平成20年度 女性に対する暴力防止セミナー
身近な暴力“殴るだけが暴力じゃない”改正DV防止法から考える
今年度は四日市市男女共同参画センターと共催で、女性に対する暴力防止セミナーを四日市市勤労者総合福祉センターで開催しました。毎年、11月12日から25日の「女性に対する暴力をなくす運動」の期間に合わせて行っています。
今回のセミナーでは、身近にあるにもかかわらずまだまだ理解されていないDVをテーマに、講演会のほか、県からの現状報告、「地域や学校で起きていること」についてのパネルディスカッションを行い、私たちができることは何かを考えました。
講演会 身近な暴力“殴るだけが暴力じゃない”~改正DV防止法から考える~
講師:戒能民江さん(お茶の水女子大学大学院教授)
講演会では、ジェンダー法学の立場でDVの問題に長年取り組んでこられた戒能民江さんから、DVなど女性に対する暴力について次のような話がありました。
はじめに
2001年にDV防止法が、超党派の女性議員により提案され成立した。この法律は、これまで家庭内の問題として放置されてきた配偶者からの暴力「DV(ドメスティックバイオレンス)」を重大な人権侵害であると明記し、国など公が取り組まなければならない問題であるとした画期的な法律であった。
DVの実態
統計によると、女性の20人に1人が「殺されるかもしれないと感じるような暴力を受けたことがある」と答えている。
暴力には、身体的暴力(殴る・蹴るなど)だけでなく、経済的暴力(生活費を渡さないなど)、精神的暴力(友だちや親などとの付き合いの制限・罵倒など)、性的暴力(セックスを強要するなど)がある。被害者の心身・生活・経済などへの影響は計り知れない。また、子どもの心身にも様々な悪影響を及ぼす。
しかし、被害者は逃げたいと思っても、加害者から追跡され危険な目に遭うのではないだろうかという恐怖、住居や就労をどうするのかという不安、子どもから父親や友人を奪うのではないかという罪悪感などのため、自力では逃げられずにいることが多い。
DV防止法
DV防止法は2度の改正を経て、国に対しては、DVの防止・被害者の保護に加え生活再建支援を含めた基本方針の策定を義務化し、都道府県・市町村に対しては、基本計画の策定(市町村は努力義務)を求めるまでに拡充してきた。
また、被害者の生命や身体に危害が加えられることを防止するために導入された保護命令も、身体的暴力を受けた場合だけでなく、生命や身体に対する脅迫があった場合にも申立てできるようになり、子どもや、親族、支援者にも接近禁止命令が出るよう改善された。
今後の課題
法は整備されてきたが、被害者の生活再建支援はまだまだ進んでいない。就労、住まい、精神的ケア、子どもの心身のケアなど課題は残っている。
県からの説明「三重県の現状と対応について」
説明者:藤野久美子さん(三重県健康福祉部こども局こども家庭室主幹)
三重県が実施した「男女共同参画に関する県民意識基礎調査」では、県内で約3%の女性が命の危険を感じるくらいの暴力を受けた経験があるというデータがあり、人口に換算すると三重県では2万3千人もの女性が深刻な暴力を受けていることになります。DVは一部の人に起こっているだけではなく、身近で深刻な問題であり、様々な関係機関とともに取組を継続していくことが必要ですとの説明がありました。
パネルディスカッション「今、地域や学校で起っていること」
コーディネーター:戒能民江さん
パネリスト :鈴木文子さん(四日市市婦人相談員)、北川睦さん(三重県スクールカウンセラー)
婦人相談員の鈴木さんは、実際に被害者支援をしている立場から、地域での現状の話をしました。その中で、性的暴力の被害者に調停委員が「こんなにきれいだから仕方ない」と発言したことがあったなど、DV法が成立したとはいえ専門家の間でもまだまだ理解が進んでいないことや、被害者は身体だけでなく精神的ダメージも大きく生活再建が難しいこと、外国人被害者の相談が増えているが、外国人の場合は言葉の壁があるだけなく日本の制度に馴染みが薄いため制度の理解が難しいなど具体的な問題点の指摘がありました。
また、スクールカウンセラーの北川さんからは、恋人間で起きる暴力である(身体的暴力・携帯メールでの束縛・セックスの強要など)デートDVについて、中学・高校生の現状をふまえた話がありました。DVと同様に表面化されにくいことや、暴力を受けているにもかかわらずその関係から離れられない被害者の心境や加害者の意識についての解説がありました。
そして、地域の人たちや教師たちに、DVやデートDVについて関心を持ち理解してほしい、被害者の人には相談窓口があることを伝えてほしいと、私たちができることの説明がありました。また行政にはこのような講演会を開いて啓発をすることや対応施策を具体的に一歩進めてほしいとの要請も出ました。
戒能 民江 さん
お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科教授
ジェンダー法学・家族法学専攻
<社会的活動・現職>
日本学術会議会員
財団法人横浜市男女共同参画推進協会理事
財団法人せんだい男女共同参画財団理事
神奈川県男女共同参画審議会委員
キャンパス・セクシュアル・ハラスメント全国ネットワーク関東ブロック事務局
人身売買禁止ネットワーク共同代表
比較家族史学会会長、ジェンダー法学会理事
日本法社会学会理事
<最近の主な著書>
『ジェンダー研究のフロンティア第1巻国家/ファミリーの再構築』(編著)作品社、2008
『DV防止とこれからの被害当事者支援』(編著)ミネルヴァ書房、2006