこともいけません。これは二次的な被害ですよね。

 「忘れなさい」と大人はよく言いがちですが、忘れるか忘れないかは本人次第です。「自分は悪くなかったんだ」と被害にあった子どもが思えること、子どもの意思を尊重しながら、望むことやしてほしいことができるかどうかです。PTSD、トラウマは、最近はずいぶん認知されてきた言葉ですが、性暴力被害ほど心身に深刻なダメージと影響を及ぼす暴力はないといえるのです。

 そして、子どもたちに伝えたいことは「自分は守るべき大切な存在だ」ということです。悪いのは、自分の欲求のために子どもを思い通りにして暴力的なことをしようとする相手。「あなたは悪くない」ということを子どもたちに本気で言えるか、です。

 どんな相手にでも嫌なことには嫌だと言っていいのです。自己尊重感の高い子どもほど、自分の感覚に疑いを持たず、自分の意思でNOを言えます。いざという時に自分を守る行動がとれるのです。

 つまり、私たちが普段から子どもたちとどんな関係を作っているかが、いざという時に大きく関係するのです。

 また、望まない妊娠を防ぐために、緊急避妊ピルがあるということも知っておきたい。

 子どもと接する人が、何かあったときに自分に何ができるのか、身近なところで子どもたちと信頼関係を持って話ができるのかが、大人としてできることとして、問われているのだと思います。

三重県警察からの情報提供

 性犯罪の特徴や警察での支援状況についてお話をします。まず、性犯罪被害者に対する偏見が世間には依然として存在します。例えば強姦神話です。「自分から挑発的な行動、服装をする人だけが、強姦被害に遭う」、「強姦は抵抗したら防げる、許容したのではないか」等といったものです。このような事実はなく、間違いであり、このような偏見を払拭することは、性犯罪の潜在化を防ぐためにも大事なことです。

 平成26年中、全国では1,250件の強姦被害、7,400件の強制わいせつ被害が報告されています。警察への申告率は、4.3%、どこにも相談しなかったという被害者は約7割弱という統計が出ています。

 なぜ相談しづらいのか、それは、面識のあるものからの被害が多いということも挙げられます。強姦被害の約半数が、親、きょうだい、親族や知人・友人等面識のある者から被害に遭い、特に家庭内で発生した場合は表面化しづらいことから、表面化した被害以外にも潜在化した被害が数多くあると推測されています。

 また、性犯罪は再犯率が非常に高いといえます。強姦罪受刑者の17%が出所後5年の間に再犯を繰り返しています。その他、性犯罪は、被害者に与える精神的ダメージ、二次的被害が大きいといえます。

 性犯罪は「親告罪」であり、被害者が告訴しなければ、加害者が裁判において処罰されることはありません。告訴するかしないかを被害者に判断させるのは負担が大きいということで、現在、法務省の審議会で性犯罪の非親告罪化に向けた検討が進められています。

 次に、警察による支援状況についてお話しします。ここ10年ほど、被害者や被害者遺族の声によって、被害者への情報提供、相談・カウンセリング体制の整備、被害者の安全確保など、少しずつ被害者支援施策がすすんできているところです。しかし、性犯罪被害者の声は潜在化しがちで、声にならないことがあります。その反面、声を上げる人は、過去の自分の被害に対する体験を語る中で、自らが受けた支援について語られることがほとんどない状況にあるなど、まだまだ被害者に支援の手が行き届いていないことを支援にあたっていても感じるところです。このような現状から、警察、教育、医療、家族、どの立場でも被害者にいち早く気づいて、被害者を支援機関につなげていき、被害者の精神的被害の軽減・回復を図っていくことに尽きます。

 全国でワンストップ支援センターが次々に設立されています。ワンストップ支援センターの設立は、性犯罪被害者の二次的被害を軽減し、誰にも相談できずにいる状況を改善するための取組です。三重県においても、「みえ性暴力被害者支援センター・よりこ」が6月から開設されています。様々な関係機関が連携を強くし、性犯罪被害者の支援を行っていくことが重要です。

 

参加者の声

  • 非常に関心のある内容であり、職務上必要な内容であった。
  • 子どもが置かれている現状が把握できた。相談される大人になれるように、子どもと関わっていきたい。
  • 被害者の支援は第一に必要です。加害者にならないための小さい頃からの教育が必要だと思う。