第1回 女性がリーダーになるために必要な人間力

 日本の女性リーダーの割合は先進国の中で最下位という現状をご存知だろうか。下図の経済産業省のデータによれば、我が国における役員・管理職の女性比率は、10%強で先進国の中で最低水準(アラブ諸国と同水準)である。

管理職・役員に占める女性比率の国際比較

 一方、グラフでは同水準に見える韓国は、「積極的雇用改善措置」(2006年~)として、大企業に、女性管理職比率等の提出を義務付け、規模別・産業別の平均値の60%未満の企業に対して改善命令を出したところ、1%/年ペースで管理職比率上昇している(現在約16%)と経済産業省が発表している。日本では、大企業に女性管理職比率の提出を義務付ける「女性活躍推進法案」が昨年の12月に廃案となってしまったが、朗報もある。経団連が昨年の12月に女性の役員・管理職登用に関する企業ごとの自主行動計画を公開した。企業も本気で女性管理職を自主的に増やす動きが出てきたのである。それでは、女性が企業の中でリーダーになるためにはどんな能力が必要なのであろうか?第1回は、「人間力」=対人関係能力について検討したい。

1.女性がリーダーとして働くための心構え

 1986年に男女雇用機会均等法が施行されて29年が経過した。私は、均等法施行後の第一期生で1987年に大手システム会社にSEとして入社。入社後、配属された部署は、女性は私1人。リーダーは男性しかいなかった。でも、女性として区別されることなく、金融情報系システムの一部を構築することを任された。やりがいのある仕事だったが、キャリアチェンジのため退職を申し出た。プロジェクトリーダーだった親会社の課長(男性)は、退職させないために、半年間キャリア発達のための支援をしてくれた。「あなたを課長にしたい」という言葉はとても嬉しかった。1番印象深いのは、ロールモデルの女性課長とお会いする場を設けてくれたことだ。しかし、彼女は個性のない地味な女性だった。少し会話もしたが、私の意識を変えることはなかった。大手システム会社を4年で退職した後は、中小企業で数社働き、経営層と近い距離で仕事をしてきたが、その経験値からも女性リーダーの第一印象はとても重要だという考えに変わりはない。また、人間力は第一印象にも表れる。昨年の12月にグローバルトップ企業の女性リーダーと面談した時もそうだ。面談の前までは、通訳を通した電話会議のみで、彼女のロジカルで冷静な判断力、一方思いやりあふれた労いのひとことに尊敬の念を抱いていた。そして、実際お会いすると、身だしなみをきちんと整え、ひと目で記憶に残る品のあるネックレスを身につけ、握手を求めてきた。彼女はこんな人であろうという想像が、会ったときの第一印象とイコールになった瞬間にさらに彼女のファンになり、プロジェクトを成功させる決意ができたのである。つまり、女性がリーダーとして働く心構えとして必要な人間力は「常に、人の意識にプラスの影響を与えるコミュニケーション、行動、身だしなみ」である。そして、「常に」だと疲れるので自分自身のストレスマネジメントとして、「癒しの場をもつ」「自分のメンター(助言者)をもつ」「適度な運動をする」等も必要だ。

2.男性中心になりがちな管理職社会で女性が対等にふるまうために

 先に述べたように、日本の女性のリーダーの割合は極めて少ない。企業によっては、1%以下のところもある。そのような環境で女性が対等にふるまうためには、まずは、男性社会のルールを知る必要がある。1977年にアメリカで発売され全米で100万部を超えるベストセラーとなった、ベティ・L・ハラガン著/福沢恵子・水野谷悦子共訳「ビジネス・ゲーム」に基本原則が明確に書かれている。「ビジネスとはゲームである」と定義し、ゲームの基本ルールを知り、賢いプレーヤーとして目標にたどりつくための秘訣を伝えている。「自分の目の前の仕事だけに注意を向けるのではなく、組織のピラミッドの中で自分の位置を客観的に知らなくてはいけない」ということをさまざまな例を挙げて解説している。 

 当研究所の蔵書は、1993年に発行された訳書で、その中でひとつあげるとしたら、やはり「アサーティブ」である。アサーティブとは、積極的な自己主張、感じのよい自己主張、相手に反感を与えずに、自分のほしいものを手に入れることとも言われている。例えば、あなたが病児保育料補助制度を男性の総務部長へ提案したところ、「会社の売上が目標を達成していないので、コストを増やすことは、非現実的だ」と言って却下したとする。あなたは次の3つのどの選択をするだろうか。①提案を裏付ける資料を準備して総務部長と議論する、②男性にはまだ理解してもらえない、これ以上の議論は自分にとってメリットがないとあきらめる、③自分の意見や提案をすぐに却下せずに十分に考慮してほしいと総務部長へはっきりと伝える。

 答えは③である。しかし、「ビジネス・ゲーム」の「組織のピラミッドの中で自分の位置を客観的にしった」上では、②の場合もあるだろう。賢い自己主張=「アサーティブ」を身につけることが、男性中心になりがちな管理職社会で女性が対等にふるまうために必要である。

3.女性上司が新たな女性リーダーを育てるためには

 周りには、30代や40代の女性上司も増えてきた。これからは、女性上司が新たな女性リーダーを育てる機会が増えてくる。女性リーダー自身がメンターやロールモデルになるためには、自分を客観的に知る必要がある。ツールとして、当研究所のチェックシートを参考までに掲載する。5と4はいくつ当てはまっただろうか。自分を客観的に知り、強みをいかして女性リーダーを育てることも大切だが弱みも知り改善する必要がある。それはなぜか。多様な価値観をもつ人材には、個別に柔軟に対応していく必要があるからである。自分自身の弱みを積極的に改善できなければ、多様な価値観を理解することはできないであろう。なお、メンター、ロールモデルの必要性については、第2回で詳しく検討していく。

 以上、まとめると、女性がリーダーになるために必要な人間力は、「ビジネスルールを理解し、賢く自己主張しながら、多様な価値観をもつメンバーに個別に対応し、メンバーの意識をプラスに変えることができるコミュニケーション、ふるまい」である。

成功する女性のための10ポイント