第1回 女性活躍推進法の施行について

1.女性活躍推進法の成立の背景

 日本は、1970年代から合計特殊出生率(一人の女性が生涯に生む子どもの数の平均値)が減少を続け、20年以上にわたり1.50を下回っています。14歳以下の子どもの数が少なくなるのと同時に、65歳以上の高齢者の割合が増え、「少子高齢化」という現象と人口そのものが減少する事態に至っています。
 人口の減少と高齢者比率の高い人口構成は、日本の将来に大きな不安をもたらします。
まず、労働力人口の減少、経済の縮小、税収の低下、そして医療、介護、年金などの社会保障費用の負担増など、現在、私たちが享受している安心で安全な生活が維持できなくなる可能性があるのです。
 国は、1994年に「エンゼルプラン」を策定して以来、継続的に少子化対策に取り組んでいますが、社会構造の変化等により、予想以上に少子化が進展してしまいました。少子化の原因や背景には、さまざまな内容がありますが、「若者の晩婚化と未婚率の上昇」、「教育費などの子育てコストの増大」とあわせて、「女性が仕事と子育ての両立をすることが難しく、仕事か家庭かの二者択一を迫られている」ことなどが挙げられています。日本では、子育て中の女性の就業率が低くなる特徴があるのです。
 興味深いことに、女性の就業率と合計特殊出生率の変化を国別にみると、女性の就業率が高い国ほど合計特殊出生率も高いという比例の関係を示しています。
 将来、不足することが予想される労働力を補うため、また少子化対策の一つとして、女性が子育てしながら継続して働き、能力を高めつつ、充実した職業生活を送ることができるよう、社会全体で雇用環境の整備を図ることを目的として、「女性活躍推進法」が施行されることとなりました。

2.女性労働の課題

日本の女性労働の現状には、次のような大きな課題があげられます。
(1)出産・育児期に離職し、育児がひと段落した後に再就職するパターンが多い。

女性の年齢階級別労働力率の推移
女性の年齢階級別労働力率の推移

(2)パート労働など非正規雇用者が多く、女性雇用者全体の約6割を占めている。

女性の年齢階級別就業形態
女性の年齢階級別就業形態

(3)昇進希望が少なく、管理職の女性の割合が低い。

就業者及び管理的職業従事者に占める女性割合
就業者及び管理的職業従事者に占める女性割合

などで、これらの問題は、すべて関連性があります。
 日本社会に根強く残っている「性別役割分担意識」の影響により、女性が育児・介護などの家庭責任を重く負っていることや、男性労働者を中心とする仕事優先の企業風土や長時間労働を前提とする働き方では、時間の制約のある女性は仕事と家庭の両立が難しく、第1子出産前後に退職してしまうことが多いのです。育児がひと段落した後も、家庭責任を重視して、フルタイム勤務や責任のある仕事を避け、非正規雇用を選択する傾向があります。
 途中で離職する可能性の高い女性は、企業から採用されにくく、将来的な育成の対象とされなかったり、また女性自身が仕事にやりがいを持てなかったり、昇進希望がないなどの事情により、管理職の女性が少ないといった状況が生じています。
 このような状況の改善こそ、女性の活躍推進のために重要だと言えます。

3.女性活躍推進法の概要

 女性活躍推進法では、国や地方公共団体とともに、民間事業主(一般事業主)に対して、女性の活躍推進の取組を責務として定めています。
 常用労働者数が300人を超える大企業に対しては、以下の4つの取組が義務付けられています。300人以下の中小企業に対しては、今のところ努力義務となっています。
(1)自社の女性の活躍に関する状況把握と課題分析
(2)状況把握と課題分析を踏まえた行動計画の策定と社内周知、一般への公表
(3)行動計画の都道府県労働局への届出
(4)女性の活躍に関する情報の公表
 個々の企業における女性の就労状況は様々であるため、何が課題であるかについて、自らが分析して発見することは、自主的な取組を促すうえで大変重要です。課題を解消するために有効で具体的な取組を検討し、定めた行動計画に沿って、着実に取組を進めることが求められます。
 行動計画の内容には、①計画期間、②取組目標、③取組内容、④取組の実施時期を含まなければならず、特に②の目標については、義務企業は必ず一つ以上数値目標を設定する必要があります。
 数値目標は、実数、割合、倍数など数字であればなんでもよく、企業の雇用管理の実態にあわせて、女性の採用拡大、職域拡大、管理職登用、勤続年数の伸長などのなかから、実情に見合った水準で任意に定めることができます。法律上、数値目標を達成するための努力義務が規定されていますが、達成されなかった場合でも罰則はありません。
 行動計画の策定とは別に、女性の活躍状況に関する情報を社会一般に公表することが義務となっており、これらの情報はインターネットの利用などにより、就職活動中の学生や一般の求職者が職業選択に際し活用することができます。企業にとっても、自社をPRし優秀な人材を確保するためのツールになります。
 女性の活躍推進に取り組み、一定の基準を満たした場合は、法律にもとづく認定(「えるぼし認定))を受けることができ、認定企業は「女性の活躍が進んでいる企業」、「女性が働きやすい企業」としてイメージアップを図り、そのPR効果によって優秀な人材を確保することが期待できます。

4.女性活躍推進法によって変わるもの

 女性活躍推進法は、キャリア志向の高い女性のみを対象としているのではありません。女性の就業意識はさまざまで、企業のTOPを目指す人もいれば、家庭や自分が価値や意義を感じるものを優先しながら働きたい人もいます。そういった様々な考えの女性が、その希望する形で働き、個性と能力を発揮しながら、生き生きと働くことができる職場環境を創ることを目指しています。
 そのためには、男女を通じた働き方の改革や社会全体の意識・職場風土の改善などが必要であり、そういった意味で、女性だけではなく、男性を含め、高齢者や障がい者などすべての人の働きやすさにつながります。多様な人材が活躍することは、企業にとっても企業競争力を高め、新たな価値の創造につながるなどメリットがあります。
 今後の人口減少社会を展望し、それぞれの企業に現在の雇用管理の在り方を見直し、将来を見据えたマネジメントを行っていただきたいと思います。

認定マークえるぼしの説明