第1回 「改正育児・介護休業法について(その1)」

1.育児・介護休業法の歴史 

 育児休業、介護休業に関する法律について、その歴史を紐解いてみますと、民間企業における育児休業は、1972年施行の「勤労婦人福祉法」において「育児休業等育児に関する便宜の供与」が事業主の努力義務として規定されたことが始まりです。1986年に、勤労婦人福祉法が「男女雇用機会均等法」に改められたときにも、事業主の努力義務のまま同法に盛り込まれました。
 育児休業が単独の法律となったのは1992年のことで、女性の職場進出、核家族化の進行等による家庭機能の変化、さらには少子化に伴う労働力不足の懸念等を背景に「育児休業法」が同年4月1日から施行されました。
 その後我が国は急速に高齢化が進み、介護の問題が大きくクローズアップされるようになりました。福祉サービスの充実と相まって、勤労者が仕事を失うことなく介護ができる仕組み作りを求める声が高まり、介護休業を育児休業と並んで法律に盛り込む改正が行われ、1995年10月1日から施行されました。
 その後もますます少子化・高齢化が進み、勤労者の仕事と家庭生活の両立支援対策の充実が求められる中、「時間外労働の制限」「深夜業の制限」「子の看護休暇」等の制度が追加されるなどの改正がなされてきました。

2.今回の育児・介護休業法改正の背景

 1966年(丙午)の年に、それまで2.0を若干上回る水準で推移していた「合計特殊出生率」が1.58にがくんと減りました。翌年には再び前年と同水準となったのですが、1971年~1974年の第2次ベビーブーム以降は毎年減少を続け、ついに1989年に1.57となりました。これは1966年の数値を下回ったとして「1.57ショック」と言われ、少子化の進行が国民の間にも大きな問題として広く認識されるようになりました。
 現在合計特殊出生率は1.37となっており、過去最低だった2005年の1.26より若干上昇していますが、横ばいとなっています。また、2005年には死亡数が出生数を初めて上回り、我が国は人口減少社会に突入したと言われています。
 さらに、少子化の進行と相まって高齢化も世界に類を見ない勢いで進んでおり、その結果、我が国の人口は2055年には8,993万人となり、総人口に占める65歳以上の割合は40%を超えると推計されています。
 こうした状況を打開するためには、結婚、出産の時期にあたる若年者の経済基盤の安定を図るとともに、子育てしながら働き続けることができる雇用環境の整備、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の推進を図ることが重要と考えられます。
 こうした背景により、育児・介護休業法が改正され、2010年6月30日から、一定規模以下の企業に対する一部の規定の適用猶予を除き、全面施行されました。

出生数、合計特殊出生率の推移

合計特殊出生率は横ばいだが出生数は減少している

合計特殊出生率は横ばいだが出生数は減少している

生産年齢人口の推移

20年後には生産年齢人口は57.5%となり、少子・高齢化が一層進行

20年後には生産年齢人口は57.5%となり、少子・高齢化が一層進行

3.育児・介護休業法改正のポイント

 今回の育児・介護休業法の改正ポイントは大きく2点あります。
 1つ目は「子育て期間中の働き方の見直し」、もう1つが「父親も子育てができる働き方の実現」です。
 それぞれの改正の背景や具体的な内容について、以下にみていきましょう。

「子育て期間中の働き方の見直し」

 我が国の女性の働き方をみると、出産、育児期にあたる30歳代層で労働力率が一旦落ち込む、いわゆる「M字型カーブ」を描いていますが、これは先進国では日本と韓国だけの特徴です。
 女性の育児休業取得率は、2009年には85.6%と、10年前(1999年)の56.4%に比べ大きく伸びていますが、一方、働く女性の7割近くが出産を機に退職しており、出産前後の就労継続の難しさがうかがわれます。

女性の年齢階級別労働力率

出産・育児期にあたる30~39歳層をボトムとするM字型カーブを描いている

出産・育児期にあたる30~39歳層をボトムとするM字型カーブを描いている

育児休業取得率の推移

女性の育児休業取得率は90%、男性は1%台と依然低水準

女性の育児休業取得率は90%、男性は1%台と依然低水準

依然として難しい女性の就業継続

 出産前に仕事をしていた女性の約7割が出産を気に退職しており、出産休業制度の理容は増えているものの、出産前後で就労継続している女性の割合は、この20年間ほとんど変化がない

図表

 こうした状況を改善するため、育児休業から復帰した後の働き方を見直し、仕事と育児の両立を容易にすることを目的として、「短時間勤務制度」を講じることなどが事業主に義務付けられました。

短時間勤務制度の義務化

 3歳未満の子を有する労働者について、1日の所定労働時間を原則として6時間とする措置を含む「短時間勤務制度」を設けることが事業主に義務付けられました。
 これにより労働者は事業主に申し出て勤務時間を短縮し、保育園の送迎その他、働きながら子育てする時間を確保することができるようになりました。
 なお、この措置は契約期間の定めがある方であっても利用できますが、

  1. 雇用されてから1年未満
  2. 1週間の労働日数が2日以下
  3. 業務の性質上又は実施体制に照らし短時間勤務制度を講ずることが困難な業務に従事する方

については、労使が合意すれば(労使協定の締結)対象外とされます。

所定外労働の免除

 3歳未満の子を養育する労働者が請求した場合、事業主は所定労働時間を超えて労働させてはならないこととなりました。
 この場合、法定労働時間は1日8時間(労働基準法)ですが、事業所の所定労働時間が7時間30分であれば、7時間30分を超えた労働が免除されます。

子の看護休暇制度の拡充

 子の看護や予防接種、健康診断のため、小学校就学前の子1人について年5日、2人以上では年10日の休暇を取得できることとなりました。
 この休暇は年次有給休暇とは別に取得できるものですが、給与を支払うかどうかは事業所の取り決めによります。

 次回は「父親も子育てができる働き方の実現」に向けた改正法の内容についてご説明します。

用語解説

三重労働局雇用均等室
男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、パートタイム労働法等を所掌する 厚生労働省の地方出先機関。都道府県ごとに設置されている「労働局」内  のセクション。
合計特殊出生率
1人の女性が一生の間に産むと考えられる子の数。

 三重労働局雇用均等室では、育児・介護休業法について、労働者や事業所の方からのご相談に対応しています。
 また、男女雇用機会均等法、パートタイム労働法も取り扱っていますので、お気軽にお問い合わせください。