西洋美術史にみる女性像
若桑みどりさん講演会

フレンテみえでは、美術の分野から男女共同参画を考えるために、西洋美術史の第一人者・若桑みどりさんを迎え、講演会と意見交換交流会を開催しました。たくさんの美術作品の映像と鋭い切り口でのお話に、参加者からも「美術の見方が変わった」など大変好評をいただきました。講演内容から抜粋してご紹介します。
美術は表象 その時代と社会の女性観を抽象的に描くもの
家父長制社会の中の女性像
芸術に表されてきた男性像や女性像は、その社会における現実の男女の姿ではなく、表象です。絵は写真ではなく、その時代においてどんな女性が好ましかったか、社会のものの考え方を表しているのです。 男女の関係性を人類の歴史からみると、男性を上に
し、女性を下にするという家父長制社会が4千年ほど前に構築され、現在もその影響をみることができます。
西洋美術史の中で、なぜ女性が多く描かれてきたのか、裸の女性像や子どもを抱いている聖母マリア像が多いのかというと、美術の注文主(権力とお金を持つ王や政治の首長)、美術の作者、批評家、主たる鑑賞者はすべて男性であったからです。極めてわずかな例外を除いては、女性はそこに関与していませんし、創ってもいません。
女性が美術アカデミーに入学できるようになったのは20世紀後半で、日本では戦後のことです。「過去に偉大な女性芸術家がいなかった=女性に独創的な才能がなかった」ということではなく、家父長制社会の中で、制度的にも女性は芸術家になるべく期待されていなかったということがわかります。
1970年代以後、女性が創ってきた芸術
美術学校というものが女性に開かれ、女性が自ら芸術を創ることができるようになったとき、男性の視点から性的に見られるもの・子どもを産み育てるものとしてみられてきた状況から抜け出し、女性自身は女性をどうみているのかを主体的に示そうとしました。
産むことの現実、女性身体の現実、見られる男性など、男性がつくってきた女性イメージでないものを今、提示し始めたのです。これは、ひとつの革命的な時代であり、一方の性からみた芸術ではなく、これからは男女共に楽しんで観ることのできるようなものが作り出されることでしょう。
若桑さんがみる二キ・ド・サンファルの女神「ナナ」像
フレンテみえの正面には、ニキ・ド・サンファルという女性作家の作品・「ナナ」像があります。作品名にある「Temperance」は、節制・節度・中立・中庸・慎重という意味があり、フレンテでは「中庸」としています。明るい色彩と自由奔放なポーズは女性の自由と解放の象徴として、またフレンテのシンボルとして皆さんに親しまれています。今回の講演の中で、若桑さんからみる女神「ナナ」像について解説していただきました。


この作品は「慎重」という意味があり、生命の源である血が入った壷を両手に持ち、一つの壺からもう一つの壺へ「慎重に」移しているところを表しています。これは中世以来、「慎重」という美徳を表すときに、“一滴でもこぼしてはならない大事な液体をそうっと一つの壷から他の壷へ移す行為”をしている女性を描いて、「慎重」と言ってきました。それをニキが古い図像からとり、女性の子宮を表す壺から壺へ、生命と生命をつなげる姿をあの巨大な像に表現したのでしょう。
若桑 みどり さん

1935年、東京生まれ。
東京芸術大学美術部芸術学科専攻科終了。イタリア政府給費留学生としてローマ大学に留学。千葉大学名誉教授。2006年3月まで川村学園女子大学人間文化学部生活文化学科教授。
〈専攻分野〉西洋美術史、ジェンダー文化史。